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 【礼奈side】


 お兄ちゃんが追い返した相手は、桐生君だった。桐生君は門の前に立ち尽くし、二階にいた私に『おいで』と言わんばかりに手招きをした。


 何の用だろう?

 どうして家がわかったのかな。


 それが知りたくて、私は部屋を飛び出した。サンダル履きのまま玄関を飛び出し、桐生君に駆け寄る。


「どうしたの? 桐生君」


「うわ、超可愛いな。制服試着したんだね」


「うん、明日入学式だから着てみたの。似合うかな」


「すっごく似合ってるよ。めちゃめちゃ可愛い」


「ありがとう。桐生君、よく私の家がわかったね」


花沢はなざわの家で、中学の友達と卒業パーティーしたんだよ。そしたら花沢が南の家と近いって言うから」


「花沢君と友達だったんだ。学校であまり話してなかったから、友達だなんて知らなかったよ」


 花沢君は不良グループに属していた男子。桐生君は中学校で成績優秀な爽やか王子だったから、二人が友達だったなんて、今まで知らなかった。


 桐生君は二階の窓を見上げた。

 ぼんやりと映る人影、白いレースのカーテンが揺れている。


「南って、お兄さんが二人いるんだね。さっき見たお兄さんは南と全然似てないね」


 お兄ちゃんが二人?

 そっか、創ちゃんのことをまだ勘違いしてるんだ。


「えっと……。さっき玄関で応対したのが私のお兄ちゃんだよ。ショップで会ったのはお兄ちゃんの友達なんだ」


「お兄さんの友達? どうして南がお兄さんの友達と? 合格発表も二人で来てたよね?」


「あのね。実は……付き合ってもらったの」


「えっ? 付き合ってもらった? 合格発表に付き添ってもらったのか?」


「そうじゃなくて、私達交際してるの」


「う、嘘だろ? だってどう見ても大人だし」


「私とは四歳離れてるから。彼は大学生なの」


「まじで? 南が年上の大学生と交際してるのか?」


「うん」


「お……驚いたな。あの人が……南の交際相手だったなんて」


 桐生君は一瞬キツい眼差しになったけど、すぐにいつもの爽やかな桐生君に戻った。


「そっか、彼氏がいたんだね。南に彼氏がいるなんて意外だったな。でも俺の気持ちは変わらないから。彼氏がいても変わらないから。じゃあ、明日入学式で」


 俺の気持ちは変わらない?

 それって……?

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