第065話 家族になっているのかもしれません
その青年の染めたような色ではない金の髪にはくすみがなく、眩く日の光を纏っていた。
表情がないわけではなく、
その少し離れた後ろからは、体に沿った黒のタイトドレスを着た浅黒い肌を持つ黒髪の美女。左側は、太ももの辺りまでスリットが入っており、健康的な足が魅力的だった。
彼女の瞳の色は黒に近い赤だ。それが
「た、高耶……あの人達は……?」
「金髪のが光の属性の『
イメージとしては勇者か騎士かという感じで、
「黒髪の方が闇の属性の『
「え……」
「ドラゴンって、あのドラゴン?」
これには、父も確認してくる。
「西洋風の、翼のある方のドラゴンだ。大きさは自由に変えられるんだが……まぁその……想像通りの大きさになれる……」
「……ドラゴン……」
そうこうしている間に三人がやってきた。満面の笑みで瑶迦が少しだけ頭を下げる。
「お待たせしました高耶さん」
「いえ。優希もまだはしゃいでいますから」
目を向けると、楽しそうに転げ回る優希と、それを近くで見守る天柳の姿があった。
「うふふ。気に入っていただけたようで嬉しいわ。あっちに小さな島も作りましたの。今度また見に行ってみてくださいな」
「では、今度フルーツの苗木を持ってきますよ」
「嬉しいわっ。南国のが良いわね。あ、でも臭いのは嫌よ?」
「わかりました」
ここの植物達の大半が、そうして高耶がプレゼントしたものだったりする。
そろそろピクニックの用意ができたかと振り向くと、そこにはいつの間にか南国リゾートを思わせる広いテントが張られていた。
「えっ……珀豪……これは……」
さっきまでは間違いなくただのピクニックシートを敷いただけの場所であったはずだった。
そして、その前には満足げな様子で腕を組み、それを眺める珀豪がいた。
《うむ。優希のはしゃぎようでは暑いかと思ってな。昼寝もできる日陰を作ろうと考えたのだが、ふと先日テレビで見たこれを思い出してな。優希が『お姫様のテント』と言っていたのだ。用意しておいて正解であった》
「……いつの間に……」
どうやら、いつか優希に『お姫様のテント』を用意してやろうと考えていたらしい。そうして、少しずつ布やらクッションやらを用意していたのだろう。
「これだけの物を、どこから? さっきは持ってなかったよね?」
樹が不思議に思うのも無理がない。持ってきたのは、日よけにと持ってきたパラソル一つと、大きなピクニックシートだけだったのだ。もちろん、それもそのテントの入り口にと使っている。
《我らは、小さな空間庫を持っておるのだ。ほれ、これだ》
手をかざした先に、小さな光の輪ができる。そこに手を突っ込むと、タオルを一つ引きずり出した。
《優希》
唖然とする父母を放って優希を呼ぶと、それに気づいた優希が目を丸くしながら駆け戻ってきた。
「すごいっ。おヒメさまのテントだぁ!!」
《うむ。気に入ったか》
「うんっ。ハクちゃんすごい!!」
キラキラとした尊敬の眼差しを向けられた珀豪は嬉しそうに破顔した。
《主よ。清晶を呼んでくれ。優希、手を洗って、服もキレイにしよう》
《優希。こっちでやりましょうね》
「は~いっ」
優希に甘い式神達を微妙な気持ちで見ながら、高耶は『清晶』と『綺翔』を呼んだ。
《なに、どういう状況?》
《清晶。手伝ってくれ》
《いいけど……洗濯? しょうがないな》
清晶の水で優希の服の汚れを落とし、すぐに天柳が温風によって乾かす。一時期、高耶が二人に頼んでやっていた方法だ。
仕事の関係で汚れた時、そのまま家に帰れば怪しまれると思い、考えた方法だったのだが、珀豪達は当たり前のように活用していた。
「高耶くんって、やっぱりすごいね……」
「俺じゃなく、式神達がですね……珀豪が完全にお母さんですし……」
あれほど世話好きだとは思わなかった。いつもは面倒くさがる清晶も、どこか嬉しそうだ。思えば、こうして同時に仕事以外で式神達を呼び出すことは今までなかったのだ。仲間意識というか、家族としての意識が芽生えたのかもしれない。
とはいえ、優希を少し甘やかし過ぎかなと思いながら見ていると、
「ん? どうした綺翔」
《ご飯……用意する……》
「あ、ああ」
綺翔は、
《あの綺翔がまともに喋っておるとは面白い。主よ。我を呼び出さぬ間に、随分と楽しい時を過ごされたようだな》
「っ……その……悪い……」
《ふふふ。別に怒ってはおらんよ。どれ、綺翔、手を貸せ。食事の用意をしようぞ》
《諾……》
器用にバランスを取って、黒艶は八段ほどある重箱をテントの中へ運んでいく。幸い、天井の高さはかなりあるので、長身の彼女が立っていても圧迫感はないようだ。
そこに小柄な綺翔が入り込み、せっせと重箱を並べ始めた。一緒に持ってきた取り皿や箸、飲み物なども用意していく。弁当を持たせてくれた藤は分かっていたらしく、ちゃんと式神達を入れた人数分の物が揃っている。
この状況を藤が予想していたと思うと、なんだか恥ずかしいような、嬉しいような気がした高耶だった。
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