第293話 表情に注意
高耶達は体育館に案内された。そこには、まだ生徒達は来ていない。
待ち合わせていた生徒達が、何人か校舎の方へ戻っていくのを見て、高耶は統二に問いかける。
「統二や二葉君は教室に戻らなくていいのか?」
「僕も一緒に舞台に出るんです。二葉は、俊哉さんにつくことになりました。控えのモデルということで、俊哉さんを登録しましたので」
一応、統二だけは、身内として一緒に舞台に上がり、端の方で控えるらしい。
これまでも、スカウトした者として、全校生徒に顔を見せていたという。今回はたまたま、問題が起きないようにと、身内で固めたが、同じように『自分が窓口です』と顔を見せることになるらしい。
「えっ、俺が控えのモデル……っ、ぷっ、マジで!? ムリムリっ、あははっ」
これに、二葉が何気なく告げる。
「俊哉兄は、黙ってるか真剣な顔してたら、モデルもいけるって」
「え?」
「そうですね……俊哉さんは、優希ちゃんにも落ち着きがないって言われるくらいですし……でも、黙って……それも兄さんの護衛っぽくしてる時は、結構女性達の反応いいですよ」
「は? マジで? ガチで? 俺ってイケてんの!?」
「「……ええ、まあ……」」
こういう所が残念なんだよなと、統二と二葉はあえて口にはしなかったが、ゆっくりと目を逸らす仕草から、ありありとそれが読み取れた。もちろん、俊哉は気付いていない。
高耶は気付きながらも、それが俊哉だよなと納得する。
「マジかっ! よし、高耶。俺がしっかり守ってやるからな!」
「……」
真面目な顔で宣言されたが、高耶はこれには呆れて声も出なかった。
舞台袖の入り口まで来ると、なぜか統二と二葉が待ったをかけた。
「ちょっと待ってて、兄さん」
「俺が見て来る」
「うん」
突然、緊張感を持って統二と二葉は顔を見合わせ、頷き合う。
二葉だけが先に入って行った。
さすがに気になった俊哉が統二に声をかける。
「なんかあるのか?」
「あの……同じクラスの女子が、僕と同じように兄をモデルとして連れてくることになっているんですけど、その女子……兄さんのこと、オタクとか、ヒョロヒョロした男だったりして〜って、バカにしたんです」
「うわ……嫌味な女……ってか、統二怒ってんじゃん」
珍しく本気で怒っている様子の統二。そして、その怒りは爆発した。
「当たり前です! 兄さんがどれだけすごい人か! そりゃあ、ちょっと、かなり仕事人間ですけど! いつもは気配消すみたいに、オタクルックになってますけど! 兄さん以上にカッコいい人なんていないですよ!!」
「おおっ、本当に好きだな」
「当然です!」
「……」
好意は分かるが、果たして、褒められているのか、遠回しに抗議を受けているのかは分からない。
嬉しそうな顔をして、二葉が戻ってきた。
「いいぜ。相田のやついる」
「じゃあ、兄さん、行こう」
「ああ……」
何をそこまで気合いを入れる必要があるのか。俊哉もそうだが、高耶には理解できていない。
その相田という女生徒が連れてきたモデル以外にも、既に十人ほどのモデル達とその身内である生徒が集まっているようだ。
因みに、モデルは全員男だ。女性をとなると、気を使う事が多くなるためらしい。
そこに高耶が足を踏み入れた瞬間、生徒や担当の教師達、モデルの男達までもが、息を止めたように高耶の方を見て動きを止めた。
さすがに視線が一気に集まったことで、高耶もやはり神気が影響しているのかと不安になり、神から貰った神気を抑える指輪の有無を確認する。
きちんと着けていることを確認し、少し下げていた視線をまた上げる。
まだ動きを止めたままだ。困惑する高耶だが、統二達は冷静だった。これくらいで許してやろうというように、一歩前に出て高耶の前に立とうとした。
しかし、そこで、問題の相田の連れてきたモデルである兄が目を丸くして駆け寄ってきた。
その表情は喜色に満ちている。
「師範じゃないですかっ!!」
「ん?」
そこで高耶も気付いた。
「優也?」
「そうです! いやあ、師範のまともな私服姿、初めて見たんで、すぐに気付かなかったじゃないですかっ。あっ、写真いいっすか? 迅さんに自慢するんでっ」
「……お前な……」
彼は相田優也。迅達と共に、高耶の指導する者の一人だったのだ。
「この前、迅さんにペアルックだったって自慢されたんすよ!」
「……あれは、他の奴の陰謀だ……」
寿園によって引き起こされた事故だったと高耶は思うことにしている。
「そうだったんすか。俺はてっきり、迅さんがついにやらかすようになったのかと心配したっすわ」
「……」
そう言いながらも、スマホを統二に任せて、高耶の隣に並んでいた。
「いやあ、まさか、こんな所で会えるとは。あっ、お願いします!」
「あ、はい……じゃあ、撮ります」
この時、統二もだが、俊哉も二葉もこの展開に驚き、相田という女生徒が口を開けたまま、かなりのアホヅラを晒していたことには気付かなかった。
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