第9話 災害排除

 氷継ひつぎ優奈ゆうだいは二人並んで駆け出し、目配せをする。足取りを合わせ、呼吸すら合わせ三本のつるぎを重ねる。二人が同時にエーテルを流し、術式が光を放つ。


「いくぞ、優奈ゆうだい!!」


「オッケー、氷継ひつぎ!!」


 光は次第に激しくなり、炎の様に揺らめき二人の影は光に飲み込まれ消えていく。


「「想継エーテル剣技式【真実の友情ヴァリテ·アミティエ】!!!」」


 二人が編みだした、二人だけの業。優奈ゆうだいが十連撃の剣戟がの脚を襲う。次いで氷継ひつぎ五連撃の剣戟を浴びせたことではバランスを崩し、土埃を立てながらその場に崩れた。


 二人はその隙を見逃さず、飛び上がりの胸元に剣戟を与える。二人同時に七連撃の剣戟を与え、最後に上段に振り上げた氷継ひつぎつるぎが一閃。金色の光と共に鎧を貫く。


 ───バアァァァァァァァッ!!!


 は悲鳴に似た奇声を発し、周囲のエーテルと自信のエーテルをかき集め口へと集約し、複数のエネルギー体を産み出す。黒く禍々しいく荒々しいオーラを纏い、今も尚周囲のエーテルを吸収し続けている。


 二人はすかさずその場から飛び退いて、防御の式を発動する。


「「想いを司す不滅の誓いよ、汝を護る盾となれ───想継エーテル術式【宿壁スクートゥム】」」


 巨大な半透明の盾がふたりの前に顕現した。


 が、複数のエネルギー体は二人には放たれず、弾けてその場で霧散した。


「=想解霧散エーテル·ルフト=」


 犬寺けんじが異能力を発動させ、業を行使する。エーテルが物質化し可視化した時、エーテルその物を元に還すといった物。


 ───俺の弱点に気が付いたか……流石だな


 犬寺けんじがフッと笑いながら称賛する。


 その隙を逃すまいと、すかさず氷継ひつぎが駆け出し、左手を刀身に起き刃先に滑らせ刻まれた術式にエーテルを込める。黄金色の光を放ち式が完成する。


想継エーテル剣技式【雷霆万鈞バースト·エクレール】!!」


 激しく轟く雷が、氷継ひつぎの周りに現れ彼と共に駆ける。輝夜かぐやの【剣姫の声援クシポス·シンフォニア】のお陰で、素早さと威力が桁違いに跳ね上がり荒れ狂う剣撃を繰り出す。



  エーテルは想いに答える元素であり力である

 


 氷継ひつぎの強い想いに応えるかのように優奈ゆうだい戦の時よりも激しく、煌びやかに轟かせ、やつのがあるであろう部位、人間と同じ左胸辺りに浴びせる。無論、彼は核が何処にあるかなどは一切わかっていない為、当てずっぽうではあるが。


 核というのは領界種、魔物にある人間で言うところの心臓の様な物。核は心臓とはまた別の存在ではあるが機能的には心臓の様な物ではある。だが、心臓自体は別で存在している。動力源である魔力、又はエーテルがそこから身体に行き渡る仕組み。心臓は血、核は魔力、又はエーテルと役割が違う。


 氷継ひつぎは縦横無尽に剣技を与え、最後の一撃を叩き込もうとありったけの想いを込めて、一閃。激しく煌めく一太刀を振るい、やつに触れる寸前で、やつの身体から暴れ出んばかりのエーテルが放出され、最後の一撃はヒットせず、彼の体は宙へと放り出された。


「……ッな!?やべぇ───いッ!?」


 空中に飛ばされた氷継ひつぎは痛みに顔を歪ませる。優奈ゆうだいとの模擬戦でできた傷は治癒している暇も無かった為今でもドクドクと血が流れている状態。

 宙に飛ばされた氷継ひつぎに巨大な腕が迫り、捕まれる。頭だけが丁度出る感じで鷲掴みにされ徐々に力が込められていく。


「あがぁ!?く……アアァァァァ!!!」


 ミシミシと全身から悲鳴が上がり、氷継ひつぎは顔を歪ませ血を吐き出しながら声を荒らげる。


 ───バアァァァァァァァッ!!!


