第355話

季節は秋になり、外は涼しく部活がしやすい時期になった。文化祭と中間試験が終わり、しばらくはイベントごとがない。

ゆったりとした日々を過ごし、穏やかな時間が流れていくと思っていた。


いや、一応私には穏やかな時間は流れてはいるけど私の周りだけがなぜか波乱が起きる。

私と芽衣は昔は喧嘩をしたり不安になったりしていたけど、今は熟年夫婦のように落ち着き昔より愛が深まっている。


きっと、あと少し時間が経てばそうなると思うけど、さわちんと未来ちゃんは私達より交際期間が短いからまだ波乱が起きる。

波乱と言っても今回はさわちんが一方的に悪い。交際期間が長くなる故の慣れのせいで。



さわちんは陸上部の部長をし、生徒会では副会長を務めている。バイトもしているから日々、忙しいとは思うけど大事な彼女を蔑ろにしてはいけない。

一度、痛い目にあっているのに慣れのせいであの苦しみを忘れてしまった。


いわば自業自得。秋になり涼しい風が吹いているのに、さわちんの周りだけジメジメした空気が流れている。

今回は私は絶対に巻き込まれない。もう、恋のトライアングルや冤罪にはうんざりだ。私は芽衣と穏やかな生活を送りたい。


なのに、私は体育座りをし泣いているさわちんに捕まり部活に参加出来ない。

今回の喧嘩はさわちんの自業自得で、未来ちゃんを怒らせた。馬鹿だよね、デートの約束の日に寝坊して未来ちゃんを3時間待たせた挙句ヘラヘラするなんて。


私だったら芽衣を3時間も待たせてしまったら全力で土下座する。それに、芽衣を1人で待たせるなんて怖くてできない。

もし、ナンパされたらとか考えただけで血の気がひき芽衣とのデートで外で待ち合わせする時は30分前には行くようにしている。



未来ちゃんと喧嘩した時、大泣きして私に当たり散らしたくせにあの時の事を忘れ遅刻するなんて慣れは怖いね。

交際期間が長くなっても、常に相手のことを考えるのが大事だと私はお姉ちゃんに口酸っぱく言われている。


【後悔先に立たず】やってしまった過ちに激しく後悔するぐらいだったら、この言葉を忘れずに過ごさないといけない。

だから、私は厳しい言葉を言った。この前から私はごんちゃんにも厳しい言葉を言って…怒るのが苦手だから疲れるよ。



「さわちん、今回のことで未来ちゃんに振られても助けないからね」


「怖いこと言わないで!」


「彼女を蔑ろにするなんて馬鹿だよ。私は常に芽衣のことを考えてるよ。絶対に芽衣と別れたくないし、振られたくないから」



私はずっと思っていることがある。好きな比重は相手より自分の方が重い方がいいと。

芽衣を不安にするぐらいなら私が不安になる方がいいし、自分に喝を入れられる。

だから、私と芽衣の関係は喧嘩はするけど慣れなどはない。私の大好物の甘い卵焼きは食べられても問題なし!



「反省してるよ…」


「じゃ、全力で土下座して謝ってこい」


「分かった!土下座してくる」


「うん、これで大丈夫…って痛い!えー、何で今回も芽衣に叩かれたの!?」



いつのまにか芽衣が来ていて、私は芽衣に叩かれた。ごんちゃんの時はデリカシーがない発言をしたから仕方ないけど、今回は叩かれた理由が分からない。



「水希、土下座って馬鹿なの?急にそんなことされたら未来ちゃんが困るでしょ。さわちん、ちゃんと誠心誠意謝るのが一番だよ」


「でも、誠心誠意だったら土下座した方が…」


「好きな人がそんな風に謝る姿なんて見たくないと思うからしちゃダメ」



芽衣の言葉を聞いて、私も反省する。もし、芽衣に謝らなければいけない時があったら土下座をすると決めていた。

でも、難しい…土下座以外で許してもらうにはどうしたらいいのだろう。



「さわちん、今日お金いくら持ってる?」


「えっと、、3000円ぐらい」


「じゃ、そのお金で未来ちゃんの好きなお菓子かケーキを買っていくの。ちゃんとした誠意を見せなきゃ」



えっ…って私は危うく声を出しそうになった。もし、ここで声を出していたら芽衣に睨まれ叩かれるだろう。

でも、勉強になる。誠心誠意謝る時は物が必要なことが分かった。言葉だけじゃ誠意が足りない。そう言えば、お姉ちゃんが言っていた。謝罪は大人になると物が付いてくると。


確か、お父さんが酷く酔っ払って帰ってきて家の中でリバースした次の日、お父さんはお母さんにオロオロしながら謝り、後日高い物を買わされていた。これと同じか。

バイトを頑張らないと。芽衣に要求される高級な物を買えないと許してもらえない。


さわちんにファイトと呟く。彼女を怒らせた代償はお財布の中身が痛いめに合う。私も気をつけないと…芽衣の要求が怖い。

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