第124話 休暇の始まり?
「優希、統二、俺は戸締まりしてから行くから先にみんなを連れて行ってくれるか?」
「分かりました」
「うんっ! こっちだよ~」
家に入ってそれほど奥ではないが、玄関が見えなくなる場所だ。ぞろぞろと意味がわからないと不安そうに優希達の後をついて行く一同。
最後尾にいた源龍が、何かに気付いたように戻って来て高耶に驚いた顔で確認する。
「高耶君。もしかして、あの土地と扉で繋いでいるのかい?」
「ええ。最近は家族全員、仕事や学校から帰って来たらそのままあちらに入り浸ってますよ」
「凄い事するね……固定するのも普通は出来ないんだよ? 連盟の方で固定されているのは、連盟が出来た頃に総出で術式を組み上げたって聞いてる。それを個人でなんて……」
その扉を見ただけで源龍は恐ろしく感じた。これが普通にあっていいものではないと。
「その上、繋いだ先が瑶姫様の土地って……私は行ってもいいのかな……」
この国が生んだ偉大な魔女。それが瑶迦だ。魔女と呼ばれるほどの力を持つ者は、当然だが何十人といるものではない。
それほどまでに珍しく尊い存在だった。
「別に、瑶迦さんは人嫌いではないですし、通さないのは要らぬ諍いを起こさせない為です。それと、やはり女性ばかりしかいませんから、用心のためというのもありますか……瑶迦さん曰く『ここへ自力で来られるだけの実力者だったら、話し相手になりそうだけど、そうでないなら相手にするのは面倒』ということらしいです」
「なるほど……選別してるってことだね……」
外から通さないのは、あまりにもあの土地が一般的な常識から外れた有様になっているためだ。もはや桃源郷と呼べる世界とも繋がっているのだから。
「でも、ならなおのこと、私は遠慮した方が……」
そう思案する源龍を感じてか、いつの間にか藤が来ていた。
《榊のご当主様。遠慮は無用と姫様が申しております。どうぞ、おいでください》
「っ、あ、わざわざそんな」
綺麗にお辞儀をする藤を前に、源龍は戸惑っていた。珍しい一面だ。
「源龍さん。瑶迦さんは気難しい人じゃないんで、本当に大丈夫ですよ。寧ろ、達喜さんとか安倍のご当主も遠慮して来ないのを逆に気にしてるんです。源龍さんが行けば、あの二人も来やすくなるんで、その方が瑶迦さんも嬉しいんですよ」
《ふふ。さすがは高耶さんです。よくお分りですね》
「……最近になって、瑶迦さんが遠慮なく愚痴るんですよ……なんでもっと早くこうしなかったのかって……俺も瑶迦さんはあまり人と関わるのが好きじゃないと思い込んでいたんでいけなかったんですけど」
人との関係は難しいし面倒だから気を付けろと幼い頃に瑶迦に言い聞かせられていたこともあり、そう思い込んでいたのだ。
だが、母達との付き合い方を見ると、そうではないと分かる。確かに面倒な人との関わりは嫌がるが、それは誰だってそうだろう。瑶迦はどちらかといえば間違いなくお喋り好きだ。
豊富な知識を持っていることもあり、会話にも事欠かない。
「なんで、行きましょう。藤さん達も、人が来ることに慣れるのは良いことですよね」
《はい。おもてなしのし甲斐がありますわ》
「そ、そうですか……では、お邪魔いたします」
綺麗にお辞儀をして了承した源龍に、藤は心から嬉しそうに笑った。
《はいっ》
戸締りをし終わり、火の元の点検すると高耶は源龍と共に藤について扉をくぐった。
◆ ◆ ◆
先に扉をくぐった優希達は、驚く一同を半ば引っ張るようにして数歩進む。
繋がっているのは、簀が敷かれた渡り廊下の先にある茶室のような場所。その中の押入れがそれだった。
突然小さな個室に出たことで、大人達は目を見開く。正面の入り口は開け放たれており、そこは渡り廊下の続く外なのだ。
「え? い、家だったわよね?」
そう確認しながら後ろを振り返ったりするのが由美ちゃんの母親である由香里だ。
「間違いなく普通の家だったよ……でも、うん。違う場所だね」
何度も無理やり納得するように頷くのが可奈ちゃんの母親である
「すごいすごいっ。ユウキちゃんのお兄さん、やっぱり『魔法使い』なんだねっ」
「とべる? お空とべる?」
きゃっきゃと笑うのが優希と手を繋いだ可奈ちゃんと美由ちゃんだった。
後ろに続いた統二が俊哉と、二葉、時島を伴って出てくる。
「……扉ってこういうことかよ……戸棚を繋げるんじゃなくて、ドアなんか……」
さすがの俊哉も大人しく驚いていた。
察しの良い時島は、最初に再会した日に印刷室へ校長が案内した理由はこれかと納得する。
「これは移動が楽そうだ……」
そして、二葉は統二へ尋ねる。
「お前もこれ、できんの?」
「固定は絶対に無理。繋げるのもまだそれほど得意じゃないし、修行中」
「へえ……修行か……」
学校の勉強もあるのに、その上にこうした技術の修行もあると知って、二葉は落ち込んだ。これほど頑張っている人をバカにしていたという事実に打ちのめされたのだ。
様々な反応を見せる一同の前に、藤と菫がやってきた。
「あっ、フジさんとスミレさんっ」
《ふふ。今日も元気ですね優希さん。ようこそいらっしゃいました。わたくしは藤と申します。こちらの菫が皆様をご案内いたします》
そう言って、藤は高耶のいる家へと向かって行った。
《こちらへどうぞ。先に来られているお客様もお待ちです》
「だれがきてるの?」
優希の問いかけに、菫はコロコロと笑って答えた。
《優希さんの学校の校長先生ですよ。今は美咲さんと樹さん、それと姫様とでお話しされています》
「校長先生きてるのっ?」
喜び半分、不思議さ半分というところだろうか。優希は早く早くと駆け足気味に可奈と美由を引っ張って先へ行ってしまった。
「ハクさん、校長先生まで呼んでいたの?」
《主に相談があると言って、丁度、美奈深さん達に話をしに出かけた後くらいに家に来たらしいな。主に言うのを忘れていた》
「ふふ、高耶君、驚くんじゃない?」
《うむ。叱られんように黙っておいてくれ》
「ははっ。なに? 高耶くん怒るの?」
《これくらいのことなら一瞬ムッとされるぐらいか。まあ、一瞬だ。ただ、やはり主に嫌われたくはないからな》
「そうね~。大事な人には嫌よね~」
クスクスと珀豪を挟んで二人は笑っていた。
「うわ~、なんて羨ましい。カッコいい男ってのは、失敗も魅力的に映るんか……」
「和泉、お前はやっぱりもう少し落ち着きを学んだ方がいいと思うぞ……」
「え? その方がモテるってことっ? そういや、キショウさんはいないのか!? ってか居るよな!?」
「だから落ち着け……」
時島は俊哉の保護者的な立場を覚悟した。
「なんか……凄い広そうな屋敷だな……」
「確かに広いかも。あ、迷ったらちょっと声かけるだけで誰か来てくれるから心配ないよ」
「……どこでも?」
「うん。誰かは気付くから」
「……凄いな……」
本家だ分家だと悩んでいたことが本当に小さなことだったように思える二葉だ。
そして、案内された先にいた美しい少女に誰もが息を呑んだのだった。
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