第82話

♪〜♫〜♩〜♫〜♪〜♩〜♫〜



「うん、水希完璧!」


「この曲はね…あとはバラードの曲を頑張らないと」


「完璧だったじゃん」


「ごんちゃん、明らかに練習量が違うよー」


「大丈夫だって、それに水希の歌声は最高だし」



ごんちゃんがずっと褒めてくれるけど私は気付いてる。散々煽てて、私に二曲目を歌う事を決定させたから。

調子に乗った私も悪いけど、豚もおだてりゃ木に登るでブヒブヒとごんちゃんの策略にハマりブヒーー、、、と泣いている。



「明日は朝7時半に集合ね!」


「眠いよー」


「じゃ、練習やめる?」


「する…」



どうせ緊張で早起きすると思うし、練習しないと気が気じゃない。まだ、一度もピアノでは練習してないから練習をしたかった。

それに、壇上からの景色を見たくて…きっと地獄なんだろうと思っている。



「はぁ、緊張するよー」


「私達もバックで頑張るから」


「何で軽音部じゃない私がメインなの…」


「だって、水希はボーカルだから」


「歌自信ないのに…」



明日、ちゃんと声が出るか不安だ。特にバラード曲はピアノがメインの曲でミスることが絶対に出来ない。

ごんちゃんがこの曲やりたいって言って決まった曲で…良い曲だけど、胃が痛くなる。


ごんちゃんが私の声に合うからって言ってくれたけど自信ないよ。

歌詞を見ながら独特のフレーズがある曲だなって改めて思う。夏の亡霊って言葉が凄い。私には思い付かない歌詞だ。


メロディーはどこか懐かしさを感じて、体育祭を思い出す。部活対抗リレーで私の周りの環境が変わった。

あの時、芽衣が泣いてて…愛おしいと初めて生まれた感情に今は素直になれて良かった。



「ごんちゃん、もう1回この曲を練習したい」


「よし、やるか」



明日は芽衣のために頑張ろう。その後、沢山甘えるんだ。

明日の頑張っている姿が芽衣の記憶に残るといいな。青春の1ページとして、良い思い出になるように最後は笑顔で締めたい。







何これ…久しぶりに壇上に上がったけど、こんなに見晴らしいいの!?

横向きでピアノ弾きながらじゃないと地獄だ。キーボードじゃなくて良かった…。

あと、数時間後にはこの場所でライブを披露するなんて未だに信じられない。


ごんちゃんには悪いけど、そんなに集客はないと思う。きっと、みんな演劇部の劇が終わったら他の場所に行くよ。

私だって、家庭部に行きたかった。クッキーをタダで配るらしく食べたかった。



「ごんちゃん、何見てるの?」


「パンフレット」


「貰うの早いね」


「水希、見て。私、生徒会長にお願いしてたんだ〜」


「お姉ちゃんに?」



今日のホームルームで生徒に配られる予定のパンフレットをごんちゃんが見ている。文化交流会に関わっている部活動には早めに渡されたみたいで、、えっ…何これ?

最悪!最悪すぎる!部活の紹介欄の所に《軽音部と1日限りのコラボ!生徒会庶務 高瀬水希が歌い、ピアノを弾きます!》と書いてある。


おかしいよ、軽音部の紹介してよ!私の名前なんて載せなくていいのに、何で私の名前を目立つように載せるの。

ごんちゃんめ…私を出しに使ったな。生徒会って書いてあると目立つからって酷いよ!



「ごんちゃん!」


「いいじゃん、軽音部を知って貰うためには仕方なかったの」


「だからって私に内緒にしないでよ」


「歌うことには変わりないからいいの」


「もう嫌だ…胃が痛いー」



これで、クラスメイトにも私が歌うことがバレる。こそっり歌って終わりたかったのに…私のクラスはノリがいいから嫌なんだよ。

陸上部の部員にもバレるし…みんなが来ない事を祈るしかない。



「よし、みんな練習するよー」


「ほら、水希。やるよ」


「帰りたい…」


「今日1日だけ頑張ってよ」



今日1日が長い。早くお昼になって、夕方になって欲しい。そして、帰りたい!

とりあえず、リハと練習を頑張ろう。横を向かなければ観客を見ないで済む。

前だけを向く。ただ、芽衣の位置だけは把握したい、私の癒しを見つめたい。










嫌な予感の通りになってる。ホームルームで配られたパンフレットを見たクラスメイトがザワザワガヤガヤし、絶対に観に行くから!と楽しそうに報告してくる。

来なくていいから…頼むからそっとしてほしい。もう、今にも吐きそうでゲンナリする。


文化部は今日1日のために頑張ってきた。軽音部も部員を増やすために頑張っている。

足を引っ張らないようにしたいけど、別にボーカル希望でもない私が歌う事自体が変だし集客なんて見込めない。クラスメイトは来る気満々だけど…。



「水希、出番まで他を観て回る?」


「そうしたいけど、生徒会の手伝いしないと。全くしないわけにもいかないし」


「じゃ、私も一緒に行く」


「芽衣、体育館に行こう。お姉ちゃんがいるはずだから」



全校生徒が散り散りに興味のある場所に足を運んでいる。文化祭と違って出店や大きな出し物はないけど、部活の宣伝を兼ねて文化部が張り切っている。

私も楽しみたい。芽衣にも付き合わさせて申し訳ない。それに、さっきから視線感じて凄く嫌だ。これもパンフレット効果かな…私が高瀬水希ってバレてるの?

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