第270話 寿園
高耶が焔泉に場所を譲る。そこで、当主とはどういうものかなど、常識的なことを伝え、更に、このような事態を隠すとはどういうことかと叱った。
その間、高耶は屋敷の前の辺りに結界を張る。稽古するのに良い広さを確保した。
「ん?」
「どうしたの、兄さん」
高耶は何かを感じて顔を上げる。それに統二が声をかけ、高耶が見ている同じ辺りに目を向けた。
「……
高耶がそう呟くと、驚いて目を丸くする。
「え? 寿園って……師匠の……」
「ああ。瑶迦さんの所の屋敷精霊だ。どうやら、目を飛ばしていたらしい」
「……気付かなかった……」
統二はキョロキョロと上の方を見回す。そして肩を落とした。その痕跡も見つけられなかったようだ。
強い屋敷精霊は、式にも負けない能力を持っている。場所に縛られる分、その欠点を補える特別な能力を使えるようになる場合があった。ただし、それは何百年と月日を経て手に入れる力だ。
「仕方ないさ。恐らく最古の屋敷精霊だしな」
瑶迦があの場所に住み着く頃から存在するのだ。間違いなく最古の屋敷精霊だろう。
「そうなんですね……見たことないんですけど……姿もあまりはっきりしなくて……どんな方ですか?」
「っ……まさか、挨拶されてないのか!?」
「え、ええ……良くないですか……?」
「はあ……いや、
「それは良いの?」
何か会うのに資格がいるのではないかと、統二は不安なのだろう。だが、そんなことは全くない。
「好きな遊びが『かくれんぼ』なんだよ……それも勝手に始めて、見つけてもらえないと拗ねるんだ……多分、盛大に拗ねてるぞ」
「ええっ!?」
統二としては、紹介されてもいないので分からない。だが、寿園としたら、屋敷に足を踏み入れた時点で既に遊び相手として認識しており、勝手にかくれんぼを始めているのだ。
そして、見つけてくれないと拗ねる。厄介だ。
「寿園は二つの姿を持ってる。犬と子どもだ。オカッパ頭の女の子で……白銀なんだが……」
「……それ……珀豪さんの子どもにしか見えない感じですか……それなら見たことが……」
見覚えがあったらしい。
「声かけないとダメだぞ」
「そうなんですか……」
微妙に面倒臭い。
「ああ……最近は、珀豪がアレな服着るだろ……それを真似しだして……不良少女っぽくなっちまってな……」
「……」
高耶が思わず遠い所を見る。アレはどうかと思うのだ。それまでは、黒髪ではないが、座敷童子っぽいなという見た目だった。そんなにお喋りな子でもないので、交流は少ないが、この間は犬の姿で、首輪にドクロのアクセサリーを付けていた。それもすごく自慢げに。本格的におかしな趣味に走り出していた。
「ま、まあ、戻ったら教えてやる」
「……はい。お願いします……」
「おう」
一緒にがっかりしようと、高耶は心で呟いて頷いた。
「結界もこれでいいだろう。帰るぞ」
「はい」
そこに、勇一が申し訳なさそうな顔で近付いてきた。それを見てふっと笑うと、高耶は彼に告げた。
「勇一、ここは任せる」
「っ、はい!」
弾かれたように顔を上げた勇一は、嬉しそうに返事を返してきた。これなら大丈夫そうだ。
それから高耶は、ふらふらと歩き回っていた将也に声をかける。自分を見て怯える者達を確認して楽しんでいたようだ。
「父さんも行くぞ」
《はいは~い。では、充雪殿。よろしくお願いします》
《任せろっ》
そして、高耶は焔泉や蓮次郎も連れて、瑶迦の屋敷へと戻った。
だが、そこで唖然とすることになる。
「……なんだこれ……」
屋敷では、先程までの高耶の行動を記録した映像の上映会が開催されていたのだ。主犯は寿園。銀髪の不良娘が、得意げにニヤリと笑っていた。
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読んでくださりありがとうございます◎
これより数回0時のみになります!
本連載に追い付いたら一週間置きです。
よろしくお願いします。
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