第256話 謎かけの該当者
「はい。はい。なるほど。海のような…でふね? はい。え? 斧でふか? 斧。はいでふ」
石板を片手に上位存在との交信を続けるネッカ。
感心しきるのクラスクと興味津々のシャミルを横に、ミエはどうにもその光景から元の世界を想起せざるを得ない。
なんというかこう座り込んでスマホで長電話している女子にしか見えないのである。
会話の内容を考えるとどちらかと言えば客先に確認の電話をする下っ端会社員の方が近いのだけれど、残念ながらミエにはそれを実感できるだけの社会経験がない。
元の世界で大人になるまで生きられなかったからだ。
「はい、はい。ありがとうございました。はい、はい。御丁寧にどうもでふ。あ、あのえっとでふね、後で確認のため再度御連絡することがあるかもしてなくてでふね…はい、はい。ありがとうございまふ。それでは失礼しまふ」
石板を耳元から外し、深く深く息を吐いたネッカは、その場にくたくたと崩れ落ちる。
「き、きんちょうしたでふぅぅぅ~~~…」
「よくやっタネッカ! エライ!」
「して、してどうじゃった!?」
ねぎらいの言葉をかけるクラスクと即結果を求めるシャミル。
このあたりはやはり為政者とそうでない者の感覚の違いだろうか。
「そ、それが…その……」
なんとも言いにくそうに、困惑した体で。
「なんか、知ってたみたいでふ」
ネッカが、その進捗を告げた。
「マジカ!」
「で、なんとゆうとったんじゃ!」
「え、ええっと…『澄んだ深き海が如き輝きを渇望してる』みたいでふ」
「ウン?」
「なに…?」
ネッカの言葉に眉をひそめる二人。
「内陸なのに海ですか?」
「ウミ…ウミってナンダ」
「そこからか。そこからなのか村長殿」
シャミルが海の概念についてクラスクに簡単に説明をする。
「ウミ! ウミ凄イナ! 俺も海見タイ!」
「ま、まあその話はまた後でということで…」
「ナンダッテー」
ミエの言葉に本気でショックを受けるクラスク。
「単純に考えたら寓意ですかね」
「ふむ。ネッカや、何か思い当たることはないかの」
「ええっとでふね…ルークベン様がこういう言い回しをするときはだいたい宝石のことだと思いまふ。つまり『澄んだ深き海が如き輝き』は『青い宝石』と言い換えてもいいかと」
「宝石! 言われてみれば宝石も鉱石の一種ですもんね!」
「じゃな。ということはつまりあの連中はこの村にあるはずの青い宝石を希求して襲って来たということか…?」
「でも前回の襲撃でそれは失敗してて…」
「つまり連中がマタ襲っテ来るっテ事ダ」
「「!!」」
そう。
彼らにはこの村を襲撃する理由があったのだ。
そして前回それは頓挫した。
オーク達と騎士達がそれを阻止してのけたからだ。
ゆえに…彼らの目的が変わらぬ限り、この村は再び襲撃される恐れがある、ということになる。
「で…青い宝石、ですか。シャミルさん心当たりあります?」
「知らんの」
「私も宝石の類はあんまり…」
問題は…この場にいる彼らには、この村にあるというその青い宝石に全く心当たりがない事である。
「宝石…あのキラキラしタ石カ。ミエ前に袋で光る石イッパイ持っテタ」
「確かに当時の旦那様の
三人で首を捻るが答えは出ない。
「ネッカさん、それ以外に神様…ルークベン様は何か仰ってましたか?」
「ましたでふ」
「ましたか」
「ましたでふ」
ネッカはこくりと頷くと、先刻聞いた内容を共通語に置き換える。
「ええっと…その青い宝石を持っているのは…斧が如き煌めきの女性、だそうでふ」
「斧が…如き?」
ミエがその奇妙な表現に眉根を寄せる。
「斧…斧? シャミルさん、斧って言ったら何を連想します?」
「そうじゃな。斧を得意とする種族というとやはりドワーフじゃろか」
「つまりネッカさん!」
「ちちちちがいまふちがいまふ! 私研究材料以外に宝石とか持ってないでふし! 材料に使う宝石は全部砕いて破片にしてまふし! そそそそもそも青い宝石なんて全然知らないでふ!」
ぶんぶんぶんと首を振るネッカになんとなく親近感を覚えて肩をぽんと掴むミエ。
彼女もお洒落にはあまり興味がなかったのだ。
「なんじゃ女が三人寄り集まってこの女子力の低さは」
「あはははははー…」
お洒落をしても意味がないくらいの病弱だった娘と研究者肌が二人。
確かにあまり色気のないラインナップである。
まあミエはその青白い肌を隠す関係上化粧の技術だけは一丁前であったが。
「斧ならオーク族も得意! 斧オークの武器!」
「でも対象は女性って限定されてるじゃないですか。うちの村に女性のオークっています?」
ミエに言われて「ソウダッター!」と驚愕の表情を浮かべるクラスク。
「一応うちの村で生まれたっていうなら娘が二人いますけど…」
「ミックとピリックはどう見ても人間族じゃろ」
「ですよねー」
ミエはそのまま軽く流すが、シャミルはその時妙に胡乱げな瞳をミエに向け、目を僅かに細めた。
ただそれはほんの一瞬のことで、誰にも気づかれることはない。
「他に斧が似合いそうな女性と言いますと…ゲルダさんとか?」
「確かニ! ラオと訓練しテル時いつも斧使っテル!」
「で…あやつが青い宝石とかで着飾るタイプに見えるか?」
「う~~~~~~ん」
シャミルのツッコミに腕を組んで考え込むミエ。
宝石などで着飾れば彼女もより一層美しくなるとは思うけれど、だからと言ってゲルダがそうしたものを好むかと言われるととてもそうは思えない。
「こう…護衛隊に依頼に来る商人の方にもらったとか…」
「口説かれたと言うことか?」
「ちゃんとした服着てお化粧してればゲルダさん美人ですし…」
「…ラオが黙っテなイナ」
「ですねえ」
ミエの脳内で嫁にちょっかいを出す旅の商人に決闘を挑み槍を構えて突撃するラオクィクの姿が浮かんだ。
正直その後の光景…もとい惨劇は想像でもあまり見たい代物ではない。
「斧…斧…他に斧が似合いそうな…」
頭を捻って考え込んでいたミエは…ふと先刻の宝石の件を思い出した。
「斧…石の神様ならこれも石だったりするんですかね…?」
「「
ミエの言葉にシャミルとネッカが同時に反応した。
「ふぇ!? え、えーっと翻訳された単語は…
この世界の言葉が彼女の世界の言葉に翻訳されたけれど、ミエはそもそもその翻訳された単語自体に聞き覚えがなかった。
「
「ホウ! 斧の形の石カ! 面白イナ! 俺も欲シイ!」
「ほあー、そんな石もあるんですねえ」
「でふ。研磨された石は茶褐色に輝く美しい宝石になって…」
「「あ……」」
そこまで言われてミエとシャミルは顔を見合わせた。
「もしかして
「肌の色か!」
そう、心当たりがある。
この村に、確かに宝石を以てそうな褐色の肌の娘がいるのだ。
それも二人もいる。
そいう、
ハーフの
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