第88話

お互い無言の時間が過ぎていく。芽衣の気持ちを理解できない私は恋人失格だ。

俯いている芽衣に何て声掛ければいいか分からない。手を握ってもいいのか、触れてもいいのか分からずフリーズしてしまう。



「水希…しよう」


「えっ、何を?」


「エッチ…」


「えっ…いや、、それは、、」


「私を抱くの嫌なの?」


「違う…そうじゃなくて」



芽衣は自暴自棄になっている。そんな形で結ばれるのは嫌だ。芽衣だって後悔するよ。

だから、やめよう。お願いだから、やけにならないで。そんな芽衣を見たくない。



「水希は私を抱きたいと思ってる?」


「それは…思ってるよ」


「だったらしようよ。まだ、親は帰って来ないし」


「芽衣…落ち着いてよ」


「落ち着いてるよ!水希は私の全てが欲しいって言ったじゃん」



芽衣の全てが欲しいよ!今すぐに欲しくて堪らない。ずっと我慢して耐えている。

でも、こんな形で芽衣の全ては欲しくない。ちゃんと同じ気持ちの時に結ばれたい。

だから、、やめてよ。


芽衣がリボンを外しシャツのボタンに手を掛ける。ボタンを全部外した後、中に着ている白のキャミソールが私の視界に入る。

泣きそうだ…気持ちも昂らないし、早く芽衣のシャツのボタンを閉めたくて仕方ないのに芽衣が抱きついてきた。



「水希、しよう…」


「しないよ」


「何で…、、私のこと嫌い?」


「好きだからだよ。好きだから大切にしたいし芽衣を傷つけたくない」



だから芽衣。こんなの虚しいだけって気付いて。後で絶対後悔する。私も後悔する。

芽衣の温もりを感じても心は萎んでいく。体の熱が下がり手が動かず、抱きしめ返すこともできない。



「毎日が不安なの…水希が手紙をもらって以来、不安が取れなくて苦しい」


「手紙なんて気にしなくていい。私は芽衣しか興味ないし、芽衣しか好きになれない」


「安心させて…不安を取り除いて欲しい」


「じゃ、沢山のキスしよう」



芽衣が私の膝の上に乗り、私も芽衣の腰に手を回し抱きしめる。止まらないキスに胸を昂らせ、興奮のせいで衝動的に芽衣の肩にキスマークを付ける。

結構ヤバい…芽衣のシャツ、前が開いたままだし私の頭を抱きしめるように抱きつくから私の顔が胸元にあり我慢するのに必死だった。



「芽衣…一度シャツのボタン閉めよう」


「あっ、うん」


「あーヤバかった…狼になるところだった」


「私、食べられるの?」


「誕生日に食べる予定かな。チョコレートケーキと一緒に」



ヤバイ!!!自分が言ったことが恥ずかしくて、自分ってこんなにもキザなの!?って殴りたくなってきた。気持ち悪過ぎる。

これじゃ、超ーチャラい男だ。こんな男、私だったら幻滅する、キモって。



「私も我慢するね」


「えっ、、うん」


「顔赤いよ」


「恥ずかしくて…」



芽衣が笑顔で頬をツンツンと突いてくる。遊ぶのはいいけど、そろそろボタンを閉めて欲しい。それに、この体勢は…体の熱が上がり胸がドキドキして辛い。


芽衣の胸が大きい。キャミの下から見える谷間が羨ましくて、、更にドキドキする。

さっき、大きなお胸が私の顔に当たり柔らかさと匂いに私の中にある欲望と性欲という獣が暴れ出しそうになった。



「水希…私って魅力ある?」


「あるよ!めちゃくちゃあるよ!」


「ふふ、ありがとう」


「今も必死に我慢してるからね!」


「私も我慢してる」



理性と本能が相撲みたいにぶつかり合う。押し出されたら負けで、理性が必死に土俵から出ないよう頑張っている。

本能の張り手や力が凄い。このままだと力負けして放り出されるかもしれない。


どうしよう。足がそろそろ土俵から出ようとしている。頑張って粘っているけど押し出されそうで辛くなってきた。

芽衣は何でボタンを閉めないの…もしかして、わざと!?楽しんでいるの!?



「芽衣…我慢できなくなるから」


「うん…」


「あー、、無理!!!」



ダメだ!理性が本能に負けた。土俵から押し出されひっくり返った亀みたいになってる。

何度言っても芽衣がシャツのボタンを閉めないから…だから、仕方ないよね。だって無理だ。私だって人側なんだよ。



「ま、待って、、ベッドに行こう」


「最後まではしないから…ここでいい」



最後まではしない。だって約束したから。芽衣ともお姉ちゃんとも約束した。だから、ギリギリまでする。

芽衣にキスをしながら、手を胸に当てる。ここまでだったら許されるよねって勝手に解釈し手に力を込めた。


柔らかい…キャミの上からでも分かる柔らかさに興奮し、手を動かそうとしたら下から音がし、芽衣のお母さんの声が聞こえてきて私達は慌てて離れた。

いつもこうだ…前はお姉ちゃんに、、今回は芽衣のお母さんに。


仕方ないって分かっているけど辛い。やっぱり誕生日までお預けみたいだ。

芽衣もボタンを閉め、髪を整えている。私はガックリきて床にうつ伏せになる。気力がなくなり力が出なくなった。



「水希、どうしたの…?」


「気力がない」


「タイミングが…」


「神様は見てるんだよ。いや…お姉ちゃんが閻魔大王みたいに監視して見張ってる」


「ふふ、そうかも」



笑い事じゃないよ。かなりキツいからね。誕生日まであと1か月。長い、、その前に楽しみにしている修学旅行があるけど楽しめる自信がなくなってきた。

モゾモゾとする体の疼きは、無理やり押さえつけられ、お姉ちゃんにヘッドロックをされている気分だ。

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