第297話

「やったー!13位!お仕置き回避!」


「水希、何を言ってるの?」


「恭子先輩、ありがとうございます〜」



恭子先輩に抱きつき、ぴょんぴょんと跳ねていると後ろから頭を叩かれる。呆れ顔のお姉ちゃんがいて「うるさい」と怒られた。



「お姉ちゃん、13位だよ!」


「知ってるわよ」


「へへ、やったよー」


「まぁ、水希にしては頑張ったわね」



お仕置き回避の私の心はウキウキで、ライバルのさわちんは何位なんだろうと探していると座り込んでいるさわちんを見つけた。

非常に暗い…さわちんの放出しているオーラが暗いし黒いし怖い。



「さわちん…何位だったのかな」


「7位よ。ちなみに私は4位」


「そっか…」



さわちんはボーダーの5位入賞を出来なかった。お姉ちゃんは4位で流石の一言だ。



「今はそっとしてあげなさい」


「うん…」



落ち込んでいるさわちんをチラチラと見ながら私は芽衣を探した。キツそうな顔で必死に走っている。あと何周か分からないけど、芽衣はリタイアせず走り切るつもりなんだろう。終わったら思いっきり抱きしめたい…。



「はぁ、はぁ、高瀬先輩」


「あっ、真里ちゃん。お疲れ〜」


「お疲れ様です。高瀬先輩が早くて追いつけませんでした」」


「真里ちゃんも早いよー」



マラソンは走っている間はキツイけどゴールの後の達成感と充実感がある。

走り終わった後の風が気持ちよく、汗を乾かしてくれる。体も心もスッキリだ。



「水希、早すぎー」


「おー、ごんちゃん。お疲れ〜」


「話しながらあのペースで走るなんてどんな体力してるの。ビックリした」



意識を逸らせたから余力を残せ、最後思いっきり走れた。さわちんからしたらムカつく!と言われそうだけど、長距離が苦手な私にとって私に合う走り方だったのかもしれない。



「芽衣、あと何周かな…?」


「うーん、多分2周ぐらいじゃない?」


「そっか。芽衣、頑張ってるね」



ごんちゃんと芽衣を見つめ、私の心臓がドキドキしてきた。無理はしてほしくないけど、一生懸命走っている芽衣に頑張って欲しい。



「高瀬先輩、お疲れ様です」


「あっ、吉野ちゃん。お疲れ〜」


「水希、ほら、、紹介したら?」



横にいた恭子先輩が私の腕を肘で小突く。私の隣にはごんちゃんがいる。わざわざ、吉野ちゃんが来てくれたってことはごんちゃんと話をしたかったのかもしれない。



「ごんちゃん…」


「何〜?」


「この前話した部活を見学に行く話…後輩の吉野ちゃんと行くね」


「初めまして!吉野桃香と言います///よろしくお願いします」


「よろしく〜。いつでもいいからね」



頬を赤らめ、モジモジしている吉野ちゃん可愛いよ。ただ、その相手がごんちゃんじゃなければ更に可愛いって思っていたかも。

ニヤニヤした顔の恭子先輩が恨めしい。吉野ちゃんの相手が真里ちゃんだったらめちゃくちゃ喜ぶのに…こんな気持ちを朱音ちゃんにバレたら抹殺されそうだけど。



「あっ、真里ちゃん。お疲れ」


「桃香もお疲れ」



うん?あれ、2人が仲良さそうに話をしている。話を聞くと2人は同じクラスらしい。

朱音ちゃんの視線が痛い。まだ仲直りしていない2人の距離が遠い。



「2人とも美女美女コンビだね〜」



ごんちゃんが呑気に空気を読まない発言をする。朱音ちゃんが目がカッと開き怖い…。

吉野ちゃんは照れてるけど、ごんちゃんの鈍感さに驚くよ。私より酷い(はず)



「あっ、芽衣が」


「えっ?何!?どうしたの?」


「走ってる〜」


「ごんちゃん!怒るよ!」



くそ。やっぱり、ごんちゃんに吉野ちゃんをこれ以上関わらせたくない。芽衣を心配している私を揶揄いとことん酷い友達だよ。



「あっ」


「ごんちゃん、怒るよ」


「芽衣が転んだ」


「えっ!?あっ、本当だ!保健室に行かなきゃ!」


「水希、待ちなさい。芽衣ちゃん、ちゃんと立ち上がって走りだしたでしょ」



恭子先輩に止められ、何も出来ない私は落ち込む。芽衣の横を走って励ましたいけど、きっと邪魔にしかならないだろう。

あっ、さわちんの横に未来ちゃんがいる。頭を撫でられ嬉しそうだ。なんだ、仲直り出来てるじゃん。


はぁっと息を大きく吐く。必死に走っている芽衣が見えてきた。私はゴール近くに行き、芽衣を見つめる。感動で涙が出そうだ。

あと少し、あと少しだよと心の中でエールを送り祈った。



「はぁ、はぁ、ゴール出来た」


「芽衣…お疲れ様。頑張ったね」


「へへ、頑張ったよ」



もう無理だ。愛しさが込み上げ、芽衣をギュッと抱きしめる。小さな体が私の腕の中にすっぽり入り笑ってくれた。



「疲れたでしょ」


「疲れたよー」


「帰り、おんぶする」


「恥ずかしいからいいよ///」


「ダメ、転んだし足が痛いでしょ」



土手から学校まで結構距離がある。疲れている芽衣を歩かせるのは嫌だ。

後ろから抱きしめ、芽衣を逃がさないようにした。人目なんて気にしない。



「芽衣、後でマッサージするね」


「やった」


「お疲れ様」


「うん、ありがとう」



さわちんとの勝負は無かったことになりそうだ。さわちんはめちゃくちゃ頑張り、未来ちゃんとの仲も元に戻った。

私もそれでいい。私も苦手な長距離を頑張り(恭子先輩のお陰)お仕置きを回避出来た。

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