第285話
ドキドキする。隣の部屋で晴菜さんとお姉ちゃんが勉強をしている。
まだ、晴菜さんとは顔を合わせておらずベッドの上で体育座りをし緊張している。
あー、ダメだ。時計ばかり見て何も出来ない。勉強は集中できないし、微かに手が震えてきた。
頭の中は最初の一言目を何て言おうかでいっぱいで、悩んでいるけど何も思いつかない。
きっと顔が強ばり、声が出ないかもしれない。下を向き、、また晴菜さんを困らせる。
さっき、ひかると電話で話していた。さわちんから喧嘩の事情を聞き、何故かひかるに謝られさわちんめ!と憤慨した。
さわちんの気持ちは分からないわけではないけど、私とひかるは散々悩んで決着したことだったからそっとして欲しかった。
ひかるも前を向き、芽衣と仲良くなり、みんなキスの件を受け入れている。
だからこそ、蒸し返してほしくなかった。よくよく考えればごんちゃんのせいでもある。
明日、ごんちゃんにお仕置きをしないといけない。私達を引っ掻き回した犯人だ。
過去に起きたことは、悩んで受け入れ…その先に導き出した未来がある。
晴菜さんと笑顔で過ごせる未来はあるのだろうか?私が晴菜さんから笑顔を奪ったから怖くてたまらない。
「水希ー、終わったわよー」
「えっ…はい」
勉強を終えたお姉ちゃんがドアを開け、顔を出す。晴菜さんの姿は見えない…きっと下に降りたのかもしれない。
「晴菜さんを送るのよろしくね」
「うん…」
「顔が暗いわよ。晴菜さんが気を使うじゃない。シャッキとしなさい」
お姉ちゃんに言われた通り、シャッキとするため顔を一度叩く。思いっきり叩いたから痛いけどスッキリした。
一度髪を整え、下に降りるとまだ3日しか経ってないのに久しぶりに会った気がした。
晴菜さんの顔が懐かしい。もう二度と会えないと思っていたからかもしれない。
「久しぶりだね」
「はい」
「あっ、水希ちゃん…ちょっといい?」
「何ですか…?」
晴菜さんに二階に連れて行かれる。階段を登り切った後、振り向かれ謝られた。
「ごめんなさい」と言われ、めちゃくちゃ苦しい。私が悪いのに、大人の晴菜さんが先に謝りわだかまりを無くそうとする。
「謝らないで下さい…悪いのは私です」
「私が身勝手なことしたから…」
「晴菜さんは何も悪くないです!」
「我が儘かもしれないけど…指輪貰っちゃダメかな?思い出として欲しいなって」
「部屋にあるので取ってきます」
引き出しから指輪を取り出し、軽く服の袖で拭く。ゴミがついてないかチェックし、小さな傷が付いた部分を触る。
やっと、この指輪の持ち主が変わる。芽衣に申し訳ない気持ちがあるけど捨てることも出来ないし晴菜さんが貰ってくれて嬉しい。
「晴菜さん…どうぞ」
「ありがとう…綺麗だね。これ、高かったでしょ」
「高校生の私からしたら高いです。でも、大学生の晴菜さんにプレゼントする物なので頑張りました」
「あっ、サイズピッタリだ。嬉しい、、大切にするね」
「よく似合ってます」
やっと笑い合えた。晴菜さんが笑い合えるきっかけを作ってくれた。
私もいつか晴菜さんみたいな女性になりたい。綺麗で大人で憧れる。私の理想の人だ。
「じゃ、行こうか」
「はい」
晴菜さんの右手の薬指にピンクゴールドの指輪が輝いている。お姉ちゃんがあざとく見つけたけど何も言ってこなかった。
靴を履いていると背中を叩かれ、帰りにプリンを買ってきてと言われる。私も甘い物が食べたいから自分の分も買おう。
自転車を押しながら、晴菜さんと沢山話す。初めて海で出会った時のことやお正月に再会した時のことなど話が尽きることはない。
ただ、一つ驚いたことがある。私のバイト初日、晴菜さんから来れなくなったとLINEが来た。でも、本当は二階から見ていたらしい。
バイトを頑張っている私を邪魔したくなくて上からそっと見ていたらしい。
帰りに声を掛けようと思っていたけど芽衣がいたから…声を掛けずに帰ったと言われた。
知らなかった、あの日は晴菜さんに会えなくて残念だなって思っていたから来てくれていたことは嬉しいけど気を使わせてしまった。
あっ、そう言えば…晴菜さんらしき人を確かに見た。でも、遠目だったしLINEが来たから勘違いだと思っていた。
晴菜さんはいつも陰ながら応援してくれる。16歳の私と21歳の晴菜さん。いつのまにか5歳差になり差が開く一方だけど、頑張って追いつかなきゃいけない。
「水希ちゃん、いつも送ってくれてありがとう。これからも…送ってくれる?」
「勿論です!」
「彼女、、大切にしてね。私が前を向くためにも。じゃないと怒るから」
「はい…大切にします」
きっとこんなこと考えたらみんなに怒られる。特にお姉ちゃんや芽衣の逆鱗に触れる。だけど、許して欲しい。
私は晴菜さんに惹かれていた。だから、胸が苦しくなったりもした。もし、芽衣と付き合ってなかったら晴菜さんに告白していたかもしれない。だけど、これは今の私だからだ。
芽衣と付き合えて愛を知った。芽衣と色んなことを体験して大人の経験をしたからこそ、大人の晴菜さんに惹かれた。
誰とも付き合ったことない私だったら、大学生の晴菜さんは近寄り難い存在だ。だから、私と晴菜さんはずっとこのままだ。
私は芽衣が大好きで、芽衣に振られない限り離れないし離れたくない。
「好きだったよ」
「嬉しいです」
想いを過去形に出来たらきっと前を向ける。まず、晴菜さんは言葉を過去形にした。
きっと、私達はもっと笑い合える。
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