第四章 絡繰功夫戦争

第80話 仕切り直し


 霧が濃く疲弊した軍の現状では進軍が困難として、いったん仕切り直すことになった。

 当然、アイシャたちが妲己を追うのはあきらめる事になった。

 ――錬金術師アルケミストの本陣である古代遺跡を制圧し、シロアリ共の一掃を図る。

 決戦のためにヤンが統括している軍の詰所を前線基地とし、フェイが軍を集結させていた。

「あの絡繰道士は自害を計って死んでしまった。辞世の句なのかこの世の恨み辛みを吐いてな……」

 フェイが席に着くなり、阿津の自害を京とアイシャに伝える。

「先帝がキョンシーを禁制にし、風当たりが厳しくなったのが原因で人間不信が強めし、死者の国をと蜂起したらしい。どうにか落ちのびたが、運悪くシロアリ共に絡繰兵にされたようだ」

「……そう」

 京は複雑な顔をさせられる。師を直接ではないにせよ殺害に至らしめた男ではあるが、事情が事情だけに悪と喝破できない。

「叔母上の気持ちはわからなくはないですが、罪人ではあるのは事実。法の下に裁けなかったのが残念でならない」

「そりゃ帝らしからねェ言葉だな」

 このフェイの裁けなかった、というのは死罪にしたかったわけではない。独裁ではなく、法治国家を推し進めているゆえの言葉だとアイシャは理解していた。

「正義は暴走する、その末路である私刑はすでに太古から禁じられていたのだからな。だからこそ権力は分離せねばならない」

「えっと、それも西洋の?」

 フェイが政治の持論を語るのだが、京が疑問を差し挟んだ。

「確かにそうだが。学び、納得した上で取り入れている」

 フェイとしては反論したいところだった。無意味に西洋の学問や化学を妄信しているわけではないと。

「政治談議はいいとして、どうあの遺跡を攻めるんだよ?」

 本題に入ろうとアイシャが言うと、フェイは「確かに」といい、仕切り直すためか咳払いをした。

「もしシロアリ共が父上の言う《神》を復活させているならば、五行の龍である蒼龍の功夫である真龍極拳が必要になる。ゆえに叔母上にも特別に軍に同行してもらう」

 と、机に広げてある地図を見てフェイが言う。

「俺も連れて行ってくれ、妲己たちが気になる。どうせ太公望のオッサンも付いてくるだろうしな」

「おいおいどうせとはなんだ。アイシャちゃんよ」

 太公望の名前を出すと噂をすれば影というのか、太公望が煙管を吹かしてやってきた。

「西洋の銃とやらはなかなかの威力だが、もし連中の戦力が絡繰兵だけじゃなかったら厄介だ。熊相手じゃただの銃弾じゃブチ抜けねェぞ」

「もう西洋の銃の特性を理解されたのですか?」

 フェイが驚いた顔をする数百年ぶりに目覚めたのだ、カルチャーショックを受けているのだと思うのが普通だろう。

 しかし、太公望はそれを感じさせないほど回転が速い。

「西洋の銃に似た構造の武器は研究されていたからな。熊の表皮ってのは凄まじく分厚いぞ。銃で殺すなら貫通力のある銃弾で眉間を狙うしかねェ。龍脈を注ぎ込まれているならなおさらだ」

 太公望の言う通り、熊の表皮は分厚く、そしてその力も相当なものだ。極陽拳の基本技であり熊猫拳が熊の名前を取っているのは伊達でも何でもない。

「やはり遺失叡智部隊の宝貝兵器がいるようだな」

「熱剣や光線銃だっけか? んな物騒な兵器、俺の時代にもなかったぞ」

 フェイの話している太公望が呆れた顔をしている。スペック自体は効いていたが、高熱で斬る剣や光線を発する銃は宝貝でも実現できてはいないようだ。

「よし。軍を再編成し次第、古代遺跡へ向かうぞ」

 フェイが話を切り上げようとした時だ、扉が乱暴に開いた。

「フェイ陛下ッ!」

「どうした将軍?」

 扉を開けたのは巡回に出ていたヤンだった。


「いえ、妲己が負傷したようです!」


 それは妲己たちが古代遺跡を攻められず撤退したとの報せだった。

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