第22話

芽衣、起きてるかな。チャイムを鳴らして、寝ていた芽衣が起きたらどうしようと悩む。

芽衣の家の前で小さな円を描きながらぐるぐると回る私は、自分の尻尾を追いかける犬のようだ。


押すよ、押すよ。誰か私の代わりにインターホンを押してほしい。

このままでは変質者と間違われそうだ。友達の家の前で捕まるのだけは嫌だ。


(ピーンポーン)


押せた!かなりの勇気を振り絞って押したから誰か褒めて!頭を撫でて欲しい。



「はーい」


「あ、、あの…私、芽衣ちゃんの友達で」


「今、開けるねー」



ドキドキする。さっきの声は芽衣のお母さんだと思う。芽衣と声が少し似ていた。もしかしたら見た目も似てるのかもしれない。

まずは挨拶だ、、「初めまして、芽衣さんと同じクラスで友達の高瀬水希です」と何度も復唱する。


まるで彼氏の親に初めて会う気持ちだ。挨拶も堅すぎるかなと何度も悩み結局「友達の高瀬です!」と決めた。

これで大丈夫。「芽衣さんの友達の高瀬です」「芽衣さんの友達の・・」



「こんにちわ〜」


「はい!あの、芽衣ひゃんの友達の、、」


「ふふ、緊張しなくてもいいよ」


「すみません…」



芽衣ひゃんって!ひゃんって!恥ずかしい!私ってこんなにも緊張強いなの…口が上手く回らなくて最悪だ。



「芽衣は部屋にいるから」


「はい、失礼します!」


「今日は来てくれてありがとう」



出鼻からしくじり、芽衣のお母さんに変な子と印象付けてしまった。

ちゃんとしたかったのに…初めて会うからせめて菓子折でも持ってくればよかった。



「芽衣、入るよー」


「えっ、水希?ちょっと、待って!」


「やだ!待たない!入る!」


「馬鹿!待ってよ!」



知らない!私は早く緊張から解き放たれたい。部屋が散らかっていても気にしないし、私の部屋も散らかってるから同じだ。

さっきからバタバタと音がするけど、気にせずドアを開けた。緊張から解放されたかった。



「お邪魔しまーす」


「ば、、馬鹿!着替え中///」


「何で、着替える必要があるんだよー」


「パジャマだったから…」


「別にいいじゃん」


「後ろ向いて!着替えるから」


「はい、はい」



何でそんなに着替えを見られるの嫌なんだろう。体育や部活の時、一緒に着替えているのに…変なの。

もしかして変な下着を着けてるとか?上下バラバラの下着…だったら私もよくやるから普通じゃないかな。私の女子力が低いだけ?



「いいよ…」


「芽衣、具合は大丈夫?」


「うん…頭が痛かっただけだから」


「そっか、良かった」



元気はあるみたいで良かった。これで冷えピタ貼って、体温計を口に加えて寝ていたらすぐに帰らないといけないところだった。

おめでとうって言ってプレゼント渡すだけなんて寂しいし、少し会話をしたかった。



「水希、お見舞いに来てくれたの?」


「うん、あとお誕生日おめでとう」


「ありがとう…」


「えっとね、これ…プレゼント」


「ありがとう///、開けていい?」


「うん」



気に入ってくれるかな?私が今までで過去最高の金額のプレゼントだから緊張する。

これで嫌な顔をされたら私はショック死するかもしれない。



「可愛い///。ありがとう、大切にするね」


「うん、はぁ…良かった」


「どうしたの?」


「芽衣が気に入らなかったらどうしようかなって…怖かったー」


「水希からのプレゼントだもん。何でも嬉しいよ」



目をキラキラさせながらネックレスを眺め、触っているから気に入ってくれたみたいだ。

良かった…これで16500円が無駄にならずに済む。毎日の楽しみを10円チョコで我慢して頑張った甲斐があった。



「これって、ブランド物でしょ…高くなかった?」


「そんなには…」



恭子先輩に言われたからブランド物のネックレスにしたけど、金額を知って気持ち悪いって言われないよね…急に怖くなったきた。自分だったら引くかもしれないからだ。



「つ、、つけてみてよ」


「うん///」



上手く誤魔化せて良かった。それにネックレスが芽衣に似合ってて良かった!

チェーンが細くて、これだったら制服の下に付けていてもそんなに気にならないし見つからないと思う。チャームもそんなに大きくなくて、可愛い芽衣にピッタリだ。



「水希、どうかな?」


「似合ってる」


「ありがとう///」



私のお年玉の残りとお小遣いはほぼ消えたけど悔いはない。芽衣の笑顔を見れて良かった。これで思い残すことなく家に帰れる…って嘘!外、大雨だ!

予報では夕方からだったのに、まだ15時で、、私、傘持ってきてないのに。



「雨…」


「あっ、本当だ。風も凄いね」


「今日、暴風雨だって…」


「えっ、そうなの?」


「だから、部活も中止だった、、帰るとき傘貸してくれる?」


「水希…今日。泊まらない?」


「いいの?芽衣はまだ病み上がりでしょ」


「大丈夫だから…」



病み上がりの芽衣に無理させたくないけど、芽衣が服を掴んで離してくれない。

こうなったら親に了解を貰ったあと、もう一度芽衣の誕生日のお祝いをしよう。

嬉しいな、芽衣の誕生日を一緒に過ごせるなんて。頑張って来て良かった。

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