第296話
マラソン大会当日まで私は頑張った。試験勉強と同じぐらい頑張った。
長距離選手だった晴菜さんに走るコツを教わりアドバイスを受けた。
必死に朝と夜、ランニングをし20位までに入れるよう頑張った。誰か褒めて欲しい。
晴菜さんに貰った元気の出る苺練乳の飴玉を舐め、私はスタートラインに立つ。
全校生徒で一斉に走るマラソン大会は運動部と文化部で足に自信があるメンバーは前方でスタートする。
これは理不尽とかではなく、足の遅い子が前にいたら抜く時にどうしてもぶつかってしまうからだ。スタート時間をずらすにしても時間を測る人数の限界がある。何周走ったか自分で数えないといけないし大変だ。
前方にいる周りの生徒の顔が気合が入っている。さわちんも気迫が凄い。お姉ちゃんも…気迫が凄すぎて嫌になる。
私はさっき、全校生徒の前でマラソン大会の説明と意気込みを生徒会長として語った。お陰で緊張でお腹が痛い。
芽衣に頑張るねと意気込みを伝え、前方に来たけど気持ちが沈んでくる。
負けたくない。だけど、ライバルが多すぎる。まず3年生と一緒に走るなんて無理な話だ。
陸上部の長距離選手は当然早いし、みんな気合が入っている。このメンバーの中で20位以内…泣きそうだ。
芽衣も心配だし…大丈夫かなと後ろを振り返っても見えず、何度も深呼吸をしていたから心配で不安になってくる。
私はさわちんとの喧嘩の話を芽衣にし、バカと言われ3回ほど叩かれた後「頑張ってね」と言われた。
20位以内に入れば芽衣からご褒美が貰え、お姉ちゃんからのお仕置き回避。絶対に頑張らないといけない案件だ。
ドキドキと緊張が凄い。もうすぐスタートの合図が鳴り、みんな一斉に走り出す。天気は晴れてるのに私の気持ちは憂鬱だ。
「水希、頑張ろうね〜」
「恭子先輩…吐きそうです」
「何でよー。普通に楽しめばいいじゃん」
私はさわちんとの対決の話を芽衣にしか話していない。私がみんなに責められるのが目に見えているからであり、真剣勝負だからこそ静かに戦いたかった。
「恭子先輩、背中を叩いて下さい」
「いいの?よし、気合注入ー!」
「い、い、痛いー!」
バンっと大きな音と痛みが背中に走り、私の背筋と心がシャキッとする。
全身に力が入る。この戦いは孤独な戦いだ。さわちんの順位なんて気にしていられないし、ひたすら走るしかない。
「恭子先輩…あの、芽衣のこと少しでいいので気にかけてもらっていいですか?」
「いいけど?」
「ありがとうございます!これで全力で走れます」
手首と足首と首を回しながら軽くストレッチをし深呼吸する。マラソンはリズムが大事で、前半は自分のリズムを保ち自分の無理のないペースで走る。
後半は少しピッチを上げ、最後まで足と体力が持つ程度にスピードを上げていく。
残り二周は心臓が壊れない程度に全力で走る。私が晴菜さんに教わった走り方だ。
「位置についてー!(パンっ)」
スタートの合図が鳴る。一斉にみんなが走りだし、足音と呼吸の音が聞こえてきた。
前だけを見て、前だけを見て、前だけを見て!私はリズムを保ちながら走る。頭の中は水泳大会で使われた曲をループしテンションを上げている。最後に拳を上げたい気分だ。
まずは一週目を走り切り、彼方前方にはさわちんとお姉ちゃんがいる。私の少し後ろには「今日は天気がいいな〜」と余裕の恭子先輩の声が聞こえてきた。
まだ一周目だから私も余裕がある。でも、5周目に入ると一気にキツさが出てくるだろう。中盤からが踏ん張りどきだ。
芽衣は大丈夫なのだろうか?まだかなり離れているけど前方で芽衣が必死に走っている。
私の友達は実は運動神経がいい人が多い。おっとりとしたひかるは軽快に走っている。
ごんちゃんも運動神経がいいから私の少し後ろを走りまだ余裕がある。真里ちゃんと朱音ちゃんは颯爽と私より前を走っている。
未来ちゃんは芽衣と同じで運動が苦手らしく息が苦しそうだ。周りを見る余裕があるのはリズムが保てている証拠で、心の余裕を持つことも大事だと晴菜さんに教えられた。
心の中で芽衣頑張って。未来ちゃん頑張ってと応援しながら私は2人を抜いた。
20位以内に入るには2人に対して声に出して応援する暇はない。前を見なくては。
私の前方には50人以上いる。悔しいな、頑張って走り込んだけどライバルが強すぎる。
でも、負けたくない。私の後ろにいる恭子先輩はまだ余裕で相変わらず「鴨が泳いでる〜」って呑気な声が聞こえてくる。
負けない!負けない!ご褒美欲しい!お仕置き嫌だ!お仕置き反対!
マラソン大会は孤独な戦いなんだ。なのに恭子先輩、何でこんな時にこの先にあるケーキ屋さん美味しいよって言うんですか!
季節のフルーツタルトとチョコレートケーキが美味しくてねって…喉が鳴り、私の頭はタルトとチョコレートケーキで頭がいっぱいだ。今度、買いに行く!と心に決める。
集中力の切れた私は走りながら恭子先輩とアイドルについて話し合う。実は恭子先輩はアイドルが好きだ。男性アイドルの方だけど。
そして私も実は男性アイドルが好きだ。キラキラ輝いている人が好きなんだよね。
そんな、呑気にぺちゃくちゃ話をしている私をさわちんが見たら激怒するだろう。お姉ちゃんも軽蔑の目で見るだろう。
でも、私はリズムを保ちながら(寧ろ、恭子先輩に引っ張られた)軽快に走る。
あっという間に8周も走り、私の位置が上位にいることに気づく。無意識で走るって凄い…疲れをそこまで感じない。
恭子先輩にここから全力で走るよーって言われ、また引っ張られるように全力で走った。
あれ、、恭子先輩のお陰で私、めちゃくちゃ助けられてる。
「水希、ラスト一週は競走よ!」
「はい!負けません!」
いつのまにかライバルがさわちん+順位から恭子先輩に変わり、うおぉーと言いながら全力で走った。私に勝ったらジュース奢ってあげると言われ気合が入る。
「あー、、水希に負けたー!」
「やったー!恭子先輩に勝った!ジュースゲット!!!」
私は拳を突き上げ、ジャンプする。やった、やったとノリノリで周りを見ると走り終わった人がまだ15人ぐらいしかいない。
全く順位を聞いてなかった私は恭子先輩に教えてもらい13位だと知った。
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