 やつは声を吐き出し、再びエーテルを収束し始める。次は絶対に消し去る気があるのか、今までで一番濃くエーテルを口へと集め、巨大で真っ黒な球体を作り出した。

 氷継ひつぎは身動きが取れず、呼吸をするのがやっとの様。周囲の空気すら巻き込みながら放たれた球体はゆっくりと氷継ひつぎに迫り来る。


 ───ヤバイ……本気…………で死ぬ!!!


 刹那、青白い一筋の光が氷継ひつぎを掴む左腕に注がれ、手首と腕が離れやつの手から力が抜けていき、氷継ひつぎは重力に逆らわずそのまま地面に落下し、叩きつけられる。

 球体はその場で制止して再び無惨する。


「いッッッてぇぇぇぇ……。輝夜かぐやのが無かったら、確実に終わってたな……」


 氷継ひつぎは左腕を気にしながら立ち上がり、ヨロヨロと剣を構えて光が放たれた方に視線を移す。

 砂埃が立ち込め、徐々に風によって視界が晴れていき、やつの前で大剣を右手に握り鬼の形相で睨む男がいた。


「…………親父ッ」


 氷継ひつぎは小さく呟き眼を見開く。れんの登場に周りの生徒は歓喜の声を上げる。


「俺の息子によろしくしてくれたみてぇだな。それ相応の覚悟はできてるんだろうな」


 れんはドスの効いた声でやつに向かって言い放ち、大剣───【星天穿劍せいてんばっけん】に身体からエーテルを流し、刻まれた術式が輝きを放つ。

 れんは駆け出し【星天穿劍せいてんばっけん】を両手持ちに変えて飛び上がる。体の前に構え、エーテルだけでなく魔力も同時に込め威力を拡大する。


 だが、れんが業を繰り出そうとした時、やつは先手を打っていた。右腕を薙ぎ払う様にしてれん目掛けて迫っていた。空中にいるれんは回避はできない為、防御を取るしかないが彼は止まらず突き進む。


 ───グラアァァァァァッッッ!!!!


 やつの左腕に炎に包まれた巨大な牙が突き刺さり、れんに触れる寸前で停止する。腕を喰らったのは巨大な三つの首を持つ獣だった。体は炎を纏い口から息を吐き出すと大きな煙が立ち込める。


「固有魔法【地獄乖焔番狼ケルベロス】」


 そう呟いた犬寺けんじの目の前には巨大な魔方陣の中心に顕現し終えたが遠吠えを上げる。

 犬寺けんじが自信の魔力とエーテルの殆どを使うことで産み出すことのできる、固有魔法で、正確には顕現型混合固有魔法と呼ばれる物。保有量が少ない犬寺けんじは殆どの魔力とエーテルを使っているが、それは保有量が少ないからであって、保有量が多い者は使いきる必要はない。


 犬寺けんじは顔を歪ませながら突き出した右腕を動かしながら【地獄乖焔番狼ケルベロス】を動かす。を維持するにもエーテルを消費する為、出せる条件がかなり限られてくる。れんやそれに準ずるレベルの火力持ちがいないと発動はまずすることはないだろう。れんはそれを分かっていたから脇目も降らず剣をやつに向けたままだった。


星喰せいぐう剣技双【新星喰狂乱乖ノヴァ·グラウ·イーター】」


 赤と黒が入り交じったオーラを放ちながら業を繰り出す。【新星喰狂乱乖ノヴァ·グラウ·イーター】は星喰剣技双というれんが編み出したオリジナルの剣技。星を喰らう程の威力を四十連撃を与える業で、星座級であれど致命傷は免れない。


「うらあぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」


 氷継ひつぎが与えていた左胸辺りに、激しく怒りと共に剣撃を与え、辺り一面を赤と黒の輝きに染め上げる。圧倒的な連撃と圧倒的な高火力により覆っていた甲羅に皹が入り、筋肉が露になる。

 やつはその勢いで再び倒れじたばたと暴れる。


「ッチ、やっぱ星座級で蟹座ってなると硬いか……」


 れんはそこから飛び退き、犬寺けんじの隣に立った。

 二人で並んで立ったのは、二人に称号が与えられるきっかけとなった大戦争。大阪府奪還星戦争以来である。

 氷継ひつぎ優奈ゆうだいのもとまで下がり、二人を見据える。そこで氷継ひつぎは力尽き、優奈ゆうだいへと倒れる。


「おっと…………全く、僕だって怪我してるんだからね?」


 そう言いながらもしっかりと氷継ひつぎを両腕で抱き止め体を支えた。

 犬寺けんじは【地獄乖焔番狼ケルベロス】を解除してれんに指示を出す。


れん。わかってるとは思うが、あいつの核は首の中心だ。いけるな?」


 犬寺けんじはやつを見つめたままれんに確認する。


「わーってる、わーってる。次の一発で決めてやるよ」


 れんは軽口を叩きながら殺気を込めて答える。再びエーテルを【星天穿劍せいてんばっけん】へと流して、やつへと駆け出す。やつは咆哮を轟かせて自信のエーテルと周囲のエーテルを集約し、複数のエネルギー体が現れた。だが、犬寺けんじの=想解霧散エーテル·ルフト=によって完成前に

霧散した。


星喰せいぐう剣技双【乖離無領彩撃ガリル·バースト·ヘルガルリデン】!!」


 

 【乖離無領彩撃ガリル·バースト·ヘルガルリデン】は黒、白、青の色彩で輝き、五連の突きと十連撃の斬撃繰り出す業。

 五連撃の鋭く重たい突きで首の一番硬い外壁を割り、十連撃の斬撃で肉を断つ。砕け散った外壁が宙を舞い、斬撃を受けた肉からは人間と同じ赤い血が飛び交った。


 ───バアァァァァァァ……!!!

 

 やつは弱々しく咆哮を轟かせ、れんを体から離そうと身体からエーテルを放出する。

 そして、露になった”核“目掛けて、エーテルを込めた大剣を想いを込めて突き刺す。


「全人類の想いの一撃。そのに受け、解放されろ!!」


 想いの一撃。核はひび割れて粉々に砕けちり、その場で輝きと共に消失した。一瞬の静寂が訪れる。すぐに歓声が上がり拍手喝采。れんは首をゴキゴキと鳴らしてから優奈ゆうだいのもとに近寄り、氷継ひつぎの様子を確認する。


「よかった……気絶してるだけか。まああとは頼むわ、けんちゃん」


 れんは安堵の表情を浮かべ、一言そう言って疲れ顔で帰って行った。犬寺けんじもやれやれといった感じで溜め息を溢して伸びをする。魔力とエーテルが枯渇気味の彼は、今にも倒れそうだが───校長だからな、倒れられないよな───と若干やけくそになりながら我慢していた。


 遠くの方で鳴っていたサイレンがこちらに近付いて来て、ようやくパトカー三台と救急車三台が到着した。そこから犬寺けんじは警察官に事情聴取され怪我をしている生徒は傷の手当てを行った。途中で氷継ひつぎも眼が覚めて、優奈ゆうだいに事の顛末を聞いて、改めて父の恐ろしさを感じていた。



 序列は常に変動している。今回の戦闘において戦闘に参加した者は変化が起きている。


氷継ひつぎ

【序列】9875→9860


輝夜かぐや

【序列】46869→46865


優奈ゆうだい

【序列】9077→9000


 人知れず序列は変動し続け、怠惰な人間は蹴落とされていく。これが社会の仕組みであり、世界の仕組みである。

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