第155話 時は選べませんので
フランクで話しやすそうな
「胡散臭いですよね。そうですね……式神を喚びましょうか」
これにいち早く飛びついたのは、仁ではなく陽だった。
「あ、あの執事みたいな子かい?」
「執事……ああ、常盤ですね。いえ、こういう場には向かないので」
「そうかい? 高耶君と並んでるのはアレだ。まるで若社長と秘書って感じで良かったんだけどね」
確かに、服装は本来の騎士のような真っ白なものではなく、美咲達の選んだシックなファッションだったため、そう見えたかもしれない。白のシャツに、黒のジャケットがとても良く似合っていたのだ。
「え? それって、どんな式神? 式神ってアレでしょ? 現代っぽくないやつでしょ?」
「服装は母達が面白がって見立てているので、おかしくはないんですが、肌や髪、瞳の色は違いますから、そこは最初は驚くかもしれませんね」
「因みにその陽が知ってる彼は?」
「金髪に濃い緑の瞳です」
「美青年だったよ」
「へぇ」
ちょっと想像は出来ていなさそうだ。
「濃い緑というのは……ああ、もしかして、それで『常盤』なのかな?」
「その通りです」
修が言い当てるのを、高耶は嬉しげに目を細めて頷いた。
「常盤は真面目なので、喚んでもここに立って控えるだけになってしまいますから」
それこそ騎士のように、何ならこの部屋の外で護衛のように立っているだけになるだろう。それが常盤らしいので、高耶としては別に構わないのだが、せっかくなので話しもしたいだろう。それではこの場には合わない。
「気になるんだけど」
「またの機会にということで……【珀豪】」
高耶の静かな声が響いた。個室の扉のすぐに、光が集まり、そこに白いシャツの上から薄いピンクのエプロンを着けた姿の珀豪が現れた。
「……珀豪……何していた?」
《む、ちょうど、明日の優希達に頼まれていた弁当のおかずを作り終えたところだ。主の分も作ってもよいか?》
「……ああ……とりあえず、紹介してもいいか?」
《うむ。どうやら仕事の話のようだな。やり直すか?》
「いや、いい……」
エプロンを取り、高耶の隣に腰掛ける珀豪。その姿を改めて見た陽達は、声をかけるタイミングを失っていた。
白銀色の髪。老人の白髪とは違う。本当の白銀。海外にいた修でさえ、初めて見る色だった。
艶のある黒いズボン。首にはドクロのシルバーアクセサリー。先程の高耶との会話を聞いていなければ、絶対に関わり合いになりたくないと思うだろう。
「改めまして……式神の珀豪です」
「……なんていうか……彼、ロックでもやってる?」
仁に問われ、高耶は苦笑する。
「いえ。主夫です」
「シェフ?」
信じたくないのだろうか。
「主夫です。小学一年生の妹やその友達の面倒とか見てくれて助かっています」
もうこうなれば言ってしまえと思った高耶だ。
《子どもはとても可愛いものでな。主も子どもの頃にもう少し遊びも覚えさせるべきだったと反省しておるよ。そうすれば、今のように仕事人間にはならなんだだろう》
それは言わなくてもいいだろうと珀豪を見ると、彼はメニューを見ていた。
《主。料理の勉強のためには、様々な物を食べるべきだと美奈深さん達が言っていたぞ》
「……好きにしろ」
《うむ》
「……」
これはアレか。深夜テンションか。珀豪の場合は、きっと満足のいく弁当ができたためだろう。
「……イメージを壊しましたか?」
高耶は申し訳なくなって陽達に尋ねる。すると、仁が楽しそうに目を細めた。
「あ~、いや。寧ろ現代っぽくて納得できたよ。因みに、何の式なんだい? ほら、朱雀とか白虎とかあるだろう?」
きた。もう諦めている。
「……陰陽師的には白虎で風を司るものなのですが、珀豪の本来の姿はフェンリルです」
「ん? なんかファンタジーになった?」
「召喚した者のイメージした姿を取るんです。なので、一般的には白虎になるんですが……その、今時の十歳くらいの子どもが風をイメージするとその……四神をイメージし辛いというか……」
「察した! うん! フェンリルになっても仕方ないね! 寧ろイイ! ドラゴンとかは!?」
《ん? 黒の方が良かったか? アレはこの店には合わんが……主の品性も疑われよう》
「へ?」
注文を頼み終わったらしく、店員からもらった水を一口飲んで珀豪が告げる。
「その。ドラゴンもいまして……人化すると水商売をしてそうな女性の姿に……」
それも結構な夜の女王様感が出る。昼間は美咲達の用意したカジュアルな服を着ているのだが、今の時間帯に喚ぶと間違いなく、黒のタイトドレスで現れる。ここに喚ぶのはマズイ。
「それ、凄そうだね! 今度是非見せて」
「機会がありましたら……」
とりあえず、力の証明はできたということで、仕事の話に移ることにした。修へ顔を向ける。
「そろそろ今回の仕事の説明をお願いしてもよろしいですか?」
「あ、そうだね。私の父が大事にしていた別荘なのだけれどね。父が昔、亡くなった友人から譲られたらしくて」
その建物は、遺言書によって賢のものになったという。
「最期の時に書いていた曲がそこにあるはずらしいのだけれど、それが見つからなくて……でも、大事な楽譜だから、どうしても知りたいと……出てきた父の日記に書かれていたんだ」
その曲は、賢と二人で演奏するはずだったもの。賢はもう諦めていたようだが、それでも心残りではあっただろう。
「その建物を改築する前に、見つけてもらいたいんだ」
その真剣な瞳を見て、高耶はすぐに頷いた。
「わかりました。その場所に行ければ、なんとかなると思います」
「っ、頼みますっ」
修は頭を深く下げていた。
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