【2】お姫様の誘惑
これはキスではありません。ただの消毒です。
15
【創side】
―翌週―
「創ちゃーん! キスして」
……きた!!
必殺技『キスして』攻撃。
この攻撃は、避けても避けても俺を狙い撃ちしてくる。
その攻撃にヤられてしまう前に、礼奈の体を引き寄せ、額にキスをして自分の気持ちを落ち着かせる。
唇を離すと礼奈は嬉しそうに笑った。
「エヘッ」
まじで……可愛い。
もう一回キスしたい。
唇にキスしたいなんて、そんな贅沢は言わない。今はゆでたまごみたいな艶々の額で十分だ。
「ねぇ、創ちゃんギューッてして」
「はっ? ギュッ?」
姫め、新たな攻撃に出たな。
次の必殺技は『ギューッてして』攻撃とは。お主、年下ながらなかなかやるな。
「うん! ギューッって、ねっ、ねっ」
そんなこと、そんなこと、俺が出来るわけないだろう。
頭の中で俺の理性と欲望が闘っている。
女の子を『ギューッって』すると、男はどうなるかわかってんの?
俺の理性が欲望にボコボコにされちまうんだよ。
「ダメ! ギューッて、しない」
「どうして?」
「どうしても」
礼奈は俺を日々悶絶地獄へと突き落とす。
「じゃあ、礼奈が創ちゃんをギュッてするね」
よ、よせ。や、や、やめろ。
余計なことはしなくていい。
寄るな、触るな、抱き着くな。
それなのに、小悪魔な姫は両手を広げ俺にムギューッて力いっぱい抱き着いた。
「ひゃあー……! や、やめろおぉぉー……!」
俺はガムテープのように貼り付いた礼奈を、必死で引き剝がす。
礼奈は「くふふふっ」と、目尻を下げて俺にくっついて離れない。
じゃれているつもりなんだろうけど、俺はもういっぱいいっぱいだ。
こんなことをすれば脳内に蔓延る欲望が増殖するだろう。
や、やばい。
すでに欲望だらけだ。
そこに『バァーン』と現れたクソ真面目な理性。
よし、まだ何とか対峙できる。
「礼奈、俺のことをからかってるのか? 悪趣味だな」
「悪趣味? 好きな人とハグするのは悪趣味なの? パパやママもハグするし、大好きな創ちゃんとハグすることが悪いことなの?」
俺に抱き着いたまま、礼奈は捨てられた仔猫みたいに悲しそうな顔をしてグスンと鼻を鳴らした。
泣いてる?
ちょっと……言い過ぎたかな。
いや、この顔に騙されてはいけない。
これは姫の裏技『噓泣き』攻撃だ。
俺の反応を見て、俺の気持ちを試しているに違いない。
でもそれが礼奈の作戦だとしても、やっぱり俺は負けてしまう。
だって、めちゃめちゃ可愛いから。
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