第20話
とある貴族の屋敷
「クソッあの馬鹿王子め、計画を狂わせおって。」
この貴族は第1王子の家庭教師の主人の主人のそのまた主人で第1王子が一種の選民思想を築かせる発端になった人物である。しかし今回の事件では逮捕はされておらず、精々家庭教師の主人が処刑されるぐらいであった。
だがこれで彼が動きづらくなったのも事実である。
彼は元より選民思想、金銭思想とも呼ぶべき戦後を作った日の本の転生者だった。それほどの逸材であったが故に彼の野心と共に賛同する者は多く一つの大派閥として成り立つには十分すぎるほどの人材が集まっていた。
「あのガキがいなければ。」
ギリギリギリギリ
歯軋りの音が部屋に響くぐらいに怒り散らしていた。
第1王子の教育方針はいわゆる根性教育、それとは真逆のサボりにサボりまくっていた第九王子が言葉で打ち負かしたのだ悔しく無いわけがないだろう。
自分がその教育方針で成り上がった経験があるがためにプライドも高くなるそれを粉々に叩き伏せられたのだ。
アレンは元よりそれだけの文章を考えるだけの頭脳は転生前から持っていた。だが活かせん彼はコミュ障の部類で筆談なら話せても声を発することは難しかった。だが、転生して以来スキル『怠力』によって喋る能力が勝手に鍛えられたため今回のようなことが起こったのだ。
「酒だ!酒を持ってこい!!」
もはや飲まずには居られなくなったのか使用人に酒を持ってくるよう言わせた貴族はドスンと平民の一生と同じ金額のソファーに座る。
侍女がワインを持ってくると早々にグラスにワインを注ぎ一気に煽る。安物の焼酎を飲んでいた死ぬ前の時代よりはいい生活をしているが彼はバブル時代の経験者でもありあの頃の贅沢過ぎる生活が忘れられずに居たためもっと成り上がりたいという野心の方が遥かに高かった。
「第1王子は処刑された次は第2王子の角が立つだろう。しかし奴はうちの派閥では無い。うちの派閥の予備として教育していた第3王子になるようにしなければ。」
あの事件で第9王子は生死不明だが十中八九死んだだろう。この国の医療技術では輸血こそあるが電気ショック技術は無い。死因は多量失血によるショック死が妥当なところ。そうでなければあり得ない。そう思い来なければ貴族の気は晴れないのだった。
だが止まった心臓を動かす猛者がアーレギオン ガレリア クライスとも縁を持っていたことに彼が気づくよしもなかったのであった。
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