第32話
冗談で言った言葉を肯定された私は体が固まり、魂が抜けそうになっている。
話の流れだった。なんとなくファーストキスの話になり冗談で芽衣は経験ありそうだよねって…冗談で言ったのに「あるよ」って。
芽衣はキスしたことあるんだ…って受け入れられない自分がいて苦しい。
知りたくなかった事実に目を逸らしたくて、早く家に帰りたくなってきた。
外はまだ雨が降っていて、芽衣のお母さんは帰って来ていない。でも、我慢できなくておちゃらけながら帰る用意をする。
今の気持ちを悟られたくなかった。僻みではない、ただ信じたくないと言う気持ちが頭と心を支配する。
「あー、もうこんな時間か。そろそろ帰るね〜」
「えっ、帰るの…」
「もうすぐ、お母さん帰って来るでしょ」
「多分…」
「お腹も空いたし、そろそろ帰るよ」
早くこのモヤモヤをどうにかしたい。なぜだか失恋をした気分で、心に雨が降り注いでいる。まるで外の天気と一緒だ、大雨で私をずぶ濡れにさせる。
部屋の中にいるのに寒くて風邪ひきそうだよ、早く帰ってホットミルクを飲みたい。
「芽衣、傘を貸してもらっていい?」
「雨、凄いよ…今日、泊まったら?」
「最近、泊まり過ぎだから帰るよ。突然のお泊まりは迷惑かけるし」
「分かった…」
芽衣、心が狭い友達でごめん。凄いーって言えなかった。友達として話を膨らませることが出来なかった。急に話を切り、空気を悪くしてごめんね。
私は寂しいのかもしれない。私より先に大人になる芽衣に置いていかれるようで。
自分が子供過ぎて嫌になる。いつかは経験する行為なのに、私もいつか経験する行為なのに受け入れられない自分は駄々を捏ねた甘えん坊の5歳児だ。
恋をしたいけど、芽衣が恋をするところを見たくない。恋をして欲しくない。
こんな邪な考え、どうやったら消えるの?友達の恋を応援できないなんて最低だ。
私が芽衣より先に恋人を作ったら応援できるかな?受け入れられるかな?
さわちん曰く、私はモテるらしい。女の子にだけど、、本当に私を好きになる子はいるの?もしいたら、、会ってみたいよ。私のどこがいいのって。私に恋を教えてほしい。
◇
夏休みなのに今日も朝から部活で…思いっきり走れたらいいけど雨のせいでグラウンドが使えない。いい加減、グラウンド使えるようになってほしい。天気がいいのに走れないからストレスだけが溜まっていく。
今日も1日、室内で筋トレと体幹を鍛えるためのトレーニングをする。もっと汗を流したいのにもっと集中したいのに出来ない。
「水希、これあげる」
「さわちん。このお菓子、どうしたの?」
「ひかるから」
「竹本さん?」
「水希の好きなチョコレートのお菓子作ったからって」
「ありがとう〜」
「ひかるにお礼を言ってよ」
「連絡先を知らないよ」
まさか、竹本さんのお菓子をさわちん経由で貰えるとは思わなかった。前、言っていた私の好きなチョコで作ったお菓子だ。
久しぶりの竹本さんのお菓子が嬉しい。芽衣のお菓子も美味しいけど、竹本さんのお菓子も大好きで楽しみにしている私がいる。
「ひかるのLINE、教えるからお礼いいなよ」
「分かった。でも、勝手に教えていいの?」
「喜ぶと思うから大丈夫」
「そうなの?」
竹本さんのLINE画像が可愛いな。犬の写真だけど、竹本さんんが飼っているワンちゃんかな?もふもふで、トイプードルって目がつぶらで愛くるしいね。
竹本さんに何て送ろう?いきなり、お菓子ありがとうだと驚くよね。まずは自己紹介をして、お菓子のお礼の返事でいいかな。
めちゃくちゃ緊張する。竹本さんの立場だったら、いきなりLINEに登録してない人からトークが来たらビビると思うし嫌な気持ちにならないかな?
さわちんは喜ぶって言ったけど、、迷惑トークと勘違いされてブロックされたら怒るからね。絶対にジュースを奢らせてやる。
「私から先に水希に電話番号を教えたってLINEしとうこうか?」
「お願い。不審者に思われたくない」
えっと〈高瀬水希です。さわちんからお菓子を貰いました。いつも美味しいお菓子をありがとう〉それから…何も文章が思いつかない。
私の文章力の無さに続きが書けず、指の動きが止まってしまう。これだけじゃ、いくらなんでも短すぎる。
今度、お菓子のお礼をしたいからジュースを奢らせて下さいもダメだよね。あまりにも硬すぎる文章になる。
どうしたらいいの!とりあえず、お菓子のお礼だけでいいのかな、、
「水希、早く送りなよ」
「待ってよ!悩んでいるの!」
「何を悩んでるの?」
「いつもお菓子貰ってるから、お礼をしたいけど…どうしよっかなって」
「遊んだ時に何か奢ればいいじゃん」
「殆ど話したことないのに?」
竹本さんとは時々話すぐらいで友達と言っていいのか分からない。いつもお菓子をくれて、部活の見学をしてて時々視線が来るなってぐらいだから難しい感覚だ。
竹本さんって…もしかして私の貴重なファンなのかな?ごんちゃんが言っていた私のファンて本当に存在するの?
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