第126話 思うところがあります
高耶が連行されて行ってしまったので、とりあえずは自己紹介でもということになった。
真っ先に頭を下げたのは、校長の隣に座った時島だ。
「はじめまして」
「時島先生は、高耶さんの小学校の時の担任だったとか? お会いできて嬉しいわ」
「あ、いえ。光栄です」
「あっ、時島先生? まあっ、お久しぶりです」
そうして、美咲とも挨拶していた。
《こちらは、優希の友人とその母達だ》
そう珀豪が可奈、美奈深の親娘と美由、由佳理の親娘を瑶迦に紹介する。
「お世話になります」
「よろしくお願いします」
美奈深と由佳理が頭を下げると、可奈と美由も上目遣いで瑶迦を見ながら頭を下げた。
「ふふ。気楽になさって」
「ありがとうございます……あの、お若い方ばかりなのですね」
美奈深の問いかけに、クスクスと瑶迦は笑う。
「あら。若いだなんて。戸惑われるかもしれませんが、これでも皆さまよりも何十倍は生きていますのよ?」
「十っ……冗談では……ないのですね……」
一番信頼している珀豪も頷くので、美奈深も由佳理も納得できないながらも、信じるしかなかった。
「高耶さんは、わたくしの子孫になるのです。何十分の一かはわたくしの血が流れているのですよ」
「す、すごい世界ですね……」
「ふふ。ここでは、あまり気にしないでください。高耶さんが戻って来たら、皆さんにとっておきの場所へご案内いたしますわ。そこで、存分に休日を楽しんでください」
特に気を悪くした様子もなく、瑶迦はニコニコと微笑んでいた。
これに、まだ緊張しながらも美奈深が由佳理と目を何度か合わせながら言葉を紡ぐ。
「あ、ありがとうございます……あ、あのっ、でも、こういう不思議なこと、私も由佳理ちゃんも嫌いじゃありません。その……瑶迦様……とも知り合えて嬉しいですっ」
これを聞いて、瑶迦は一度驚いたような表情を見せてから破顔した。
「あら……ふふふっ。嬉しいことを。どうぞ、瑶迦と呼んでくださいな。美奈深さんと由佳理さんでしたわね? 母親かお祖母様のように思ってくださって構いませんわ。是非とも頼りにしてください」
「え……そんな」
「こんな若いおばあちゃんはないです……」
戸惑うしかなかった。
《瑶姫。無理だと分かっているだろう。人にとって見た目は重要だ》
「いいじゃありませんか。こちらの希望は伝えておきませんと。わたくし、まだ高耶さんに『お祖母様』と呼んでもらうことを諦めたわけではありませんのよ?」
一同が唖然とした。
《……今でもたまに無理やり呼ばせているだろうに……》
「自発的でなくては意味がありません」
《それは……小さい時に洗脳すべきだったな》
「っ、な、なんてこと! どうしてもっと早くその提案をくださらなかったのっ?」
本気で悔しがる瑶迦は可愛らしかった。
そこで、俊哉が口を開く。
「俺もこんな可愛い人をお祖母様なんて呼べない……高耶はもっと無理だろ……」
「それは、高耶さんくらいの年頃の子には無理ということかしら?」
「そ、そうっスね……あ、挨拶まだだった。俺は和泉俊哉デス。高耶の親友です!」
俊哉は次第にいつもの調子が戻ってきたようだ。最後は自信満々だった。
「まあまあ、高耶さんの同年代のお友達なんてはじめて見たわ!」
「あ、そうなんすね! 俺が唯一の親友です!」
「それは嬉しいわっ。高耶さんったら、年上の方たちとばかりお付き合いがあるんですもの。年相応の話ができる人がいるか心配でしたの」
「っていうか、困った顔もマジで美少女……っ」
片頬に手を当てて綺麗な眉を寄せる瑶迦に、俊哉は顔を赤らめる。
《これこれ、瑶姫はいかんぞ。綺翔だけで満足だろう》
黒艶の指摘に、俊哉が覚醒する。
「はっ、浮気はダメだ! すんませんキショウさんっ!!」
《別に綺翔は気にしないと思うけど……》
清晶が呆れるのはいつものことだ。
「そういえば、先ほども綺翔を気にしていましたね」
「はいっ! 一目惚れっす」
「そう。男の子って黒艶の方が好みなのではないの?」
「いやあ、こっちのお姉さんは俺には敷居が高いっていうか……近付かれただけで気後れするっていうかっ。いや、マジで魅力的なんすけどね」
フォローは忘れなかった。これに黒艶は珍しく真面目な顔を見せる。
《む……なるほど、だから主殿も中々ノってこないのだな》
「もうちょっと年いったら行けんじゃないっすかね」
《良いことを聞いたぞ》
黒艶がニヤリと笑った。
「ふふ。そういう話、高耶さんともしますの?」
「あんましないっすね……」
「そう……そこが心配なのよ。あの年から仕事人間で、恋の一つもしてないのよ?」
「そういや、初恋もまだって言ってたかも……」
そんな話をしているところに、高耶が戻ってきた。
「お待たせしました……」
「まあ! 高耶さん! ステキ! 藤、写真! カメラはどこ?」
《すぐにご用意いたします》
「お願い!」
それはまさに、孫の成長を記録したがる祖母の行動だった。
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