第59話 傀儡工房村、襲撃(8) 死者への祈り
エスペルは作業部屋全体を見回した。悪臭を放つ汚泥のような暗黒物質や、赤色に発光する液体を入れた壺がそこかしこにあった。
エスペルはライラに尋ねる。
「あれが材料か?」
「ええ。ヘドロみたいな黒いのが肉体の材料。赤い液体が原液って呼ばれる、
「どうやって破壊したらいいだろう」
「肉体の材料は普通に燃やせるわ。
「やってみよう。——
霧雨のように、聖なる光の粒がその場に降り注いだ。
これはまだ悪霊化していない、浮遊霊や地縛霊を霊界に送り届けるための、弱めの神聖魔法だ。
「うん、成功だな。これでやって行こう……」
その時、ガチャリと扉を開けるものがあった。
一人の職人セラフィムが入ってきたところだった。
「なっ……!こ、これは!?」
部屋の中の惨状を見て、おののいている。
エスペルとライラを交互に見て、
「に、人間と矮小羽のライラ!?ひいっ、こいつらやべえ!!」
ドアをバタンと閉め、そのまま逃げ去っていく。
「行っちゃった」
「うかうかしてらんねえな、今のうち全部ぶっ潰そう。他の材料の保管場所はどこだ?」
「ほら奥のドアよ、保管庫って書いてあるでしょ」
「いやセラフィム語の素養はないのだが……この怪しい謎文字か」
二人は保管庫の内部に入った。
広い部屋で、片側には肉体の材料である黒い塊、片側には
全て元々は、人間であったものだ。
ゾッとするような光景である。エスペルは顔をしかめながら、
「俺がやろう。ライラは作業部屋の方、見張っていてくれ」
「分かったわ!」
保管庫に一人残ったエスペルは、火炎魔法と神聖魔法でしらみつぶしに材料を処分していった。
「こんな大量に保管しやがって。人の亡骸を、人の魂をなんだと思ってんだ……。これで安らかに眠ってくれるといいが……」
全ての作業を終えると、エスペルはその場にかしずいた。
こうべを垂れ、手を合わせ、祈りを捧げる。
命を
保管庫のドアがガチャリ、と乱暴に開けられた。
振り向くとライラが焦りながら、
「まずいわエスペル、外が騒がしいの!」
「なに?」
エスペルも作業部屋に戻り、窓辺に駆け寄って外をうかがった。
先ほど逃げて行った職人セラフィムが、他の職人セラフィムや甲冑服を着たセラフィムを伴ってやって来るところだった。職人セラフィムが説明している。
「はい、そうです矮小羽のライラと人間です。いや確かに人間です見てみてください!」
エスペルは窓から身を離した。
「ちっ、応援を連れて来たか」
「一緒にいるのは警備兵たちよ。職人よりは強いわ」
「全部破壊したしもうここに用はない」
「奥に裏口があったわ、裏口から外に出ましょう!」
「よし、行くぞカア坊!」
「カア!忘レラレテルト思ッテタ、ゾ!」
カア坊は梁の上から舞い降りて来た。
二人は裏口から外に出た。
警備兵たちが入って来るのと、すんでの差だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます