第10話 安息の地と新領域
突如として現れた星座級蟹座の【ミュスクル·キャンサード】の討伐後、魔法による治療と組織からの事情聴取などを終え、ようやく帰宅した
ベットの直ぐ側にある机に立て掛けた、今日一の活躍をしてくれた剣に眼を向ける。今回の戦闘であの剣はかなり消耗し刃零れが酷くなっている。しかし、代用品を持っていない為、明日もあれを持って登校しなくてはならないのだが。
「はぁ…………疲れた。入学式でこれって、これからどうなるんだよ……」
溜め息をつきながら起き上がる。左腕を気にしながら立ち上がり、スマホと黒い長財布を手にコンビニに向かった。
家を出て大体二分くらいの所にある、北海道限定でオレンジ色が特徴のコンビニにて。籠を持っていつも買っている強炭酸のコーラと薄塩のポテチLサイズを入れてレジに向かう。レジには男性店員が営業スマイルではない人懐っこい笑みを浮かべて客の対応をしていた。
「いらっしゃいませ」
金髪の男性店員が客である
「合計で430……あれ?
「あ?…………おま、
聞き覚えのある声に名前を呼ばれ、財布から視線をずらして店員に向けた。そこにはコンビニの制服姿をした
「お前、バイトなんかしてたのか……。する必要ないだろ」
当然の疑問を
「あ~……僕はお小遣いも(他の貴族に比べて)そんなに貰ってないからね。剣の整備とかも実費だし」
「そうか、偏見ってのは恐ろしいな」
「
「ああ、そうだっだな。…………はい、ちょっきり」
「430円丁度お預かりします。レシートのお返しです。……それじゃあまた明日学校で」
小声でそう言って笑顔を向ける。
家についてからはベットに寝そべり、スマホで機械の音声を使ったゲーム実況を見ながら、買ってきたポテチとコーラでだらだらと過ごした。今思えばこれが良くなかったのだろう。夕飯は
◇────────────────────◇
スマホが鳴り通知を確認する為に【オトリテ】を立ち上げる。そこには新たな任務依頼が届いており、内容が
『北海道帯広方面に新たな領域の解放が確認された。
それを読みマップを確認して、そっとスマホの電源を落とす。
時刻は四月五日の午前零時を指していた。前回の【
「ん…………あれ、
ベッドで寝ていた
「ああ、めんどくせぇけどしゃーないさ。ゆっくり寝てな」
「ん、そうさせてもらうよ……それじゃあ気をつけてね。いってらっしゃい」
彼女だけに見せるその表情を見て再び意識を手放してベッドに体を預ける。ほんの数秒程で夢の中へと帰っていった
地下の車庫に停めてある自家用車───ではなく軍用ジープの運転席に乗り込みキーを差し込んでエンジンをかける。ブロロロロロッ───とエンジン音を轟かせ、車庫の扉をポケットに入れてあったボタンで開けアクセルを踏む。
「目的地まで大体…………有料道路使っても三時間以上かかるのかよ。全く人使いが荒れぇなあ。しかも途中から道ほぼねぇしな…………はぁ……」
ジープを走らせること約三時間。周辺に佇む家々からは人の気配が消え去り、簡易的な金網で仕切られたその先は世界が切り離されたかのように森が広がり、異界と化している。ジープを金網の門の前で停車させ、窓を開けてそこに立っている二人の迷彩服を着た軍人に声をかける。
「
普段の口調とは違い、声をワントーン落として少し硬い口調に変わっている。
「ッハ!承知しています。どうぞ、お通りください」
素早く敬礼をして門を解錠する。
数分もしない内に目的地に到着し、既に
「すまん、遅くなったな。
ジープから降り隊に声をかける。
「大丈夫でしたよ。最も、出てきたとしてもなんとかなるメンバーではありますけどね」
今回の隊の副隊長を務める、レヴィ·イルテミートが
彼女の肌は黒く、髪は正反対の金髪。体つきは黒人ならではのがっしりとした体格で、目はエメラルドグリーンで、現在でも続く黒人差別を失くす運動のリーダー的存在でもある。
「まあそれもそうか。んじゃ始めよう」
領域。解放され直ぐの整備されていない物は形が歪で解放後の亀裂に沿って、拡大されていく恐れがある。解放時、世界に亀裂が入りその亀裂が徐々に剥がれ落ちて領域への入り口が出来上がる。
「ッ!!ッぶねぇ!!」
突如、天より飛来した正体不明の黒装束の人間が斬りかかって来た。
「……流石、
黒装束の男が素早く後ろに下がり刀を鞘に納める。威圧するかの様に身体から黒く禍々しい魔力を放出し改めて刀を抜刀する。放出した魔力を刀身に纏わせ、刃の形を象り、強度、威力を倍増させる。
「……【天ノ羽衣・
「みんな、他にも複数人いるわ。警戒を怠らないで!!」
レヴィの警鐘に後ろに控えていた他のメンバーは、各々が得意とする武器を展開し臨戦態勢に入る。
「どうした、
今にも爆笑しそうなほどに失笑し、
「【天ノ羽衣・
【闇纏い《チマーベール》】などの纏い系統の魔法の最上位の魔法。属性は無属性で自信の魔力を属性に変化させずにそのまま放出し纏わせるといったもの。黒装束の男のそれは黒く禍々しいが、
中段に構えられた大剣が右から左斜め上へと斬り上げられる。だが、黒装束の男は余裕の表情でそれを防ぎ、刀の剣先を右眼目掛けて突き出す。
「なんだその腑抜けた攻撃は」
そう言って奴は放出し続ける魔力の濃度を上げて一気に駆け出す。
「……つまらんな」
小さく息を吐き出すかのように一言告げると、大剣を上へと弾き黒装束の男は後方に下がる。
「今日は様子見程度だったが
黒装束の男は刃を鞘に納め毒づく。
「……お前ら、
肩で息をしながら、左手で額の汗を拭いながら問う。
「【Code:Zero】を執行せし者。とだけ告げておこうか」
そう答えて黒装束の男は仮面下で欲望に呑まれた笑みを浮かべた。
「それじゃあな
軽口でそう告げて木々の闇に紛れその場から姿を眩ませた。
「上層部に報告をする。周囲の警戒を頼む」
「「了解!」」
後ろを振り返らずに指示を出して亜空間からスマホとエーテルによって電波が制御された特殊な装置を取り出した。
───井の中の蛙大海を知らずってか……
今の自分では到底敵わない悔しさと惨めさを噛みしめ、淡々と起きたことその全てを電波越しに伝えるのだった。
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