第246話

家に帰ってきた瞬間、玄関まで来たお母さんが私の手首の包帯と絆創膏を見て「よくも私の娘に!」って怒っている。

お姉ちゃんが私の敵討ちをしてくれたよって伝えると「よし!」ってガッツポーズをした。やっぱり親子だな、お母さんとお姉ちゃんはそっくりだ。



「お母さん、このお菓子どうしたの〜?」


「晴菜ちゃんがくれたの。この前のお礼だって」


「そっか」



机の上には美味しそうなチョコレートのお菓子が置いてある。お腹が空いていたから一個だけ食べると甘さが口の中に広がった。

美味しい、私の好きなミルクチョコだ。



「水希、先にお風呂に入りなさい」


「うん」


「あっ、包帯取るから手を出して」



お母さんが包帯を取りながら怪我した所をジッと見る。捻挫は包帯を巻かないと気付かないけどコンクリートで擦りむいた箇所が結構酷く大きな絆創膏を付けている。

絆創膏をさすりながらボソッと「乗り込もうかしら」と言う母に慌ててありがとうと言いお風呂に入った。


行動がお姉ちゃんと全く一緒で本気で乗り込みそうでビビる。お母さんもお姉ちゃんと一緒で勝ち気で性格が似ている。

昔、生徒会長をやっていたと言っていたしお姉ちゃんの未来が見えるよ。きっと旦那さんを尻に敷くタイプだ。お父さんが優しいってのもあるけど。


お姉ちゃんはお母さん似で、私はお父さん似と言われてて…あれ?私の未来も見えてきた。確実に私は芽衣に尻に敷かれる。

まぁ、好きな人に尻に敷かれたらそれはそれで本望だ。可愛いいから何でも許せる。

よし、お風呂に入ったら芽衣に電話をしないと、早く声が聞きたい。





お風呂から上がった後、ご飯が出来るまで芽衣に電話をし安らぎのひと時を過ごした。

その後、夕ご飯を食べお母さんに湿布と包帯を巻いてもらい、傷口を消毒したあと大きな絆創膏を貼ってもらう。



「あっ、今日は菜穂が晴菜さんを送るって言ってたから」


「えっ、私が送るよ。これぐらいの怪我だったら大丈夫だし」


「今日だけはゆっくり休みなさい。晴菜ちゃんも気を使うでしょ」


「分かった…」



インスタのことをもう一度聞きたかったけど、今日は無理みたいだ。残念だな、出来れば早く自分の中で決着をつけたかったのに。

はぁ、、とため息を吐きながら私はインスタを開いた。mさんはあの日以来、写真をアップしていない。


あっ、お姉ちゃん達が二階から降りてきた。晴菜さんは私を見つけると一度、目を逸らしたけど私の手首の包帯と絆創膏を見て心配そうな顔をする。



「水希、今日は私が送るから」


「うん、お母さんに聞いた」


「あの、、怪我大丈夫?」


「大丈夫です。すみません、家まで送れなくて」



そんな顔をしないで欲しい。私はやっぱり晴菜さんに弱く、心配をかけたことに申し訳ない気持ちになる。



「手を見せて貰ってもいい?」


「大した怪我では無いですよ」


「痛そう…」


「これぐらいだったら直ぐに治ります」



晴菜さんに手をそっと触られ、手が熱を持ち始める。少しだけ緊張しているといつもの飴玉をくれた。大好きないちご練乳の飴玉を口に入れると元気になる。

これで、怪我が早く治りそうだ。晴菜さんがくれる万能薬の飴玉はどんな薬より効く。



「美味しいです」


「良かった」


「晴菜さん、お待たせしました。行きましょうか」


「うん。水希ちゃん、じゃあね」


「はい」



晴菜さんとの距離はこれぐらいが丁度いい。4歳も年上だし、私が私でいられる距離だ。

手を触られるとドキドキはするけど、いつもの私と変わりない。普通に話せている。

もう、インスタのことは追求しない方がいいのかもしれない。最後にもう一度って思っていたけど、きっと晴菜さんは認めないと思うし。



「あっ、自転車の鍵!すみません、ちょっとだけ待ってて下さい」



用意周到のお姉ちゃんが珍しく、慌てて二階に行く。元々今日は私がいつも通り送る予定だったから用意をしていなかったのだろう。

申し訳ないなって思いながら晴菜さんの方を振り向くと目が合い、怪我をしてない方の手をいきなり握られた。



「気づいて欲しくなかった…」


「えっ?」


「水希ちゃんのせいで諦めきれない…」



えっ…どう言うこと?晴菜さんの言葉の意味が分からず戸惑っているとお姉ちゃんが来て握られていた手を離される。

晴菜さんの目が涙で潤んでいた。今の言葉の意味を教えて欲しい。私はまた晴菜さんに何かをしてしまったの?





寝る前にベッドで携帯を触っていると、インスタのmさんのアカウントが消えていた。いくら探しても見つからず…落ち込む。

やっぱり、mさんは晴菜さんなんだ。私が何度も問い詰めたから…嫌になったのかもしれない。あー、、やっちゃった。


mさん改め晴菜さんとインスタでの交流がもう出来なくなったことが悲しい。芽衣と距離を置いていた時、私の癒しだった。

晴菜さんが撮った空の写真が好きで、更新されるのが楽しみだったのに。はぁっと、、ため息を吐きながら寝るために電気を消す。


朝起きたら、私のインスタがHさんという人にフォローされていた。一枚だけ写真がアップされており、、あの日、mさんが載せていた桜の写真だった。

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