76

 女子更衣室でジャージに着替え、私達はグラウンドに向かう。女子マネージャーの鈴木先輩に色々と教わりながら、部活の準備をする。


「マネージャーって、体力も忍耐もいるのよ。安易な気持ちでマネージャーになると、必ず数日で辞めちゃうわ。好きな男子やカッコイイ男子がいるからとか、そんな理由ならNGだからね」


「下心なんて全然ありません!」


 百合野の入部は下心アリアリなのに、鈴木先輩に嘘を吐いた。


「鈴木、新人マネージャーには優しくしろよ。他にマネージャーのなり手はないし、貴重な人材なんだからな」


そうは女子に甘いんだから」


 颯と呼ばれたのは、山梨先輩だ。創ちゃんと同じ呼び名に、ますますドキッとした。


「お蝶、部活で名前を呼び捨てにするな」


「そっちこそ、お蝶だなんて呼ばないで」


 山梨先輩に「あっかんべー」と舌を出す鈴木先輩は、無邪気で可愛い。


「あっ、南。誤解しないで。お蝶と俺は幼なじみで親友なんだ。変な関係じゃないから」


「変な関係って、どんな関係よ。颯はね、幼稚園までオネショしてたんだよ。それに部屋の整理整頓もできないし。爽やかなイケメンの振りしてるけど、意外とだらしないんだから」


「それは幼稚園の時だろ。お蝶こそ、男勝りで男子トイレ使ってたくせに。いつか自分は男子になれると思ってたんだから」


「煩い、煩い。それも幼稚園の頃の話でしょう。早くランニングしなさい」


 まるで子供の喧嘩だね。

 でも二人とも楽しそう。仲がいい証拠だ。


 山梨先輩は他の部員と一緒に、グラウンドをランニングした。その様子を見つめる鈴木先輩の眼差しは、さっきまでの眼差しとは異なり、女子の目をしている。


 その優しい眼差しに、すぐにピンときたんだ。


 鈴木先輩は、もしかして……?


「あっ、誤解しないでね。私と颯……、山梨君はあくまでも幼なじみだから」


「はい、山梨先輩の子供の頃の秘密をもっと教えて下さい」


 百合野の言葉に、鈴木先輩はちょっと困り顔をした。


「山本さん、マネージャーと部員の恋愛は禁止だから。恋愛したら退部なんだよ、わかった」


「退部? 厳しいー……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る