第206話 当主への態度

蒼翔は年齢的なものも当然あるが、蓮次郎よりも反応が若い。


蓮次郎はチクチク、グサリと笑いながら毒を吐くが、蒼翔は無邪気さを装って刺してくるのだ。


「おや? 君は確か、秘伝の偽当主の息子だよね?」

「ッ……」

「あ、そっちの子は高耶くんが保護した子だ。なあに? 嫌味でも言いに来たとか?」

「っ、い、いえ……私は……」


今回はそれなりの実力者を選別したため、秘伝家の事情についても知っている者が多い。勇一と統二を取り巻きながら、ことの成り行きを見守る姿勢だ。そして、勇一に集まる非難の視線は多かった。


「蒼翔さん……これは家の問題ですし、楽しもうとしないでください」

「すごい! なんで分かったの!?」

「……そういうところ、蓮次郎さんそっくりですから……」

「父上と比べられちゃうのは寂しいなあ」


普通は喜ぶか嫌がるものだが、蒼翔の場合は蓮次郎のことを高耶がしっかり分かっているということに嫉妬していた。


「ねえ、高耶くん。これからはもっとお仕事、一緒にやろうね?」

「必要があれば……」

「じゃあ、お仕事じゃなくてもお買い物とか、必要があれば誘っていい?」

「……仕事は優先させてください……」

「う~ん、仕方ないねえ」


もういっそ、やっぱり息子にしちゃおうかなとか聞こえたが、高耶は聞こえない振りで通した。不穏ではあるが、蒼翔が色々と一人で考えている間にと、先ず統二の方へ声をかける。


「試験勉強は良かったのか?」

「あ、うん。休み明けの実力テストだし、休み中もやってたから大丈夫」

「なら良いが。無理はしなくていいからな」

「はい!」


嬉しそうに返事をする統二に、誰よりも驚いているのは勇一だった。統二は家でもほとんど喋らない子だったのだ。実の兄である勇一にさえ懐かず、今回のような笑顔も見せたことはない。


「今日は、俊哉達の傍に居てくれれば良い。伶と津もな」

「護衛ってことですか?」

「見学って聞いたんだけど……」


伶と津は現場にほとんど出た事がない。まだ能力の制御に信用がないからだ。だが、いつまでも不十分だと言って避けていては困る。いずれ由姫家を率いて行くのだから。


「見学みたいなものだ。最前線で、だがな」

「……分かりました」

「高耶兄さまが言うなら従うわ」

「まあ、臨機応変りんきおうへんに結界は張ってもらうから、頑張れ」

「「それ、絶対に見学じゃない……」」


臨機応変にということは、不測ふそくの事態があり得るということだ。ただ見ているだけの見学では終わらないだろう。


そうして話がつくのを、勇一は見計らっていた。


「あの……御当主」

「……ん?」


誰に向かって言ったのかと、高耶は蒼翔へ目を向けて、次いで勇一の視線の先を確認する。


「……今、誰に言った?」

「当主です……秘伝の」

「当主……なんだ? あの人から伝言か?」


御当主と高耶へ単に声をかけたわけではなく、聞こえなかっただけで、御当主秀一から伝言がありますと言ったのかと思った。


しかし、違うらしい。勇一は首を横に振った。


「ち、違います。あなたに謝りに来ました」

「……統二、今何て言ったか聞こえたか?」

「……謝りに来たとか……幻聴でしょうか。それとも、何か罠を……」

「違う! そ、その……信用されていないのはわかっています。ですが私は……目が覚めたんです……当主は間違いなく、あなたです。それを理解しました……」


後ろに居る者たちが、うわあという顔をしていた。どういうことか高耶や統二は全く理解できない。


そして、後ろの者たちが勇一を囲った。


「すみません、秘伝の御当主! ちょっとこいつは下げさせてもらいます」

「できましたら、今回のことが終わった後に、改めてお時間を作っていただきたいのですがっ」

「ああ……少しなら……」

「ありがとうございます! ほら、お礼!」

「あ、ありがとうございます……?」


勇一の頭を無理やり下げさせていた。


「彼の傍には私達が居ります! お邪魔をしないように頑張らせていただきます!」

「本日はよろしくお願いします!」

「……よろしく……」

「はい! 失礼いたします!」

「「「失礼いたします!」」」

「っ? 失礼いたします……」


疑問符を浮かべながら、勇一は四人の青年に連行されて行った。


後から聞こえたのは、勇一を責める声。


『何やってんのっ。謝る時ははっきり!』

『私達に礼儀正しくできるんだから、御当主の前でも出来るでしょっ』

『も~、寿命が縮まった。絶対三年くらい消えたっ。ってか、当主への態度がなってない!』

『あの後聞いたけど、秘伝の御当主はただでさえ格が違うって言われてんだよっ。もっと敬え!』


勇一がポカポカと叩かれていた。彼らにとって一族の当主とは、雲の上の人という感覚だ。敬い、憧れる存在。だから、当主を前にした勇一の様子が信じられなかった。


もちろん『勇一くん、頑張りましたよ』と言う気ではいた。だが、それ以前の問題だった。


『分かった。御当主ってのがどうゆうものか、しっかり教えてやるからなっ』

『……よろしく頼む……』


勇一もここまで言われては、自分の態度が悪かったのだと理解したようだった。


「……何だったんだろう……アレ……」

「……」


高耶も統二も、勇一が変わったということに戸惑っていた。


「はいはい。静かになった所で、そろそろ始めようか」


蒼翔の音頭おんどで作戦は開始されたのだ。


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