第51話 面倒な話
「偽物はこの道場にいます……」
女に案内され、妲己とズーハンは偽物が拠点にしている道場に向かう。
「……手入れされているな」
古びているが、外見からして道場の作りは悪くなく手入れもされていたのだとわかる。
――本当にただの悪党なのか……?
道場を見てふと妲己は考え込んでしまう。
京の名前を利用しただけの悪党だけというだけなら、わざわざ道場を手入れする考えはないはずだ。
「偽者から話を聞いてみる。どうにも訳がありそうだ」
昔ならば問答無用でこの手の悪党は退治していたが、まずは話を聞こうと思うようになったのは悪い傾向ではないはずだ。
「確かにそうですね……」
ズーハンも賛成だと頷いた。
妲己が招いた事の責任を感じるようになっている。無論ズーハンは関係がないのだが、世が乱れてしまったことは妲己の本意ではないと理解できるようになっていたからだ。
まず解決のために話を聞く、これだけでもようやくこの二人の時が動き出したともいえるのかもしれない。
「確かに食料は寝床を要求してきますが、功夫遣いだと脅してはきても無暗に暴力は振るっていませんね……」
女性は顎に手に当つつ言う。
「なるほど……。困窮した功夫老師の一人かもしれないな」
妲己の言う通り、この国には戦役により困窮し放浪している功夫老師もいる。
この国の治安はどうにか回復の兆しを見せているが、貧困まではまだ改善されていない。とはいえ、今は話をしている暇はない。
道場の扉を開く。
「!?」
道着を着た女が目を見開いて妲己たちを見ていた。黒髪で短くまとめ、さっぱりはしている。
年は妲己の見た目の年齢と同じぐらいだろうか。
「まさか、功夫老師ですかッ!?」
女が妲己を見て拳を構える。妲己もズーハンもは逃亡時のままで道着は着ていないのだが、それを一見しただけで見破る当たり女はにわかでないことがわかる。
「住民が困っている、やめてはもらえないか? 話せばわかってくれる」
「……すみません、その通りです」
妲己が前に出ると女は土下座をし始め、謝罪の言葉を述べる。
「この村に厚意に甘えすぎていたのです……。ひもじいのは誰しも同じはずなのに」
「……なるほど。甘えがいつしか増長を生んでしまったというわけか」
妲己は腕組み。難しい話だと思わされる。
「……あっさり引き下がりましたね」
一戦交える事になると思ったズーハンが肩を落とす。
「あ、いえ。実はあなた方の強さにおののいてしまって、我に返ったのもありますが……。いえ、すみませんでした」
女老師は頭を掻く。ある程度の強さは持っていたのだろう、しかし経験の少なさゆえと困窮で増長してしまったのだ。
「えっと……、見た目だけで功夫老師の強さってわかるものなんですか?」
「まァ、身体に纏う《氣》は老師や仙人の強さを計る基準の一つではあるが……」
妲己は逡巡しつつも老師や仙人とは何かを説明してくれた。
「あの、すみません!」
「!」
女老師が妲己に駆け寄って来る、ズーハンが驚くのだが。
「名を知らぬ老師様! 是非とも手合わせを願いたいです!」
「は?」
珍妙な提案に場の空気が一瞬白けた。
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