第114話 やる気があるようなので

小学校での騒動から数日が経った。


統二も色々と経験したことで術者としての自覚が強くなったらしい。


今までよりも陰陽術の修行を本気でやると決意し、学校が終わってから夕食までの時間、術の特訓をしていた。


「焦ってはいけませんよ。継続させることが大事です」

「はいっ」


高耶はずっと付いていられないので、先生役はもっぱら瑶迦だ。彼女の中で弟子にすることは決定していたので、特に問題はなかった。


「ヨウカねえっ。トウジお兄ちゃんっ。ごはんできたよ~」

「あら。では今日はここまでですね」

「ありがとうございました」


統二に付き合って、学校が終わったら優希も瑶迦の家で宿題をして夕食を一緒に取る。


まだ統二はドアを繋げるというのが得意ではない。なので、自宅の物置のドアと瑶迦の屋敷のドアを高耶が固定したのだ。


この術はかなり高度で術式がとてつもなく面倒くさいのだが、やる気になっている統二のためにと頑張った高耶だ。


夕食はこうして高耶の家族がこちら側へ来て瑶迦と取るようになった。瑶迦がとても嬉しそうにするので、もっと早くやれば良かったなと少しばかり反省した。


《統二。体も鍛えんといかんぞ》

「はいっ。充雪様。頑張りますっ」

《うむうむ。素直な若者は良いなあ。なあ、高耶。お前には昔っからこういう『ぴゅあ』さが欠けておるぞ》

「はいはい。ピュアな。俺がああなったら気色悪いだろ」

《……っ、うぇっ》

「そんなにかっ!」


瑶迦の所と高耶の家では、充雪が視えるようになっている。優希がお喋りしたがるので、充雪も嬉しそうだ。


ついでに統二という新しい弟子ができたとはしゃいでいる感もある。


当主として充雪を視えるのは、相性と素質の問題だ。なので、統二が次の当主というわけではない。視えるという環境を与えたため、資格云々の話にはならないのだ。


「まあまあ、でもそうですねえ……高耶さんの小さい時はちょっと余裕がありませんでしたし、統二さんの反応は新鮮で良いですわ」

《だなあ。というか高耶は教えたらすぐものにするし……ちっとは悩んでこっちを頼ってくれれば可愛げもあったのになあ》

「教え甲斐はありますけど、やっぱり教える身としては物足りないですわよね?」

「……」


なぜ今更ダメ出しされているのだろう。教えられたことを真面目に習得したのに文句を言われるとは理不尽だ。


「何でもできてしまうというのも面白くないんですよ? なので、統二さんはいっぱい悩んで、いっぱい頼ってくださいね」

「えっと……はいっ。精一杯努力します」

「っ~、はあっ、可愛いわっ」

《こっちも頼れよ~っ》


統二が大人気だった。


「お兄ちゃん。かわいくない子どもだったの?」

「どうなんだろうな……」

「でも、お兄ちゃんはカッコいいからだいじょうぶだよっ」

「……ありがとうな……」


優希に慰められながら屋敷に戻ると、父母が既に席に着いていた。


「父さん、母さんお帰り」

「ただいま~。いやあ、ここに来るとやっぱり癒されるね~。こんばんは、瑶迦さん」

「こんばんは、樹さん、美咲さん。お仕事お疲れ様です」

「瑶迦さんにそう言われると、なんだが今日も頑張った甲斐があったって気がするわっ」

「ふふ。それは良かったですわ」


二人も仕事が終わったらとりあえずこちらへ来て夕食を一緒に取るという日課に慣れてきたようだ。


この後、お風呂にも入ってから自宅へ戻る。そうして、また一日を過ごすというサイクルが完全にできてしまっていた。


食事をしながら、今日あったことを話し、週末の予定を話し合う。それが瑶迦には楽しくて仕方がないらしい。


「今度のお休み、高耶さんはお仕事だったかしら。統二さんも連れて行かれるのよね?」

「ええ。経験しておくのは良いかと」


統二は積極的に高耶の仕事を手伝いたがっている。とはいえ、高耶が請け負う仕事は難しいものも多い。そこは、現役の首領として任される仕事内容だ。これに連れて行ったところで統二も何をやっているかわからないだろう。なので、連れて行けるのはそういった仕事ではない時だけだ。


「秘伝の仕事ですか?」


秘伝の方の仕事ならば、統二も連れて行っている。だが、今回は違った。


「いいや。この間の落ち武者がいた場所の調査だ」

「……そういえば、あれは他の場所から連れて来られたんですよね……」


現れた小学校からはかなり離れた土地に眠っていた亡霊達。それがごっそり移動したのだ。元居た場所にも何らかの影響があるはずだった。


「ああ。あれだけのものが浄化されずにいたってことは、神が鎮めてくれていたんだ。その神の様子を見てくる必要がある」

「神様ですか……本当に僕が付いて行っても……」


統二は、小学校で土地神と対面した時、その力に当てられて気分が悪くなった。少し苦手意識があるようだ。まだ自分には早いのだと思っている。そんな自分を連れて行くことで、高耶の迷惑になってはいけないと考えているのだ。


「今回も源龍さんがついてきてくれるし、俺もいるんだ。心配するな」

「……分かりました。お願いしますっ」

「ああ」


前向きになっている今だからこそ、統二には頑張ってもらいたい。


「そういえば、二葉君が兄さんに話したいことがあるみたいでしたよ」

「ん? そうか。メールはまだ入ってないが?」

「何か探してから連絡するって言ってました」

「分かった。それにしても……仲良くなったのか?」


雰囲気的には、統二が苦手にしそうな子だという印象だった。


「う~ん……どうかな? 前よりちゃんと会話できるようにはなったとは思います」

「そ、そうか……」


統二が軽く言うので問題はないのだろうが、以前までは会話にならなかったというのが気にはなった。だが、今大丈夫ならば良いのだろう。


「メールが来たら、すぐに会えるようにしておくよ」

「はい。お願いします」


再会してから格段に明るくなった統二に、高耶も嬉しく思うのだった。


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