第43話

小物を入れている箱の中を探る。ひかるにプレゼントするブレスレットを探していた。

普段、ブレスレットなどを付けない私は買って数回付けると、箱に入れ付けるのを忘れてしまう。

でも、お陰で去年買ったブレスレットが綺麗なままで磨けばそこそこ見栄えがする。


確かエタノールで汚れが落ちるはずだ。陸上部に入部したことによって怪我をする率が増え家にエタノールが沢山ある。

ブレスレットを綺麗に磨いて箱とリボンを買いラッピングしたら…ひかるが喜んでくれるといいけどやっぱり自信がない。


さわちんはひかるが喜ぶと言ったけど本当に私のお古のブレスレットが誕生日プレゼントとして喜ばれるのかが疑問だ。

プレゼントを渡した後、ひかるがガッカリした顔をしたらさわちんを許さない。ジュースを奢らせてやる。


(ピーポーン)


今度こそ芽衣かな。私はゆっくり、出来るだけ早く階段を降り玄関まで急ぐ。

炎天下の中、歩いてきた芽衣が汗をかいているかもしれない。芽衣が早く冷たいジュースを飲まさないと熱中症になってしまう。



「はーい」


「水希」


「あっ、私服だ。一度、帰ったの?」


「うん、汗をかいたから」



芽衣の服、可愛い。水色のワンピースとお洒落な麦わら帽子がよく似合っている。

街を歩いていたらスカウトされそうだ。



「あっ、いい匂いする」


「ちょっと…匂い嗅がないで///」


「シャワー浴びてきたの?」


「うん///」



芽衣から甘い匂いがして芽衣の家に泊まった時、ミルク系のボディソープを使ったのを思い出した。この香りやっぱり好きだ。ミルクばかり飲む芽衣にぴったりの匂い。

芽衣の髪がふわふわしてる。良い匂いがして綺麗な髪につい手が勝手に動く。



「髪、さらさらだ」


「もう…///ここ玄関だよ。そろそろ中に入れてよ」


「あっ、そうだった。ジュース出すね!」



冷蔵庫から冷たく美味しいオレンジジュースを取り出す。あとはお菓子と思ったけど、流石にお菓子は無かった。仕方なくジュースだけをお盆に乗せ芽衣の元へ持っていく。



「芽衣、オレンジジュースどうぞ」


「ありがとう〜」


「今日の部活、大丈夫だった?」


「うん、大丈夫だよ」


「ちゃんと具合は治った?」


「うん、もう大丈夫」



芽衣のおでこを触り、熱がないかチェックする。良かった、本当に熱はないみたいだ。

でも、少しだけおでこが熱いかも…もしかしたら完璧には治ってないかもしれない。

あれ…芽衣の顔が赤い。もしかして本当は無理をしてるのかもしれない。


病み上がりで無理しちゃダメだよ…やっぱり今日までは家でゆっくり休んで欲しかった。

芽衣は責任感があるからキツくてもマネージャーの仕事をこなそうとする。私が怪我さえしてなければ手伝うことは出来たのに。



「水希、距離が近い…」


「芽衣、本当は具合はまだちゃんと治ってないんでしょ」


「治ってるよ」


「だって、顔が赤いよ」


「それは…炎天下の中、歩いてきたから」


「ごめんね…お見舞いに来てもらったばっかりに」


「私が来たかったの」



でも、無理はして欲しくなかった。エアコンの温度をもう少し下げてもう一度冷たいオレンジジュースを持ってこよう。もしかしたら熱中症になってるかもしれない。

あと、私の部屋の方がリビングより狭いからエアコンの効きが良いから二階に行った方が体を冷やせる。


最初は二階に行こうとしたけど、芽衣が私の足を気を使ってくれてリビングでジュースを飲むことにした。

でも、もうすぐお姉ちゃんも帰って来るかもしれないから出来れば2人っきりで話したいし、のんびりしたい。



「芽衣、二階に行こう」


「うん」


「ジュース、お願いできる?」


「いいよ」


「階段に気をつけてね」


「それは水希だよ」



早く包帯を取りたい、包帯のせいで床が微妙に滑って歩きにくい。ゆっくり階段を上がりやっと私の部屋に着いた。

まずはエアコンを入れてと…これで芽衣とゆっくり話せる。だけど、芽衣が立ったままソワソワして落ち着きがない。



「芽衣、座らないの?」


「うん、、」


「ほら、座りなよ」



ベッドに座っている私は横を叩き、早く座ろうと意思表示をしたけどなかなか芽衣は座ろうとしない。

出来れば私としたは床よりベッドに座って話したい。床に座ると立ちづらいからだ。



「芽衣、ほら座りなよ」


「分かってるよ」



しまった…芽衣に会えたのが嬉しくて、距離を取るって決めたのに守れてない。

でも、距離を取るって難しい…大好きな芽衣が近くにいるのに、わざと距離を取るなんて苦しくて辛すぎる。

この変な感情さえなくなれば、芽衣と距離を取らなくて済むのに。


芽衣…やっぱり、あのとき叩いて欲しかった。罵って欲しかった。芽衣の優しさに甘えている私が嫌なんだ。友達に身勝手なキスをした私を怒ってよ。

ヤバい…涙が出そうになる。涙腺弱すぎだよ。ここで泣いたら完璧に変な人だ。



「水希…?」


「ジュース飲もうよ」


「目、潤んでるよ」


「欠伸しちゃって」


「嘘つき…私、水希を見てたもん。欠伸してなかった」



良かった、芽衣が誤解してくれた。「足、早く治るといいね」って勘違いしてくれて、優しく抱きしめてくれた。

やっぱり無理だ…芽衣と距離を取るなんて無理だ。この温もりを離したくない。


抱きしめ返してもいいかな。でも、頭で思うより体が勝手に手が動いている。芽衣を抱きしめると小ささを感じる。

小さいよ、可愛いよ、、なんでこんなにも可愛いの。女の子をこんなに可愛いなんて思ったことがなかった。


芽衣みたいに可愛い女の子になりたいと憧れはあったけど、芽衣に感じる可愛いって感情は憧れと違う気がする。

芽衣を誰にも触れさせたくない、腕の中に閉じ込めていたい、私だけを見ていて欲しいっていう独占欲が私を支配する。


私は最低な感情を持ち、最低な友達で、最低な人間だ。こんな感情を持つぐらいなら、もういっそのこと芽衣に嫌われた方が楽かもしれない。寧ろ嫌って欲しい。

芽衣を押し倒したいと言う感情が怖い。私は最低なクズ野郎だ。

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