第25話 ガスがなければ魔法をつかえばいいじゃない
驚きに目と口をあけているナターシャに、俺は勧誘の言葉を継いだ。
「ちょうど湯沸かしできる人材が欲しかったんだよ」
なんといっても
「冒険者として苦労してるんだろ? ウチもまだ全然稼げてないから、食事と寝床を提供するぐらいしかできない。でも将来的にはきちんと給料を払うつもりはある」
「ごはん……ねどこ……。しょうらいてきにはあんていしゅうにゅう……」
迷ってる迷ってる。
どうやら十分魅力的らしい。
今までどういう生活してたんだろうか。
「えっ、あの、でもここってダンジョンですよね!? ダンジョンに就職っていうのはちょっと……」
ダンジョンではない……。
「違うって。当館は健全な宿泊施設だ」
「?」
ハテナ顔するのやめてくれ。悲しくなる。
「なんの因果か地元民には激しく誤解をされてる上に、野蛮人が二日に一回は攻めてくるわけだが」
「やっぱりダンジョンなんじゃないですかぁ!」
「ダンジョンだったら捕まえた冒険者に食事与えて雇おうとしたりはせんだろ」
「それはそうかもしれませんけどぉ!」
ナターシャはまだ納得いかないのか、
「どうして私を雇おうと思ったんです? 見ましたよね? お湯が沸かせるだけですよ? 戦闘じゃ役に立ちませんよ?」
「別にナターシャには戦闘させるつもりはない。湯を沸かしてくれればそれでいい。さっきも言ったろう? 大量に湯沸かしできる人材が欲しかったんだよ。湯が出ない客室とかありえんだろ」
彼女の
「えっ? お部屋でお湯が出るんです?」
「麓の宿屋だと部屋には風呂無しなんだよな」
「それは勿論そうですけど……」
風呂があるだけで差別化できるなんてどんだけ楽なんだ
まあ、立地の不利が風呂だけで覆せるかはかなり怪しいところではあるが。
ともあれ、風呂を機能させるには湯が必須だ。
「俺はナターシャの魔法を見込んで当ホテルに就職してもらいたい。仕事さえしてもらえればそれ以外の時間はある程度自由にしてもらって構わない。どうだ?」
ナターシャはうんうん唸ったり、腕を組んで考え込んだりひとしきり逡巡した。
俺としては待つだけだ。
アイも無言。これはいつものことか。
気が済むまで悩んだ後、ナターシャは決断した。
「はい! よろしくお願いします!」
――異世界生活10日目、くらいだろうか。俺は風呂焚き要員を採用できた。
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