第308話 先ずは保護

鬼が来た事で、里から追い出されてしまった者達は、森の中に独自に結界を張って篭っていた。


その結界が、高耶の感じたものだ。


伊調達が以前来ていた時に、隠れ里や結界に気付かなかったのは、それが土地神の施したものだったから。


今回感じたのは、能力のある者達で張っていた結界だったために高耶もすぐに気付いたというわけだ。伊調達も、この結界ならば気付いただろう。


その里の者達は、避難してもらうことになった。茶屋の裏手に集まった人数は五十余人と予想より多い。


だが、そこで高耶は躊躇ためらう。気になったのは、この茶屋だ。


「この茶屋が閉まるのは良くないですね……地元の方々も利用されていたでしょうし……」


そう残念そうに高耶が言えば、声をかけてきた女性店員が小さく手を挙げた。


「あの……私もこの店は閉めたくありません……なので、私は残ります。ここに住むことも可能ですし、もう私は人とあまり変わりませんので……」


これに、追従する者がいた。三名の女性達だ。一人は、最初に茶屋で見た女性だった。


「あ、なら私も残ります」

「私も」

「私もです。元々、ここで交代で外の生活に慣れようとしていましたし、仕入れとかもやっていましたので」


少しずつ、この茶屋で人と関係を持ち、外に出て行くというリハビリ的なものをしていた。よって、彼女達は隠れる必要はなく、この茶屋に留まるのも問題ない。


「それに……里に入った人たち、あれから里の外に出ることがないですし、襲われることはないかなと……」

「うん。そういえば、一度も出てないよね。私たちのこと、追ってくると思って警戒してたのに」

「何もないよね……」


どうやら、里から彼らを追い出してから、鬼達は一切出て来ていないらしいのだ。


「……そうですか……では、もし何かあった時には連絡を。逆に式をここに置いてしまうと、警戒されるかもしれませんので……この店に結界だけは張っておきます」


そう伝えて、結界を施す。高耶の結界は他の術者よりも強力で特殊だ。悪意ある者を入らないようにした。しっかりと鬼からも彼女達を守ってくれるだろう。


「万が一、結界を通過された場合は、二階に立て籠もってください。迎えに来ますから」

「「「「分かりました」」」」


そして、待っていた電話が来た。彼らをどこで匿うかを焔泉に相談していたのだ。


「どこになりましたか?」

『瑶姫の所に決まったわ。直接繋げてくれるかえ?』

「え……あ、はい。瑶迦さんの……分かりました」


まさかそこにとは思っていなかった。しかし、確かに良い選択だとも思った。


高耶は、茶屋の裏口の戸に手をかける。そして、開くとそこには、藤が待っていた。


「お待ちしておりました。そちらの方々ですね。ご案内いたします」

「「「「「……」」」」」


突然、知らない女性が現れただけでなく、明らかに茶屋の中の光景ではない場所が戸の向こう側に見え、一同は戸惑っていた。


「驚かせてすみません。扉を繋ぎました。あちら側は、別の場所に繋がっています。彼女は藤の木の精霊です」

「っ、精霊……」


呆然と呟く者達に、藤は微笑みを向ける。


「我が主は土地神です。皆様をお迎えする場所は、特別に創られた世界。そこに、移住していただきます。そのまま住んでいただいても構わないとのこと。どうぞ、先ずはご覧ください」


その言葉に誘われるように、ドアに向かって進み始める。土地神と聞いて、少し安心したのだろう。彼らは、この場所の土地神に保護されていたようなものだ。土地神というだけで、信頼度が高かったようだ。


全員がドアの向こうに入ると、残った四人の女性達がそろそろと中を覗き込む。


それを見て、高耶は提案した。


「お店を閉める時間を教えてください。それで、今夜はあちらで皆さんと過ごしてもらえれば、安心できるでしょう」

「っ、お、お願いします……六時には閉めますので」

「分かりました。では、六時にまた来ます」


そう高耶が答えると、女性達は申し訳なさそうな顔をした。


「でも……またここに登って来てもらうのは……大変ですよね……」


それを心配したのかと高耶は微笑む。


「いえ。このドアを使わせてもらいます。下にある旅館から、このドアを繋げて移動しますから、一分もかかりませんよ」

「えっ、あっ、そ、そうなんですね……外の人ってすごいのね……」


最後の言葉は、小さく呟かれたため、誰もが出来るわけではないと説明することは出来なかった。


「では、六時に」

「「「「はいっ」」」」


こうして、隠れ里に住んでいた人々は保護された。











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