第136話 目の保養だそうで

れいしんを連れて戻ると、家族達は食後のデザートに舌鼓したつづみを打っているところだった。


「あら、無事保護されましたのね」

「ええ……ほら、伶、津、瑶迦さんに謝れ」

「ごめんなさ~い」

「っ、津! すみませんでした瑶迦様……」


ここでも津は自由だ。素直になれないのは仕方がないのかもしれない。周りは諦めているが、兄として伶はしっかりしていた。


「まあまあ、大事にはなりませんでしたし、構いませんわ。匿っていたのも私ですもの。高耶さんもあまり怒らないでやってくださいな」

「……甘やかしてはいけませんよ……もう中三ですからね?」


フラフラしていてもらっては困るし、いつまでも子どものような気でいてもいけない。


「そういえば、次期当主をどうするか、大事な時でしたわね」

「ええ……高校に行くか当主としての修行を本格的に行うかの選択をしているところです……なので、家出を許しているわけにはいかないんですが……」


由姫家には、彼らがフラフラと遊び歩いているのを見つけたら捕まえてくれと言われていた。将来の選択が嫌で彼らの家出の頻度ひんどは上がっている。


「家に縛られるのなんてヤダし」

「中学でもいっぱいいっぱいで、高校なんて考えられないんですけどね……」


悩んでいるらしい。


高校へ行くことを決めるなら、そろそろ本気で考えなくてはならない時期なのだ。


「それで、高耶兄さんに相談しようと思って……でも、兄さんは仕事で忙しそうだったから、少しの間考えをまとめるためにも瑶迦様に匿ってもらっていたんです」


今回伶は、津に振り回されただけではなく、悩んだ末の避難だったようだ。


津は弟として伶に甘えているところがあり、比較的自由にしているが、伶はそうはいかない。兄として、次期当主候補としての重責が既にかかってきているのだ。


そんな伶の気持ちも分からないわけではない。高耶は少しだけ低い位置にある伶の頭を撫でる。


「ちゃんと考えようとはしてるんだな」

「っ、はい……逃げてばかりじゃダメだって兄さんは言うだろうから」

「ああ。それが分かってるならいいか。とりあえず、お前らも食事するだろ?」

「お腹空いた~。ってか、伶兄! いつまで高耶兄さまにくっ付いてんの! 変わってよ!」

「う、うるさいっ。お前はもっと反省しろっ」

「こら」


伶と津が言い合いを始めるので、高耶は二人の頭をガシッと掴んだ。


「大人しくできないなら、今すぐ家に送り返すぞ」

「「大人しくします!」」

「まったく……」


キリッと返事をした二人。この間に小さなテーブルは別に用意されており、そちらに二人分の料理が並べられていた。


高耶は二人をそちらに誘導し、元の席に戻ってくる。食事は途中だったが、温め直してくれたらしい。作り直してもいるかもしれないなと思ったところで俊哉が答えをくれる。


「高耶の料理、作り直すって言うから出てきたのは俺が食べといた」

「そうか……悪いな、わざわざ作り直してもらって」


そう高耶が料理を持ってきた式に声をかける。


《旦那様には出来たてを食べていただきたかったものですから》

「ありがとう。美味そうだな」

《恐れ入ります》


盛り付けの美しさもそうだが、味も素晴らしかった。


「なあ。今、高耶のこと旦那様つった?」

《はい。当ホテルをはじめ、他にあります全ての施設は旦那様のために造られたものですので》

「……オーナー?」

《いいえ。オーナーは姫様です》

「……」


ニコニコと微笑まれながら答える式を前に、俊哉は混乱中だ。


「ねえねえ、それよりあの男の子達が雪を降らせてたって本当?」

「キレイな男の子達ね~。双子か~」


美奈深と由佳理が、離れた席で言い合いをしながら食事をする二人の様子を密かに観察していた。それから、揃って源龍を見る。


「力のある家の人って、美人になるの? そういう血?」

「いいな~。高耶君もカッコいいし、そういう力も働くのかしらね」

「……いえ、由姫家は分かりませんが、ウチは別に元も特に特殊ではないですよ?」

「そう? 統二くんもきっとかっこよくなるわよ?」

「うんうん。高耶くんとはまた違った可愛さがあるわ~」


褒められているようなので良いことにしておく。


「アレであの二人、女の子にしか見えない見た目が嫌で小学校の頃、半分も登校してないんですよ」

「うそ! あ~、いじめ? でも子どもっておバカよねえ。絶対に好意からちょっかいかけてたでしょ。間違いなく可愛かったと思うものっ」

「今であんなに美人さんだものね~。教室に一人居たら、テンション上がるのに~」


由佳理は感心というよりも、うっとりしている。確かにその辺では見ない美少年だ。目の保養だろう。


そこへ、伶達の所へ優希達、三人娘が近付いていった。


「ねえ、お兄さん? おねえさんじゃないの?」


優希達のように幼い子どもに言われて怒るほど余裕がないわけではない。伶が丁寧に答える。


「男だよ。こっちの弟は少しオネエが入ってるけど気にしないで」

「ちょっと、変な紹介しないでよっ」

「間違ってないだろ。何より、わかりやすい」

「ふんっ」


優希は津に近付いて行って見つめる。


「な、なに……」

「お兄ちゃん『まほうしょうじょ』なんでしょ? どうやってユキをふらせるの?」

「魔法少女って……ボクらは雪女の血が強く出てるだけだよ」

「ゆきおんな……ってなに?」

「「……」」


まさかの雪女を知らないパターンだった。


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