第19話 宿敵の飼育
模擬戦とほぼ殺人未遂事件も無事に解決し、放課後。
「相変わらずだね、
「っま、しぶとさは負けねぇからな。痛みももう殆どねぇよ」
数分後、担当の教師が現れ、説明が行われる。概要は、一人一体の【領界種】を飼育していき、本人の返答次第では相棒として卒業後も共に活動する、と言うものだった。ただ【領界種】というだけで嫌悪感を抱く者も少なくない。そういった偏見を無くす、その為のこの委員会とのこと。
奴らは特に此方を威嚇などしてくるわけではなく、ペットショップにいる感じでリラックスしている。ただ、最奥の二匹を除いては。この中から、気に入った一匹を選び、三年間責任を持って飼育していく。それがこの委員会。
「あとはこの子達の中から好きな子を選んでね!決まったら今週中に名前を決めてあげて」
教師はそれだけ言うと、来た道を戻っていった。
生徒達は各々檻の前に行き、自分の相棒を決める為に吟味していた。
「こいつら人気ゼロだな……」
「そうみたいだね……。僕らが貰おうか?」
右隣に立つ
「はぁ……楽なのがよかったけど、仕方ねぇな」
「飼育に楽も苦もないと思うけどね」
的確にツッコミを入れて、咆哮が響く独房に視線を向けた。
「おい、この量のエーテルに耐えれる鎖どうなってんだ」
「相当な代物なんだろうね……。
「悪いな、勉強不足なもんで全くわからん」
「それもそうだよね。とは言え、僕もこの二体は記憶に無いんだけどね」
「なんだ、お前でも忘れることってあるのな」
「忘れてるだけならまだいいんだけどね。と言うか、幼体でこれだけのエーテルを保持してる領界種なら、記憶に残ってると思うけどね」
「てことは教科書にも載ってねぇってことか」
「おかしいな、エラー出てきたぞ。そっちはどうだ?」
「僕の方も駄目みたいだ。……俄然興味が湧いてきたよ」
「はぁ……めんどくせぇなあ」
二人は二体の領界種に向き直り、威圧するように体内からエーテルを放出して、奴らにぶつける。常人なら気絶してしまう位のそれは、独房を空間を揺らし、異変に気付いた室外にいる生徒達の視線が独房に釘付けにされる。奴らは一瞬怯むが、それを上回るエーテルを当てて相殺させた。互いにエーテルの放出を止めて睨み合う。数秒の沈黙の後、奴らは暴れるのを止めその場に体を休めた。彼らはそれを確認して息を吐く。
「僕は鳥さんの方を希望だけど、
「正直どっちでもいいが、強いて言うなら狼だな」
「それじゃあ決まりだね!今日から僕が君のご主人様だぞ~」
「お前の飼い主はこの俺だ。絶対服従、いいな?」
───こ、こいつぅぅぅ!!!今すぐ斬り刻んでやりてぇ……!!
───案外可愛いねぇ。名前はどうしようかな……漢字にしようか、カタカナにしようか?
全く真反対のことを考える二人が、何故こんなにも気が合うのか、殆どの者が理解できないだろう。幼少気を共に過ごし、正反対な性格の二人が幼いながらも剣で互いを理解した。昔からその道の才は見出だしていたのかもしれない。たとえ彼ら、『最強と最高』の血が無くとも。
二人は家に帰ってじっくり名前を決めることにし、独房を後にする。飼育する相棒が決まった為、あとは帰宅するだけ。どうやら決まったの彼らだけのようで、他の生徒達は檻の向こうにいる領界種とにらめっこをしていた。
「いよっしゃ!帰ってゲームでもすっかな!!」
「ほんと元気だね、
「あったり前よ!っあ、そうだそうだ連絡先交換しとこうぜ」
「そうだね、えーっと【アドレッセ】でいいんだよね?」
少しぎこちなくアプリ内にある一つのツールを開く。
「そうだよ。なんだ、使ったことないのか?」
「……ゼロって訳じゃないよ?流石にやったことくらいあるよ」
彼の連絡網には、両親と姉とアルベントとその妹と両親、他数名の友人とゲーム等の公式アカウントくらい。対して
「これで完了だな」
「暇な時にでも送るよ」
「ああ、俺もそうするよ」
二人は足並みを揃えて歩きだした。陽はまだ暮れずに春の陽気を漂わせていた。
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