トラッシュシティ⑥
「おめぇ、何してきたんだぁ。」
ルストの眉間には濃い影ができるほどシワが集まっていた。
「えぇ?“強さ”を手に入れてきただけだよぉ?」
軽く吹き出しながらリュートは答えた。
「俺もみんなと早く旅がしたいんだ!だーかーら、“強さ”を手に入れてきた。」
口調や動きを見て、明らかに調子がおかしいと、2人は分かっていた。
「これがあればー、足手まといなんて言わせないよぉ。」
ズボンのポケットから赤い液体の入った小瓶を取り出し、見せびらかした。
『げっほ!!!ごほっ!!』
エンジはせき込みながらハクの手を借り、上半身を起き上がらせる。
「エンジ、大丈夫か?」
『ああ。ちょっと当たったところ悪くて、気持ちわりぃけど。ごほっ!…。』
起き上がるエンジを見てリュートが話しかけた。
「あー!おはよーう。エンジ兄ーちゃん。」
リュートは軽い足取りで上空に飛びエンジの前に着地すると、早口で話し始めた。
「ねぇ?どうだったぁ?トンッて、一押しだよ?痛かった?ごめんねー、俺の“強さ”を感じてもらいたかったんだぁ。俺の強さが分かれば旅に行くことも認めてくれるかなぁって。どう?こんなの即決でしょ?いいよぇ?認めざるを得ないよね?」
エンジは、血が出るほど下唇を噛み締めた。
『…すまねぇ、俺のせいだ。俺が十分に思いやれていなかったから、俺の心も体も弱いからお前を守れなかった…。』
「はぁぁ?!守る???なに言ってんの?俺は強えぇよ!」
その時のリュートの顔は、化け物が取り憑いたかのような憎悪の込った表情だった。
「意地でも認めねぇってか?ああ、あー、なら認めさせてやるよ。確か前に、西の廃墟で戦ってきたんだよな!生き残りがまだいるかもしれねぇ、コアを取ってきて俺の強さを証明してやる!」
「やめろっ。」
リュートの近くにいたハクは、取り押さえようと左腕を取り背面に回ろうとするが、掴んだ腕は全く動かなかった。
「…なっんて力だっ…。」
リュートは、なめた横目でハクを睨んだ。
「ちぇー、ハク兄ちゃんってこんなに無力なのに生き残ってるんだぁ。」
掴まれた腕を振り払うと、その勢いでハクは木々をなぎ倒しながら森の中まで吹き飛んでいった。
「ちょっと、お痛が過ぎるんじゃぁねぇか?!」
すぐさまルストは追い打ちをかける。
「おっちゃんは一発KOだなー!」
リュートは問答無用でルストに殴りかかった。
〈ガシッ!!〉
「まだまだだな。ガキんちょ。」
ルストはリュートの拳を片手で掴み制していた。リュートはもう片方の手でも殴りかかるがルストはそれも掴み、力で抑え込む。
「まじか、、おっちゃんてほんとに強いんじゃん。…っく。」
「このまま抑え込んでおけば冷静になるかぁ?」
「ふふっ…。」
「なーに笑ってんだぁ、余裕ってか…あ、ぐっ、、嘘だろ?!」
笑い始めた瞬間から明らかにリュートの力が強くなり、ルストが抑え込まれ始める。
『リュートっ…。』
ダメージが残るエンジは立ち上がろうとするが、前に倒れこんでしまい朦朧とした意識の中まだ動き出せなかった。
「この力は体に入れて数分後から効力が出てくるからねぇ。こっからが本番みたいだぁぁ。」
リュートの身体がスライムのようにグニャグニャと激しく動き始めと、14歳の子どもはルスト並みの巨体へと変態した。
「あれぇおっちゃん小っちゃくなったぁぁ?」
「…こりゃ、まじぃなぁ!」
さっきよりも格段に力が上がっているが、ルストは負けじと抑え込む。
「おっちゃん、この力にも対抗できるの?!」
「ふんっ…!!」
「おらぁ!!!」
二人の力はぶつかり合い、衝撃で地面が抉れていく。
「ははっ!楽しー!楽しいねぇ!」
「俺は…!楽しかねぇよぉぉぉぁぁぁっぁ!!!」
さらに力を籠めると隆起した筋肉で袖が裂け、隠れていた刺青が顔を出す。
「あんまり“この力”は使いたくなぇんだがなぁ!!!」
するとルストの瞳と刺青が青く光りだし、一気に力が上昇し始め、リュートを抑え込む。
「うっお…まじでかっ?!」
リュートに焦りの色が見えた。
「おおおおるるるぅぅぅあぁぁぁ!」
ルストが籠めた力に刺青は呼応し激しく動き出す。初めは肩の位置にあった刺青は肘まで伸びていった。その時、
「ぐっ…。げほっっ!!!」
ルストの体内に激痛が走り、せき込んでしまう。
「隙ありぃ!」
リュートはルストの力が弱まった一瞬の隙で組み合った手を離し、ルストの後頭部を鷲掴み地面にめり込む程叩きつけた。
『お、親父!』
「ああああああああ!気分がいいぜぇ!ハウンドでも余裕でぶっ殺せるわぁ。」
『だめだっ!行くなっ!』
「何百個でもコア持って来てやるよ、んで、しっかり俺の“強さ”を証明してやる。おめぇらは指くわえて待ってろ。な。」
リュートはエンジの方を軽く見た後で、ドスドスと足音を立て西に向かった。
リュートの姿が見えなくなり、エンジは自分の無力さに襲われ、地面を殴る。
『…ああああああ!クソっ!ごほっ…ここで止められなかった…。あああ、痛って…。』
リュートに不意打ちされた胸の中心が痛む。
