第41話 忌まわしき風習残る寒村
「貴村の要請により派遣されました。遺失叡智部隊の隊長を務めている陣です。そちらの集会所をお借りしたいのですが?」
「おお、助かります。どうぞお使いください」
陣は軍の証明書を村長に見せると、村長は頷き了承してくれた。
「それで、妖怪とは?」
「妖怪ではありません、神でございます! わが村では森に住まう神に生贄を捧げておるのですが、最近のその神が生贄だけでは足りぬようで……」
それを聞いた陣は眉を顰める。
生贄のような前時代的な風習は前帝の龍の代で禁止をするようにお触れを出しており、すでに廃れていたのだと思っていたからだ。
「生贄を禁止するという帝のお触れは出ていたと思うが?」
「軍人さんにお聞きしますが、西洋の科学など何が役に立つのですか? 飢饉が起きたのは村に住まう神の機嫌を損ねたからで……」
「悪いが私も帝も迷信の類など一切信じないのでな」
言いすがる村長を陣は一言で斬り捨てる。宗教はあくまで宗教でしかない、科学的な知見もなく、ひたすら災いから逃げるだけでしかない。
――口減らしか。
生贄は悪しき慣習であるのだが、それも口実だと陣は推測していた。
実のところ村にとって役に立たない、もしくは都合の悪い存在を体よく消すための風習であると。
とはいえ、この寒村にはそれを覆すための基礎がないのだ、だから続ける羽目になっている。
「存在しない神などに生贄を差し出したことろで飢饉など解決しない。その悪化する状況を食い止める存在するのが学問と政治だと私は思っている」
「……軍人さんは、この村の現状を知らぬのです」
村長が露骨に嫌悪感を露にして毒づいた。この手の話は堂々巡りにしかならないのが常であり、諭すのは無駄でしかない。
――とはいえ、処罰されるのを覚悟の上でこちらに要請を出したのは間違いない、か……?
陣は本題を切り出すことにする。村長は内心では生贄を出すことの限界を悟っていると感じたからだ。
それほどその《神》による被害は村にとって無視できない物になっているのだと。
「で、その神とやらはどこにいる?」
「村より奥深くに昼間でも日の光が差さぬ森がございまして、神様はそこにおわします」
村長が言うには、森の奥にいるらしいという。
「今回も生贄を捧げる予定だったのですが、生贄を嫌がりましてな」
「……理由もなく殺されるのだからな、当たり前のことだ。我々はその負の連鎖を止めに来た、それだけだ」
陣は吐き捨てるが、村長は陣を忌々しげに睨むだけで何も言い返さなかった。
「……生贄ェ?」
京も村に着くなり村人に情報収集をしていたようで、おおむね陣と同じ情報を得ることができた。
「はい。今回は私の恋人が生贄に……」
青年は表情を暗くしていた。涙で顔を腫らしているのが生贄にされる少女なのだろう。黒髪のお下げが印象的だ。
「私は彼女と共に教師としてこの村に赴いたのです。犠牲しか生まぬ風習は止めるべきだと進言していたのですが……」
教師の青年は肩を落としていたが、京は青年の恋人が生贄に選ばれた理由が推察できた。
「……」
要は村に学問を広めようとした二人が邪魔になったのだろう。
しかし、今までは餓死だけで済んだはずが、神様は生贄を喰い始めており、だから軍に要請を出したわけだ。
「なら簡単だ。俺たちでそのカミサマとやらをブッ斃せばいい話だろ」
アイシャの出した結論は単純明快だ。
「……そうね。この村には生贄を出せばいいって考えを改めてもらわないと」
これ以上、前時代的な生贄による犠牲を出させるわけにはいかないのも事実だ。
「よっしゃ、そのカミサマを斃す算段を考えるわね」
京たちの行動は早い、集会所にいる陣たちに相談することにした。
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