第084話 見た目ですか?
時刻はとっくに優希が帰ってきている時間だ。しかし、今日は珀豪も他の式達も全員で本家へ殴り込みに行っていた。
迎えも行けなかったし、家で一人にしているということになると今更ながらに高耶は気づいた。
「優希は……」
《優希ならば心配ない。今日は樹殿が早く帰って来られていてな。我らも主が本家へ向かうと知って行ってくると言っておいた》
「え……あ、メール入ってた」
出張前の用意のためにもう家にいるとメッセージが入っていた。統二を連れて行くというメールの後にそれが入ったようだ。
《美咲も帰ってきているようだな》
「珍しいな」
家の前に来ると、母も既に帰宅済みであることが分かった。
《では、早く夕食を作らねばな》
「手伝う」
《色々と主は説明をしなくてはならないのではないか? 統二のこともある》
「……そうだな……」
美咲が早かったのは、恐らく連れてくると伝えた統二のことがあったからだろう。本家の者と知って少し警戒しているのかもしれない。高耶や実父が本家に疎まれていたと以前話していたのだから。
「やっぱり僕……」
「大丈夫だ。行くぞ」
尻込みする統二の背中を押して、家のドアを開けた。
「ただいま」
「お、お邪魔します……」
すると、優希が転がり出てきた。
「おかえりぃ、おにいちゃん」
「ただいま。宿題は済んだか?」
「あとはおんどくだけ。ハクちゃんにきいてもらうのっ」
国語の音読だけは、どうしても珀豪に聞いてほしいらしく、夕食の後に残している。珀豪はどうも、子どもを褒めるのが上手いようだ。
「分かった。統二、妹の優希だ」
「はい。はじめまして、統二です。高耶兄さんの親戚……従兄弟になります」
「ゆうきです。よろしくおねがいしますっ」
高耶が連れてきたからだろう。優希も警戒することなく元気に挨拶してくれた。統二は従兄弟で通すことになっていた。本家、分家などというのは説明が面倒だし、一般家庭の親戚よりも関係は深い。よって同じ年頃の子は皆、従兄弟で統一して呼ぶことが多い。
家に上がって父母にも統二を紹介する。
最初はやはり、母は少し渋い顔をしていたが、珀豪が夕食を作る間に今日本家であったことを話すとあっさり受け入れていた。
「そんなことがあったのね。統二君。いつまででもいてくれていいわ」
「ありがとうございます。一応、今後は瑶迦様の所にご厄介になることになっていますので」
統二は本家に戻る気がないらしく、瑶迦のところで陰陽術を更に磨いていくつもりのようだ。あそこは、そういった資料も豊富だし、魔女である瑶迦が色々と教えてくれるだろう。何より、瑶迦も統二を引き取る理由があるようだ。
《瑶姫は、統二を弟子にするつもりだろう。昔から素質があると目を付けていたようだからな》
「ぼ、僕が弟子に……?」
驚く統二だが、高耶は納得していた。
「なるほど、それはいい。瑶迦さんも話し相手が出来て喜んでくれるだろうしな」
これからは、寂しい思いをしなくて済みそうだ。
「わたしもいきたい」
「また休みの日にな」
「うんっ。トウジおにいさんともあえるねっ」
「そうだね。遊びに来てね」
統二はすっかり優希にも慣れ『トウジおにいさん』と呼ばれて嬉しそうだ。
夕食も終わって統二が泊まるために布団を用意したりしてから一息つく頃には、いつもの平和な夜になっていた。
音読も終了し、お風呂に入る準備をし始めた優希へ、珀豪が思い出したように声をかけた。
《そういえば、優希。昨日出し忘れたと言っていたお知らせの紙はどうした?》
「あっ、わすれてたっ」
優希が部屋から持ってきたのは、学校からのお知らせの手紙。
「あのね。がっこうでゆうがたにあそぶとあぶないんだって」
「危ない?」
父母ではなく、高耶に差し出されたのは、珀豪がそうするように言ったからのようだ。
《どうやら、学校に妖がちょっかいをかけているらしいのだ》
「……怪我をしたわけではないな。少しの間
手紙には、学校を閉める直前まで遊んでいた子どもが出ていかないので、時間を守って欲しいということ。校庭以外には放課後、入らないようにということが書かれていた。珀豪から妖と聞いて、その文章の裏の意味を正確に読み取る。
「拐かされるって……高耶くん、それ妖が?」
樹が不安そうに確認する。
「ええ。でも、学校は昔からそういうことが起きやすいんです。心も不安定な子どもが集まる場所ですから、妖が好んで住み着くんですよ。ただ、守り神もいるので大きな悪さはできません。学校の怪談っていうのは、どこの学校にも一つや二つあるものでしょう?」
「ま、まぁ、確かに……そういうのって、どうにかしないの?」
「学校の守り神から要請があれば手を出しますが、
解決したとしても、すぐにまた違う妖が寄って来てしまうのだ。それが学校という所の
なので、陰陽師達も基本は手を出さない。出した所で意味がないからだ。
「珀豪君達にちょっと様子を見てもらうとかは?」
母は心配そうだ。そんな不確かな所に優希を行かせるのは、親として嫌なものだ。
「学校の敷地自体が守り神……大抵は土地神なんだけど、その中心部になるから、ちゃんとお伺いを立てないといけないんだ。勝手に入ると敵と認識されかねない。とりあえず、明日にでも確認してくるよ」
「お願い」
心配はいらないと思うが、高耶も気にはなっている。明後日には
「明日は俺が迎えに行くからな」
「わぁいっ。なら、おしごとのかっこうできてね」
「ん? 仕事の?」
仕事ってのはどんな格好のことを言っているのだろうと、内心首を傾げる。すると、優希が腰に手を当てて力一杯頷いた。
「メガネとって、かみのけもちゃんとしてほしいのっ」
「あ……はい……」
《……優希も女だな……》
《主様はもっと自分の見た目を利用することを知った方がいい》
「……」
普段の
いくら業界で最強を誇っていても、妹には敵わない高耶だった。
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