第284話
朝から気が重い。部活でさわちんに会うと必ず睨まれ、また怒られるだろう。
それに、夕方は晴菜さんが家に来る。晴菜さんとどう接したらいいのか分からず不安になり、昨日はあんまり眠れなかった。
晴菜さん、元気にしてるかな。泣いていた晴菜さんを思い浮かべると胸が痛む。
机の引き出しを開け、指輪を取り出し見つめていると自然と涙が溜まっていく。
「水希、遅刻するわよー」
下からお姉ちゃんが私を呼ぶ。いつもだったらお姉ちゃんは先に行くけど足を怪我しているお姉ちゃんの付き添い兼に荷物持ちとして一緒に学校まで今日は登校する。
「水希、遅いわよ」
「ごめんって」
お姉ちゃんの荷物を持ち、靴を急いで履くとお姉ちゃんが私の顔をジッと見てくる。
「朝から顔が暗いわよ。シャキッとしなさい」
「分かってるよ…」
「だったら、泣きそうな顔しないの」
「泣いてないし…」
「目が潤んでいる」
お姉ちゃんには到底敵わない。私の背中を叩き、私から弱気を消してくれる。お陰で背筋が伸び、前をちゃんと向けた。
「今日、頑張るよ」
「それが大人としての成長よ」
お姉ちゃんの言葉は魔法の言葉の如く、私に勇気と元気とやる気をくれ、反省をさせてくれるお姉ちゃんは凄い。
情けない顔だった(お姉ちゃんに言われた)私の顔が引き締まる。今日は絶対に泣かない。さわちんと晴菜さんとちゃんと話す。
カバンを持つ手にグッと力を入れ、お姉ちゃんのためにドアを開けた。
今日は恩返しとして、お姉ちゃんに尽くそう。いきなり「顔は本当、普通よね」って、今まで何度も言われ分かりきっていることを言われても気にしない!
ぐぇ…さわちんが私を羽交い締めにする。ひかると話していたらまるで短距離選手のように飛んできてひかるから引き離された。
朝、お姉ちゃんから元気をもらい放課後部活を頑張ろうと決めていたのにいきなりさわちんに拉致されお叱りを受ける。
「ひかるにデレた顔で話すな!」
「デレてないよ!」
「このニヤけた顔がムカつく」
「言いがかりはやめてよ」
さわちんは未来ちゃんの次にひかるのことになると過敏になる。去年も胸ぐら掴まれたし、大事な人だと熱くなる。
だけど、私とひかるは苦しさを乗り越え友情を得た。ひかると芽衣も仲良しだし。
「こらー、2人とも何をしてるの」
「恭子先輩、助けて下さいー」
「水希、先輩に助けを求めるな!」
ひかるは大事な友達だから距離を取りたくないし、一度距離を取られ苦しかった。
なのに、さわちんは私を目の敵にする。これから先、ひかると話すたびに怒られるのは嫌だしゲンナリする。話を聞いてくれないし。
「何?どうしたの?」
「さわちんが急に羽交い締めに」
「水希がひかるを弄ぶからです!」
「水希、ひかるちゃんを弄んだの!」
「違いますー!誤解です」
「爽子!何してるの!」
ひかるが怒った顔で私を助けにきてくれた。さわちんはひかるに弱い。普段大人しい子が怒ると怖いし、ひかるに怒られ落ち込んでいる。私は急いでひかるの背中に隠れた。
「ひかるちゃん、水希に弄ばれたの?」
「えっ?何のことですか…」
「ほら、言ったじゃん!さわちんのバカー」
「水希がひかると…あー!もう!」
地団駄を踏んで悔しがっているさわちんに顔がニヤける。ひかるがいれば無敵だ。
ひかるの背中から顔を出し、ベロを出しさわちんを挑発する。さっきのお返しだ。
「ムカつくー!」
「やーい、やーい」
「ひかるは何でこんな奴が好きだったの!意味分かんない」
「爽子?どうしたの…」
「こんな最低な奴なのに、何でモテるんだよー」
「私は最低じゃないし!」
ぐぇ、ひかるの後ろでさわちんに対抗していると恭子先輩に服を引っ張られた。
強固な壁を失い、恭子先輩には頭を叩かれる。子供じみたことをするなと言われ、首根っこを持たれた猫みたいに大人しくなる。
「爽子、あっちで話そう」
「分かった…」
「水希は私が預かるわね。さぁ、ランニングに行くわよ」
「えー、そんな…」
恭子先輩に拉致されて、ランニングと坂道ダッシュに連れていかれる。久しぶりの先輩のしごきがキツい。筋肉は確実についてるのに先輩には敵わなくて悔しい。
「水希、へばるなー」
「はい!」
「もうすぐ予選大会に出る選手選出するんだから頑張りなさい!」
「はい!」
2年生になった時、勉強を頑張り部活を頑張り生徒会長して頑張ると決めた。
一つ一つ、決めたことを実現させ目標を達成させていかないといけない。
晴菜さんといつか笑顔で話せる日がくればいいなと思いながら、お姉ちゃんが好きな女優さんの言葉を頭に浮かべる。お姉ちゃんが好きな言葉で私も好きな言葉だ。
「最も大事なことは、人生を楽しむこと、幸せを感じること、それが全て」
私は芽衣と出会えて、ひかるやさわちん、ごんちゃん、恭子先輩など高校に入って出会えた人達が大好きだ。晴菜さんも大好き…。
みんなのお陰で人生が楽しいし、めちゃくちゃ幸せで、苦しいこともあったけど幸せが上書きしてくれて前を向ける。
ガムシャラに走り続けるときっと見えてくるものがあるはずだと思い、私は走り続ける。
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