第84話

ドキドキする。もうすぐ演劇部の劇が終わり、軽音部の出番がやってくる。

私は体育館の隅で芽衣と手を繋ぎながら座っていた。頑張ると決めたのに、いざ本番が近づいてくると弱気な心が出てくる。


ずっと不安で堪らない。もしミスをしたら、観客が0だったらと(芽衣がいるから0にはならないけど軽音部に申し訳ない)マイナス思考に陥り、さっきから微かに震えていた。



「芽衣…お姉ちゃんの近くに座っててね」


「うん」


「あの位置だと…芽衣を見ることができるから頑張れそうなんだ」


「うん…」



体育祭の時もそうだった。部活対抗リレーでゴール近くに芽衣がいて力が漲ってきた。

芽衣がいたから勝てたんだ。だから今回も芽衣の力を借りたい。全力が出せるように。



「あっ、劇が終わった…ふぅ、、」


「明日…沢山ご褒美をあげるね///」


「じゃ、芽衣の愛のこもった手作りお菓子も欲しいな」


「頑張って作る」


「もちろん、芽衣からの愛も貰えるよね?」


「胃がもたれる程あげる…///」



明日は朝からホットミルクを飲んで胃をカバーしよう。芽衣からの溢れんばかりの愛を貰えるみたいだし、胃もたれしてもいいから全てを受け止めたい。


頑張らなきゃ。明かりがつき演劇部が片付けに入っている。ごんちゃん達も見つけたし合流して楽器や機材のセットをしなくては。

あとは、マイクチェックをして…うーん、何でみんな帰らないの?


劇が終わったのに、見に来ている生徒が帰ろうとしない。それどころか、入口から人がゾロゾロとやって来た…。

クラスメイトや陸上部員の他にも沢山の人が来てるし、、なんで?ってなる。

みんな、劇は終わったよ…観に来る時間、間違ってるよ。



「あっ、水希ー!頑張ってね〜」


「恭子先輩も見に来たんですか!?」


「当たり前でしょ、可愛い後輩を揶揄いにきたのよ」


「うわぁ…酷いー」


「冗談よ、楽しみにしてる」



恭子先輩は絶対揶揄いきたに決まっている。このネタで私を遊ぶつもりだ。悔しいよ、ギャフンと言わせたいけど自信がないし勝てる気がしない。



「水希、準備するよー」


「ごんちゃ、分かったー。芽衣はここに座っててね。恭子先輩は一番後ろの隅っこに座って下さい」


「酷い扱いー、先輩だぞー。芽衣ちゃんの横に座るもん」



やる前から疲れてきた。芽衣の方を見ると恭子先輩もいるなんて最悪だ。絶対、ニヤニヤした顔で笑ってそうだよ。

ピアノを移動させなきゃ。キャスターが付いてるからまだ楽だけど重いよ。


ごんちゃん達は楽器を設置させてるし、もうすぐ始まるんだなとドキドキする。

無数の目線が凄い…緞帳で隠してセッティングしたいのにコードなどがあるから閉じれなくて注目され過ぎて胃が痛い。



「よし、準備できた。水希、一度ピアノの音を確かめて」


「うん」



♪〜♫〜♩〜



よし、ピアノの音は大丈夫だ。マイクもちゃんと機能している。あとは、一度みんなで集まって挨拶したら私達のライブが始まる。

緊張する、、みんな、楽しそうにこっちを見ないで。何で演劇部の時より観客の人数が多いの?おかしいよ。

みんな暇すぎだし、だったら教室で休憩してほしい。ここで休憩しないで!



「えー。みなさん、こんにちは。軽音部です。今日は陸上部で生徒会庶務の高瀬水希と一緒に演奏させて頂きます。軽音部一同、今日まで頑張って練習したので最後まで聴いて頂けると嬉しいです」


「えっと…生徒会庶務の高瀬です。今日は軽音部の皆さんと1日限りのコラボと言うことで歌わせて頂きます。えー…頑張ります!」



恥ずかしい…言葉が全然出てこない。もうこうなったら早く歌って演奏して終わりたい。

歌手はやっぱ凄いよ、何千人の前で歌うなんて私には出来ない。

好奇心の目が耐えられないし、普段カラオケに行かない人が歌うなんて無謀すぎる。



「今日は二曲演奏します。二曲ともアニメソングとなっていて、もし知っている曲でしたら一緒に口ずさんで下さい。それでは、よろしくお願いします」



挨拶が終わり、やっと始まる。私はピアノの前に座り呼吸を整える。まずはテンポのいい曲からで、出だしから難しい曲だから頑張らないと。

芽衣が心配そうに見える。芽衣を安心させないと…やっぱり楽しんで欲しいし、最後までやり切りたい。



「まず、一曲目は未×××です」



先輩がカウントを取り始めた。鍵盤に指を添えて力を入れる。もうやるしかない、大好きな芽衣に向けて歌うんだ。

みんなに下手くそって言われてもいい。芽衣のために歌っているだけだし、、芽衣、頑張るから見ててね。

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