第109話 賑やかな式神達
高耶はよしと頷いて方針を決め、清晶達に命じる。
「……お前たちはこのままここを頼む。ついでに職員室の方の先生たちの状態を診て浄化をしておいてくれ」
源龍が職員室まで結界で覆ったことで、部屋への行き来が可能になったのだ。開かなかった職員室へのドアも開くだろう。
《主様は? あんまり無茶すると、本当に瑶迦みたいに土地に縛られることになるよ……》
清晶の心配ももっともだ。
土地神が弱っており、異界化という強い力の変動が起きているこの状況で、その土地を支えられるほどの力を持った高耶が動き回るのは良くない。ここで、もし土地神が力を失い消滅することがあれば、間違いなく神として選定されるのは高耶だろう。
「そうならないように、土地神の力を安定させる」
今、土地神の力は暴走している。弱っている中で急速に元に戻そうとしたためだ。
《だが主よ。今の土地神には、どうやら綺翔でさえ近付けんようだぞ》
珀豪は子どもたちを張り付かせたまま状況を口にする。
「近付けないなら届ければ良い」
《む?》
「昔から、神を鎮めるのは音と決まっているだろう?」
高耶は部屋を飛び出し、この地の中心へと急いだ。
◆ ◆ ◆
高耶を見送った一同は、なぜか心が落ち着くのを感じていた。
「ねえ、ハクちゃん。これでかえれる?」
《うむ。主殿のあの様子ならば問題ないだろう。充雪殿もあちらから干渉しているようだしな》
「セツじいもがんばってるの? ならだいじょうぶだね!」
優希と珀豪の会話に、源龍がクスクスと笑う。
「お兄ちゃんを信じてるんだね」
「っ、うん……ね、ねえ、お兄さんおねえさん?」
女性のように綺麗な男性というのが、優希には不思議なものに見えていたのだ。
源龍は気分を害することなく答えた。
「私は男だよ。高耶君……君のお兄さんとは仕事仲間なんだ」
「お兄ちゃんの……でも、きれい! びじんさんだね!」
「そうかい? ありがとう。そういえば、高耶君が私と仕事で外に出る時は気合いがいるとか何とか言っていたねえ」
これに頷いたのは、優雅にソファの肘置きに長い足を組んで腰掛けていた黒艶だ。いつものタイトルドレスでなくて良かったと統二がほっとしていることには誰も気付いていない。
《お前が強いのは分かっていても、その見た目だからな。ろくでもない男が寄ってくるのさ。それで主殿が頼り甲斐のある男に見えるように、気合いを入れておめかしするというわけだ》
「そうだったのかい? それは……今度からもっと高耶君に合うよう私も可愛らしくおめかししないといけないかな?」
《それはいい。私の持っているドレスを貸そうか》
「……それはさすがに高耶君が困るかな」
《あははっ、確かに! だが、主殿の困る顔も見てみたい》
ニヤリと笑うその表情さえ、黒艶のそれは艶めかしく、美しさかった。
「……お姉さまマジヤベェ……」
悩殺されかけているのが一人。俊哉だ。そして、完全に悩殺されているのが黒艶が助け出した少年だった。
「……っ」
その視線に気付いた黒艶が少年を真っ直ぐ見つめた。
《私は主殿に褒められるのも好きなんだ。なあ、少年。この美人な男女と同じ顔の女にどこで出会った?》
「っ……あ……」
ヒクリと喉を引きつらせ、口をパクパクと無意味に動かす。怪しく光る黒艶の瞳から目が離せずにいた。
そこで慌てて統二が声を上げる。
「っ、おやめください! 彼には
「っ、く、あっ……はあっ、はあっ」
解放されて肩を大きく上下させながら床に手をついた少年に、統二が駆け寄る。
「大丈夫? 二葉君」
「っ、あ……なんで秘伝が……」
今になって統二に気付いたのは、瘴気の影響で思考が鈍くなっているからだ。
「待って、今瘴気を抜くから」
「え……」
「おいで【籐輝】」
《はい。主様》
統二の目の前に一人の女性が現れる。それは、緑の葉や枝を体に巻き付けた二十頃の女性の姿をした式神。
《浄化致します》
「お願い」
《お任せを♪》
そうして、彼女は杖のようなものを作り出し、二葉と呼ばれた少年に向ける。すると、彼の真下から突風が吹くようにして体から瘴気を追い出した。それを彼女から出た枝が巻き取り、最後に大輪の花を咲かせて散った。
花びらが舞う中、少年は呆然とそれを見ていた。
「え……なに……?」
《完了です♪》
「ありがとう
統二は完全に瘴気が消えたことを確認して、立ち上がる。
《籐輝、腕を上げたわね》
《っ、ありがとうございます天柳姉さま。藤お姉さまにもご指導いただいたのです》
《そうだったの。なら、この子達も頼めるかしら。清晶ったら、子どもを後回しにするんだもの》
清晶は今、校長と時島を連れて職員室の方へ行っている。倒れている教師達の浄化をしているのだ。もちろん、あちらの方が間違いなく重症なのだが、小さな小学生の少年達を後回しとはどういうことかと天柳は少し怒っていた。
そんな言葉が聞こえたのだろう。職員室の方から清晶が反論する。
《天柳がやればいいだろ!》
《眠ってるならまだしも、この子達に火あぶり体験させられないわっ》
《そう言って、子どもに怯えられるのが怖いんだろう》
《うるさいわよ、清晶!》
怒った天柳の周りに炎の球が浮かぶ。
それを見て、逆に子どもたちは目を輝かせているのに気付かない。
「まあまあ、ここは統二君の式神さんにお願いするんだろう? 頼むよ統二君」
「あ、はい! 籐輝」
《はい、主様♪》
籐輝は楽しそうに踊るように二人の少年達も浄化した。
《天柳。炎を引っ込めよ。子どもたちが見ておる》
《あ、ごめんなさい。ダメよ? 火遊びはダメ》
これにコクコクと少年達は頷いていた。
「君たちのところは賑やかでいいね」
《主が大らかなのでな。黒、少年への精神干渉を止めよ。もう充分であろう》
《なんだ。バレていたか。珀は子どもに甘いのではないか?》
《否定はせん》
注意を受けた辺りで、黒艶から受ける威圧が消えたことに統二は気付いた。
「黒艶さん……二葉君にまだ何か……」
恐る恐る尋ねる統二に、黒艶があっさり白状する。
《少々記憶を見させてもらった。上手く話せそうにないようだったのでな。寧ろ感謝しろよ少年。これで事情聴取で拘束されることはない。お家に帰って今日のことは忘れ、風呂に入ってお寝んねするが良い。それで問題なく日常に戻れる》
「っ……」
黒艶の
その時、どこかから優しい音が響いてきたのだ。
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