第92話 エスペルの到着

 神の再生の知らせは、全てのセラフィム達を活気付けた。

 長城の東門周辺を警備するセラフィムたちも、天空の宮殿をふり仰ぎ、気持ちを高ぶらせていた。


「もう少しだ、もう少しで我らはこの狭い結界の中から解放される!」


「ああ、新たな天界が開かれるのだ!」


「なんの話をしてるんだ?」


 背後から割り込んできた男の声に、警備セラフィム達は振り向き、目を見張る。


「貴様、人間!?」


「そんな、ここは結界内よ!?」


 ここは死の霧の内側、さらに長城の内側であった。


「れ、例の人間……エスペルだ!」


「人間め、神の再生なされた神聖な日を汚す気か!」


 エスペルは顔をしかめた。


「神の再生!?天界開闢の第二段階か!第六段階で人類が滅びる天界開闢、一段階進んでしまったのか!」


「なぜ貴様がそれをっ!」


「ライラと同じく監獄送りにしてやる!」


「監獄送り?」


「ああライラは死刑以上の最高刑で決定だ!」


 エスペルは苦い顔をした。


「くそ、やっぱり!」


 警備セラフィムの一人が霊体化防御の印を結ぶ動きをしたのを、エスペルは見逃さなかった。

 剣を振り抜き、一瞬でそのセラフィムの懐に飛び込むと、一突き。男は目を飛び出さんばかりに見開く。貫いた心臓から剣を引き抜きながら左手を高く掲げ、唱える。


特大電撃ギガ・ライデン!」


 エスペルの左手から発せられた青白く太い稲妻が、その場にいるセラフィム達に直撃した。数名が一瞬で黒焦げになり、その場にバタバタと倒れた。

 一人のセラフィムを除いて。


 なぜか稲妻を受けなかった男に、エスペルがつかつかと近寄る。

 仲間全てが一瞬で殺害された状況におののきながら、男は腕をエスペルに突き出した。


「し、し、死ねッ!!」


 その手から発せられた思念波は、しかしエスペルのセフィロトを壊すことはなかった。


「くそっ!」


 唇の色を失う男の目前まで来たエスペルは、その突き出た腕をつかんで後ろ手にねじ上げた。地面に伏せさせ、


「お前だけ生かした理由は分かるな?ライラの送られた監獄ってのはどこだ」


「だだ、誰が言うかっ!」


 エスペルは男の背中に左手をあて、


「——破魂クリファ・セフィラ


「くはっ……!」


 男はまなこと口を苦悶に丸めた。その脳内では自らの魂構成子セフィラが一気に三つ破壊される、パリンという音が響いていた。

 メガ魔法じゃなくてもこの威力。いくつかの戦いを経て、エスペルの力は確実に上がっていた。


「俺は他のセラフィムに聞いてもいいんだぜ」


「や、やめ……」


 エスペルはもう一度、セフィロト攻撃を放つ。


「ぐああっ……ほ、北方にある……上から見ると六角形の……人間供が作った建物を再利用して……」


「ルヴァーナ監獄か!」


 男はウンウンと頷いた。


 エスペルは左手から魂攻撃を再び放ち、最後の一個を残して魂構成子セフィラを破壊した。

 男は絶叫の末、気を失った。


 全人類の命を背負うエスペルは、もはやセラフィムたちに手心を加える意思は一切なかったが、約束は守らねば。


 エスペルは北方を見据える。


「待ってろよ、ライラ……!」

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