第143話 諦めも必要

鎮魂ちんこんの儀を行なってから数日。様々な変化があった。


優希ゆうき可奈かなちゃん、美由みゆちゃんは週末になると必ずと言っていいほどあちらに行き、優希のログハウスで勉強をして泊まるようになった。


もちろん、保護者兼家庭教師として珀豪はくごう天柳てんゆうが必ず付いている。食事はホテルからのデリバリーと大変贅沢ぜいたくだ。


旦那さん達がゴルフなどで出かけたり、泊まりでどこかへ行ってしまった時は、母親である美奈深みなみ由香理ゆかりも一緒に泊まったりする。高耶が一緒でない時は遠慮してホテルの方には泊まらないようだ。


「だって、高耶君のために創られたんでしょう? 私達で楽しんじゃだめだと思うのよ」

「何より、高耶くんと一緒じゃないと楽しくないわ~」


そう言われては泊まるしかなく、必然的に高耶はこちらの施設を利用する頻度ひんどが増えた。これには式達も大喜びだ。


因みに、旦那さん達にはまだ内緒らしい。


そして、統二とうじ拓真たくまの関係だが、とても良好のようだ。寧ろ、拓真が統二に構って欲しくて仕方がないといった様子に見える。


「体術なら俺でもできるんだ。一緒にやろうぜ」

「いいけど、先ずは体力作りだよ? いきなり技とかダメだからね」

「わ、分かってるよ」

「本当に? 拓真君って、形から入るタイプでしょ。いきなり投げたい人だよね?」

「うっ、うるさい。大丈夫だ。ちゃんとやる!」

「飽きたとか言って途中で辞めたりしない?」

「しない! ってか、お前の中の俺ってどんなイメージだよ!」

「いじめっ子」

「おい!!」


意外と楽しそうだと思うのは高耶だけだろうか。いい関係だと思えた。


そんな中に時折、しんれいが入るようになった。だが、彼らが入る時は勉強会だ。進学校に通っている統二と拓真によって、受験にも対応できそうとのこと。


他人と話すことが苦手な双子には、良い話し相手にもなっているらしい。


ここに俊哉しゅんやが乱入することも多く、悪い遊びを覚えそうで少々心配だ。とはいえ、ハメを外すことを知らない彼らには、俊哉は良い起爆剤になったかもしれない。


そして、学校に行けなくなっていた二人の子ども達はといえば、あの儀式の次の日からしっかりと学校に行くようになっていた。


「おはようございます!」

「お兄さんもこれから学校?」


優希を見送るついでに彼らのいる通学団に会うと、必ず挨拶をしてくれる。


「ああ。しっかり勉強してこいよ」

「「はい!」」


夏休みには遊びに来ても良いと言ってあるので、彼らはそれを楽しみにしている。親に内緒の秘密基地みたいで嬉しいらしい。


校長の那津や時島にも遊びに来てくれと言ってある。きっとまた賑やかになるだろう。


瑶迦が最近、子どものようにはしゃぐようになったのはどうかと思うが、寂しい思いをさせてしまうよりは良いのかもしれない。


その日、大学に行った高耶は俊哉と共に、また雛樫ひながし教授の荷物持ちをしていた。部屋につくと、教授は楽しそうに高耶を見た。


「今日のオヤツはなに!?」

「……おやつ目的ですか……今日は確か、どら焼きです。それも和風と洋風で作ったとか藤さんが……」

「っ、藤さんって……あれでしょ! 魔女様の所の筆頭式!」

「よく知ってますね……そうです。優希が粒あんじゃないどら焼きが食べたいと言ったらしくて、寧ろ、皮だけ食べたいとか。それで作ったみたいです」


こし餡なら食べられるが、市販のものは甘すぎて嫌だと言うし、それなら皮だけ食べると言っていた。それを珀豪が聞いていたらしい。


大人達はおやつと言ってもあまり食べる時間もないし、女性達は太るからと避ける。だが、子ども達にとっては大事なエネルギー供給の時間だ。そこで、藤達が女性にも優しいおやつを考えるようになったらしい。


現在、瑶迦の屋敷ではお菓子作りが大流行中だ。


「食べたい! 食べたい!」

「俺も! 俺も!」

「ちゃんと用意してあるから……」


高耶が大学に行く日は、こうして雛樫教授に捕まることを想定して余分に作ってくれているのだ。もちろん、俊哉の分も用意されている。


そうして、男ばかりのお茶会を始める。そこで、雛樫教授は気になっていたことがあったらしい。


「あの仙桃せんとうってどうなったの?」


雛樫教授から預かった仙桃の苗木。それは瑶迦の所に届けられていた。


「きちんと育っているみたいです」

「高耶君、見てないの?」


相変わらず鋭いなと感心する。微妙な言葉のニュアンスも、雛樫教授は察するのが得意だ。


「……どうも、俺が行くとまずいみたいで……」

「なんで?」


言わないとダメかと諦め、口にする。


「仙桃樹は伝説になるくらいなので、貴重なのは分かりますよね……」

「うん。実在してたことにびっくりだもんね」


雛樫教授の目はキラキラしていた。子どもがお話をせがむように無邪気な表情だ。それに少し引きながら続けた。


「術者である俺が近付くと、あれの樹精じゅせいが式になりそうで……」

「いいんじゃないの?」

「今更増えてもどうってことないだろ?」


夢中になってどら焼きを食べていた俊哉まで顔を上げ、ダメなのかと不思議そうだ。


「間違いなく樹精の中でも一番のものになるんですよ……」

「「いいじゃん!」」

「良くない……ただでさえ、俺の式神はそれぞれの属性のトップなんです。そこにまた、となると……」


大陸では精霊王の扱いだ。間違いなくトップ。六属性全ての頭を式としているというのは、周りの印象が良くないだろう。


「やっかまれるってこと?」

「え? 今更なんじゃねえの?」

「そうだよ! もう揃えちゃいなよ!」

「……」


確かに、今更感はある。多分、焔泉や源龍に相談しても『いいんじゃない?』で終わる。


「諦めろ。高耶は多分、そういう星の下に生まれてんだよ。いいじゃん、王様ってことだろ? あ、女王様かもしれんのか。いいな~」

「……」

「うんうん。今度連れてきてね♪」

「……」


もう決定らしい。


「……もう少し考えます……」

「「往生際が悪い!」」

「……」


そう言われても簡単に頷けるものではない。とはいえ今現在、あの仙桃樹の精と契約できるのは、相性的にも高耶だけらしい。結局は受け入れることになる高耶だが、こんなにも上位のものばかりを揃えて良いものかどうか悩むのは仕方がなかった。


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読んでくださりありがとうございます◎

次回、新章に入ります!

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