第179話 会議です
明けて次の日の昼近く。
夜に駆け回っていた者達も目を覚ます頃、会議が開かれた。
高耶が家から出られないことを考慮し、今朝には手の空いた清掃部隊の面々で、テラスに横付けして庭に大きなテントを張っており、驚いた。
その中に長いテーブルと椅子が並べられている。
高耶はテラスに立っていようと思ったのだが、椅子をわざわざ持ってきて勧めてくれた。その椅子は、この家には似合わないもの。というか、絶対にここにはなかったはずの、細工が際立つ椅子だ。座面は黒の革張りだった。
「さあさあ、ご当主! お座りください!」
「あ、ああ……いや、この椅子って……」
「お気になさらず!
「……ありがとうございます……」
いつ作ったんだと聞きたいが、聞きたくない。夜中にコソコソとやっていた気がするのだ。
座ってみると、ものすごいフィット感というか、座り心地は最高だった。椅子にも合う合わないがあるんだと感心する。
「すごく良い椅子ですね……」
「はっ! こ、光栄です!」
なんだか感動された。
そして、なぜか高耶の斜め後ろに彼は控えた。この様子に、反対側に代表として座った焔泉が呆れたように指摘する。
「いつから清掃部隊は高坊の後ろについたん?」
「後ろだなどと畏れ多い! 我々は下についたのです!」
「……」
高耶が何をと表情を引きつらせて振り返る。
「先日、秘伝のご本家にお邪魔いたしました折、ご当主個人の下につくと宣言して参りました! あ、ご当主、ご本家の方の片付けに、勝手ながら参加させていただいております!
「……城……というか、人? 片付けた?」
聞き間違いかと思ったが、元気に肯定された。
「はい! ご当主の偉大さを分からぬ分からずやの情報はしっかりきっちり集めまして、連盟地下へ放り込む準備も整っております! こちらに
「ええやろ」
「んん?」
焔泉へ別の清掃部隊の一人が書類を差し出す。それに焔泉はサラサラとサインして返した。
「さっさと放り込むよろし」
「はっ!」
「……」
書類を持って一人消えて行った。
「これで清掃が完了いたします! では城については後ほど」
一歩下がって控えの態勢に戻った。後でもなにもない。そう言いたいが、この場はもう切り替わっているようだ。
「それぞれ報告を頼むえ」
焔泉がそう切り出してしまったのだから、気になるが仕方がない。
先ず手を上げたのは橘蓮次郎だ。
「霊穴の封じ込めは完了です。ですが、あれを塞ぐ儀式となると、何日かかるか分かりません。このまま儀式を始めるのは現実的ではないでしょう。ですが、仮に土地神の選定が上手くいけば、神の力をお借りして儀式に臨むことで確実性が上がるのは確かです」
元々、霊穴を塞ぐための儀式は、その地の土地神に力を借りて行う。本来、霊穴とは人の力でどうこうできるものではないのだ。
「ほんなら、伊調、神は見つかったかや?」
「今のところ、恐らくはという段階です。確証はありません。かなり弱っておられるようです」
「回復はできそうなのか?」
達喜の言葉に、神楽部隊代表の伊調は頷いた。
「本来ならば正しき神楽で土地を調整することで、それなりの回復は見込めましょう。ですが……今の雑音が入っている状態では難しいと申し上げます」
「雑音とな?」
何のことかと、集まる視線に、伊調は苦々しく顔をしかめた。
「鬼です。この土地に力がかなり浸透してしまっているようで……霊穴に惹き寄せられた怨霊達が長く止まっているのもそのせいです」
「鬼と断定するか……根拠はなんや?」
今の時代に、鬼と相対した者は高耶以外にいない。本当に鬼かと疑うのもわかる。
これに伊調は目を鋭く細めてから説明した。
「秘伝のご当主がお見せくださった楽譜に答えがありました」
「……そこからは私が」
高耶は伊調に目配せし、代わってもらう。
「ここ数日の調べで、奥に半ば封じられているのは、鬼だけではないと確信しました。土地神にもなれた術者の魂が家守りと共にあったようです。この家の前……ここには
テーブルの上にまとめてあった古い文献の一つを見せる。そこにどこからともなく常盤が人化して現れ、高耶から受け取って焔泉の前に置いた。どうやって持っていこうかと思っていたのだ。助かった。
常盤は、静かに戻ってきて高耶の隣に控えた。右には常盤。左後ろに清掃部隊の代表。どこのボスだと言われてもおかしくない。
「……これは……よく見つけたもんや」
「お預けいたします」
「助かるわ」
どこから出てきたかは後で伝えることにする。因みに、出どころは雛柏教授の家だ。
芦屋家の分家が麻谷家。その末裔が住んでいた。この記録は安倍家が押さえておくべきものだろう。
「この麻谷家の最後の当主は、死して後に家守りと半ば同化することで神に至ろうとしたようです。この場が鬼の封印場所であったこと。土地神が弱っていたことなど、様々な要因が重なり、半端な形で奇跡的に成功していたのでしょう……ただし、そこにこの家が建ち、封印状態になりました」
全てが複雑に絡み合い、今の状態になった。
「恐らく……この家を建てたのは術者に関係ある方であったのだと思います。設計図を確認しましたが、意図的に封じた形ではないかと」
そう告げて出した古い設計図の写真。それをまた常盤が受け取り焔泉に届ける。
「……なるほどな……確かにこれは意図的やな」
「これが麻谷家の意思によるものなのか、第三者のものなのかは分かりませんが」
「そこはまあ、追々やな」
この場が落ち着いてから調べることになるだろう。
「土地神に匹敵する力を持ったものが、霊穴の影響を受けて鬼と融合していると私は見ています。それで話は戻りますが、恐らく力を届ける音をあの場から出し続けていたのでしょう。それを、運良くというか、運悪くここの音楽家が拾い、外に響かせる方法を取ったのです」
「神楽部隊と同じ力を持っとったんやね」
「無意識にでしょう。聞こえてくる祝詞のようなものですが……外に伝えよという意思が混じっています」
「なっ!」
「っ、はっ、なるほどなあ」
「っ!」
それは立派な術だ。何となく聞いていた達喜や源龍達はヒヤリとした。知らず術にかかる恐ろしさは、術者ならばわかる。
「ですから、彼が残した楽譜には、奥に封印されたものと神の音が混ざっていたのです」
「ほんなら、雑音ゆうのは…….」
これに続けたのは伊調。
「はい。この地も、混ざった状態になってしまっているのです」
「……聴き分けられたんか?」
「神が見つかれば確実に。ですが、状態が不安定なのです。どこかこちらに引かれているようでもあります。このまま神楽を奉納しても、正しく作用するかは未知数です」
ともすれば、その雑音が混じり、力が上手く伝わらず無駄に力を消費するだけになる可能性の方が高いのだ。
土地神と鬼と霊穴の三つ巴。どうするかと一同は考え込む。
そこでふと蓮次郎が顔を上げた。
「なら、先に鬼退治しましょう。高耶君なら出来る気がするんだ。大丈夫。我々もいるんだからね」
「……」
名案でしょと笑って高耶へ目を向けたのだ。
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