第120話 対峙

 

「クソッ、邪魔すんなッ!」

 天井に設置された、銃を取り付けた塔――いわゆるタレットが散発的にアイシャに射撃を行う。

飛翔蹴ロンシィアンツウ!」

 龍を思わせる凄まじい飛び蹴りがタレットに炸裂する。脆いのか一撃で粉砕してのけた。

「脅威とはんだ――」

 タレットがさらに射撃をアイシャに集中させるのだが、あくまで警備用ゆえなのか絡繰兵ほどの精度はなかった。

「黙ってろ!」

 タレットに飛翔蹴を当てると、無視できるタレットは無視してアイシャは九龍がいるであろう中央制御室に向かう。


「……で、中央制御室ってのはここか……?」

 アイシャの予想に反し、遺跡の中央制御室に歓迎というほどの歓迎はなかった。

 フェイが言っていたところの「こんぴゅーたー」やその端末が部屋中に設置されているのだから、間違いはないはずなのだが。

「ッ! なんだこりゃ!」

 さらに奥には巨大な絡繰兵が置いてあるのが見える。

 建造途中なのか、ケーブルなどが向き出しだが、武装であろう巨大な剣などの武器はマウント済みだった。

 ――こんなの持ち出されたら勝てなかったかもな……。

 どんな仕様の絡繰兵かは知らないが、ハオのように神龍がこれに宿っていたら、勝ち目はないのではないかと思わされる。

「ん? 人の頭じゃねェのか?」

 さら。目を凝らしてみると見るとこの絡繰兵の頭は珍しいことに人ではなく龍を模したものだった。

 ――こいつ、あるけみ野郎が造ったんじゃないのか?

 絡繰兵の原型自体は、生産工場であった各地の古代遺跡で発掘されたものだ。実際のところそれを利用しているに過ぎない。

 ――龍神か……。あの性悪神龍のいう通り、ホントにいたんだな。

 龍の頭をしているこの巨大絡繰兵は人間とは別の存在――、おそらく龍神が造ったのではないかと思わされる。

 だが、いつまでも気にしていられない。時間がないのだ。

「どこだ、性悪神龍ッ! さっさと師範センセイを返しやがれ!」

 九龍の姿が見えない苛立ちから、大声で怒鳴り散らすと、声が聞こえてきた。


「ほんに、下品でやかましい女じゃのう。方舟浮上のために端末を操作していたところだというに……」


 九龍だ。まだケイの体を乗っ取ったままだ。髪の色は同調が進んでいるのか、銀色に変わっている。

 ――クソ、時間がねェ。

 このまま同調が進めば、京の精神は九龍に押しつぶされるのは時間の問題だ。

 そして、京を救い出す鍵である乾坤圏ケンコケンは無反応。

「貴様のような何の異能も持たぬ小娘、放っておいてもよかったが。京がうるさくてかなわん。禍根を残さぬよう、殺してくれる」

 九龍の眼差しはまるで氷のように冷たい。

 ――もう、師範はやばいんじゃないのか……。

 一瞬、諦めの心が脳裏をよぎってしまうのだが、

 ――大丈夫、希望を捨てないで!

「ん?」

 一瞬何か声が聞こえたのだが、それを確認するいとまなどなかった。


わらわ相手に余所見をするとはいい度胸じゃな、小娘がッ!」


 すでに九龍がアイシャの目の前に接近していたからだ。 

  

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