第128話

ドキドキする…ヤバい、、異常な心臓の鼓動と緊張で吐きそうだ。文化交流会で生徒の前でピアノを弾き歌った時より緊張している。部活が終わり制服に着替え、私は芽衣と一緒にバスに乗った。落ち着け、ここで緊張してたら…その、、とにかく私の心臓、頑張れ!



「水希…今日のお泊り止めない?」


「へぇ?えっ…何で、、」


「明日にしようよ!ほら、明日は土曜日だしその方が、、」


「分かった…そうしよっか」



芽衣が乗り気じゃないなら仕方がない。うん、仕方ないよ。今日は私の誕生日だけど…仕方ない。ヤバい、涙が出そうで、落ち込んじゃいそうだ。



「芽衣、また明日ね」


「うん…」



芽衣がいつも降りるバス停に着き、私達はお互い手を振り合ってバイバイをした。危なかった、、もう少しで涙が溢れそうだった。

待ちに待った誕生日がまさかの展開になるなんて思わなかった。それに、お母さんにやっぱり夕飯いるって言わなきゃ。


お姉ちゃんが心配しそうだ…何で家にいるのって、、もう、今日は早く寝よう。起きてるのがしんどいや。

どうしよ…まだ、家に帰れない。涙が溢れて、私は最寄りのバス停に着く前にバスを降りた。バスの中で泣きたくないから。


空が暗い、11月は日が暮れるのが早くあっという間に夕日が隠れ、星や月が見える。

もうすぐ12月だ。来年には2年生になり、来年も芽衣と付き合えてたらいいなって弱気な心が出てくる。

誕生日を一緒に過ごさないだけで、弱気になるなんて情けないね。でも、心が沈んでずっと雨が降っている。



「水希…?ここで何してるの?」


「ひかる…」


「あっ…泣いてたの、、?」


「目にゴミが入っちゃって」


「そっか」



誰にも涙を見られたくなかった。きっと、ひかるは私と芽衣の間に何かあったんじゃないかと思ってるはずだ。

でも、ひかるは優しいからそっとしてくれる。この優しさが身に染みる。


別に芽衣とは喧嘩もしてないし…ただ、何で急に芽衣がお泊まりを止めようかと言ったのか分からなかった。

もしかしたら…嫌になったのかな。私と、、ダメだ、考えるのは止めよう。ずっと涙が止まらなくなる。



「水希、ハンカチ…」


「ありがとう…」


「お腹空いたな。水希、お腹空かない?」


「えっ?」


「部活の後ってお腹が空くの早くて困るよね。近くにね、家族でよく行くラーメン屋さんがあるんだ。行かない?」


「行く…お腹空いた」



ひかるが気を遣ってくれる。私の涙の理由を聞かず、私を連れ出してくれた。

徐々に涙がひいてくる。溢れなくなり、やっと前をちゃんと向けた。ひかるの姿をちゃんと見れて心がホッとする。



「ラーメン、美味しいー」


「良かった、水希が気に入ってくれて」


「少し寒かったからスープが体に染みる」


「寒い時期のラーメンは美味しいよね」



芽衣とは家でのデートが多く、こんな風に一緒にラーメン屋とか行ったことがなかった。

凄く暖かさを感じる。ひかるがよく行くラーメン屋さんは昔ながらのお店で居心地も良く落ち着く。



「ふぅ、お腹いっぱいになった」


「私もお腹いっぱい」


「お腹が満たされると眠たくなるよね」


「もう、眠くなったの?」


「少しね、元々今日は早く寝ようと思ってたし。ひかる、連れてきてくれてありがとう」


「そっか、じゃ…気をつけて帰ってね」



私はひかると手を振り合い、向きを変え歩き出した。本当はまだ帰りたくなかったけど、これ以上ひかるの帰りを遅らせるわけにはいかない。

でも、本当はもう少しだけ一緒にいたかった。ひかるとバイバイした後また、心に大量の雨が降り出して溺れそうだ。



「ひかる!」


「えっ?」


「今日…泊まっちゃダメかな?」


「芽衣ちゃんと何かあったの…?」


「ないよ、、何もない」



今日は忘れられない思い出を作れると思っていた。でも、思い出は作れなくなり感情の行き場を失って宙に浮いている。

ひかると会えたことでやっと落ち着き、安らげる場所をみつけた。甘えるのはダメだと分かってるけど…子供の私には耐えられない。



「芽衣ちゃん、怒ると思うよ」


「だよね…ごめん。帰るね」


「だから、私が水希の家に泊まる」


「えっ?」


「水希の家だったら、先輩もいるし芽衣ちゃんも安心するかなって」


「ありがとう…」



お姉ちゃんに説明するのは大変そうだけど、ひかると居れるなら何でもいい。私達は一度、ひかるの家に寄り許しをもらって準備をしたあと私の家まで歩いた。

ひかるに偶然会えて良かった…やっと心が息をできる。私はドアを開ける前に一度深呼吸をする。きっと、お姉ちゃんにあれこれ聞かれると思うから心構えをした。



「ただいまー」


「あれ?水希、かえ、、ひかるちゃん」


「今日、ひかるが泊まるから」


「えっ?でも…今日は」


「お姉ちゃん、後で話そう」


「うん…ご飯はどうするの?」


「食べてきたから大丈夫だよ」



今日は私の16歳の誕生日だ。芽衣と過ごすと思っていた誕生日はなくなり、私の隣にはひかるがいる。思い描いていた誕生日じゃなくなってビックリだ。


携帯を見ると芽衣からLINEがきていた。今日のことを気にしているみたいで…私は大丈夫だからと送り携帯を机の上に置く。

もう少し時間が欲しい、どうしてもまだ涙が溢れる。もうすぐ、ひかるがお風呂から上がってくる。それまでに涙が乾いてほしいな、、

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