第100話 不死の秘密、暴かれる時

「参謀、弾切れです! 標的はいまだ健在!」

「ふむ。これはさすがに予想外でしたか」

 兵士がした報告に、さすがのブオも狼狽えた。

 ありったけの弾薬で凄まじい弾幕を張ったのだが、アーサーはその足こそ止めたが、耐えきってしまっている。

「不死の存在でもないのに一体なぜなのでしょうか……?」

 クロウリーでもアーサーの尋常ならざる耐久力に恐れおののいていた。弾幕を前にして無傷であるのはもはや説明がつかない。

「まず、銀の水の効能だけではないでしょうね……、と」

 銀の水は肉体や治癒力、寿命などを強化するものであり、無傷にするものではない。ブオがそうひとりごちた時だ。

「久しぶりだな」

「お久しぶりです」

 妲己とズーハンだった。

「フン、時代遅れの道化二人ののお出ましか。そういや京とかいう女はどうしたんだ?」

 アーサーがケイがいないことを気にした。ケイとアイシャにも、研究拠点を潰されるなど散々煮え湯を飲まされていたからだ。

ケイなら太古の試作絡繰兵を斃したフェイを迎えに行っている。数多くの絡繰兵でも斃せなかった試作絡繰兵を斃したのだからな、恐るべき連中だよ」

「なるほど、霧を発生させていたのは太古の試作機だったのか……。なりほど、すこしは評価を改めるべきか」

 妲己からアーサーにしては殊勝な態度を見せた。アーサーは常にこの国の戦力を低く見ていたのだから。

我々絡繰人形カラクリヒトガタを己の野望の道具としか見てない態度も改めて欲しいのですが」

だ。道具ふぜいが、わきまえなよ」

「ッ!」

 ズーハンが睨みつけるのだが、アーサーは滑稽だとせせら笑うと、ズーハンは怒りで拳を強く握りしめる。

 妲己から与えられた絡繰人形カラクリヒトガタという称号はいわばズーハンにとって誇りだったからだ。

「まァ、いかに功夫遣いでも僕を殺すことはできない。そもそも傷をつける事すらできないんじゃ話にもならない」

「……」

 妲己は静かに舌打ち。マシンガンやガトリングガンを前にしてアーサーは傷すらついていないのだから。

「なににせよ、貴様の下らん妄言もここまでだ」

 妲己が極陰拳ジーイィンチュェンの構えを取ると、陰の氣が妲己からほとばしった。

「私も戦わせてください」

 ズーハンも同じ極陰拳ジーイィンチュェンだ。陰の氣を纏う。

「秘密を解かない限り僕は殺せないよ」

 アーサーは肩をすくめ、そして特別製の銃を構えるが――。

黒曜拳ヘイヤォチュェンッ!」

 妲己の方が速く、黒曜石の名を冠した拳が繰り出される。極陽拳の熊猫拳シュンマオチュェンと同じ基本技だ。氣を拳に集め、鉱石のように固い一撃を放つ。

「ちッ」

 痛覚はあるようだ、アーサーは痛みで顔をゆがめる。

「なぜ傷がつかないのですか!」

 ズーハンが珍しく声を荒げた。常軌を逸した耐久力にいら立ってしまっている。

「馬鹿が! 道化が王たる資格を持つ者を殺せるわけがないだろう」

「――ッ!」

 アーサーが何気なく言い放った言葉だが、クロウリーはハッと気づかされる。

 ――鞘に王……まさか、あれは……。 

 ふとアーサーが腰に付けている鞘に注目した。剣を抜いてもいないのになぜわざわざ鞘を腰に付けているのか、それが疑問だった。

石英脚シーインジャオッ!」

「なるほど、切れ味だけはいいね!」

 ダイヤモンドの如く鋭い蹴りが刃物の様に切り裂くが、それでもアーサーは傷を負わない。

「死ね、功夫遣い!」

「!」

 アーサーが銃のブレードで妲己を突き刺そうとした時だ、クロウリーが叫んだ。

「ブレット、アーサーが腰に身に着けている鞘を狙ってくださいッ!」

「はァ?」

「いいから早くッ!」

 ブレットが何を言っているのかという声を出してしまうのだが、クロウリーは有無を言わさない。

「りょ、了解ッ!」

 ブレットは慌てて狙撃銃を構え、アーサーが腰につけてる鞘をスコープに収める。

「――ッ!」

 引き金を絞り、ブレットの狙撃銃から銃弾が放たれた。

「ッ!」

 銃弾はアーサーの攻撃を止めただけでなく、アーサーが腰につけている鞘に埋め込まれている宝玉を破壊した。

「しま――ッ!」

 鞘の宝玉が破壊され、あれだけ自信に満ちたアーサーの顔色が青ざめ始めたのだ。 


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