「お前がダウンするくらいの衝撃だ。…俺も大分投げ飛ばされた。」
森から出てきたハクが合流する。
『あの小瓶の中身はなんだ。』
「ふんっ!、、、っしょ。」
ルストは地面にめり込んだ頭を自力で抜き、座り込む。
「はぁ、やばいことには変わりねぇし、これ以上使わせるのもよくねぇだろうなぁ。、、げっほ、げっほ。」
『大丈夫か?てか、親父が“青光りバカパワー”使ってるの、かなり久しぶりじゃね。』
「それぐらい今のリュートの力が強くてピンチだった。てか昔からのその言い方、、、げっほ、やめろ、げっほげっほ。」
久しぶりに使ったせいか以前よりも負担がデカい気がする。――と体に異変を感じるルストにハクが手助けをする。
『すまん、ほっておくようで悪いけど、だいぶ回復したから俺は先に追いかけるぞ!』
「ふぅ、、俺も大丈夫だ。一緒に行くぜぇ。」
ハクの肩を借りてルストは立ち上がった。
『齢なんだから無理すんなよ。』
「煽ってんのか?一発ダウン坊主ぅ?」
『あん?だとぉ!』
「2人とも元気そうで何よりだ、急ぐんだろ?先に行くぞ。」
ハクは西に走り出すと、あわてて二人もその後を追いかけた。
―トラッシュシティ西門
守衛はいつものように門を見張っていると、商店街の奥から人の騒めきが近づいてくる。そして遠くから巨体が門に向かって走ってくるのが見えた。
「ん?騒がしいな、あれなんだ?…ルス、トさん…?」
するとその巨体は、門の40m手前で大きく飛び上がり、壁面に掴みかかると、壁をよじ登り、門の上に消えていった。
「おいおい!なんだあれは?!」
上を見て戸惑っていると、遠くから叫んでる声が聞こえた。
『守衛さーーーん!開もーーーーん!!』
「ん?エンジくん?…あれ?ルストさんにハクくんも!」
『あいつ追いかけてるから開けてくれぇーー!』
「ああああ!か、開もーーん!」
守衛は急ぎ指示を出し、門を開かせる。
『ありがとー!』
「事情は帰って説明する!」
「…。」ハクは軽く頭をさげて行った。
外門までの長い通路を走り抜けていく三人。
「わかりましたー!お気をつけてー!」
向かう途中でハクは2人に話しかけた。
「ちなみにさっきのなんだ、その“青光りバカパワー”?っていうのは?」
『そうか一回もハクは見たことねぇのか。それは俺が子どものときに付けた親父のパワーの名前だ。』
「この力自体は、若ぇ時に使えるようになったんだ。最後に使ったのはいつだったか、4、5年前か?」
『いや、俺がまだ小さかったから7、8年前?いや、もっと前?かも。』
「2人とも曖昧な記憶だな。ルストが使えるようになった若い時って具体的に何歳だ?」
「えっ…いくつだぁ、あの時、若いからな…ええええぇ…
「…。」
2人が揃って確かな記憶を持っていないことにハクは疑問を持った。
『あーー。もう、後にしよう、もっと早く走れるだろ?』
少し後ろに身体を向けて催促する。
「そうだなぁ、今はもっと大事なことがある、すまんハク。」
「…ああ。」
—ハクは3年前、師より命じられた言葉を思い出していた。
その日は修業が終わったあと、師匠に連れられエンジとルストが宿屋で食事しているのを建物の屋根から遠目で見ていた。
いつものように淡々とした口調で師匠が話し始める。
「ハク、私は少々やりたいことがあってね、しばらく頼まれてくれないか。」
「はい。あの二人の事でしょうか。」
「ああ。あの親子と行動を共にし、監視をしてほしい。」
「監視、ですか。」
「彼らは実に温厚な性格を持っている。ましてや強い人材であれば受け入れてくれるだろう。」
「あの二人に詳しいんですね。」
「ふっ、こちらは探るな。その間私は“彼”を受け入れる準備をする。」
「…はい。」
師が“彼”と称する人物のことをハクは知らない。
「連絡もしなくていい、君が思うように監視し行動しなさい。あと、彼らは都市屈指の強さを持っているからね。実戦を積みたがっていた君にもいい経験になる。」
「承知いたしました。」
この日から師匠とは別かれ、2人に近づけるように策を練り、数日後に実行。そして今に至る。3年共に過ごしたが二人の無垢な行動は監視に値することではなかった。しかし、さっきの“ルストの謎の力”は一つのカギであることには間違いない。あと、“ルストの思い出せない過去の記憶”と“力に関する2人の曖昧な記憶” 今は急いでいるとはいえ、普通、力を手に入れられれば、そんな衝撃的な出来事を忘れることの方が難しいだろう。やっとこの任務の糸口を見つけた気がする。
多分、師匠が望むのは“彼らの過去の記憶”についてだ。
彼らの過去の記憶が穴抜けにされたように曖昧なものになっている。まるで意図的に消された…?
―もしかして、誰かの手によって記憶をコントロールされている?いや、あくまで仮説だが現実的にそんなことが可能なのか?
この消えた記憶の中に重大な何かが隠されている。
そして、師匠は過去について何か知っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます