第16話

ガヤガヤと外野も騒ぎ出した。俺は一人野次馬で身を乗り出す。


「貴様は成してはならない罪を犯した。それはこのレーン・アイーヌン男爵令嬢を虐めたことだ。」


何通かこっ恥ずかしい事言う王子だな。俺とは大違いだがしかし妙だ。この国の人間の集団特性は日本よりもヨーロッパ、特にイタリアに近い国民性を持ったものが多い気がしたのだがその環境下でいじめが発生するとは考えづらいな。


「そのようなことは一切しておりません。」


「嘘をつけ貴様の取り巻きから問いただしての発言は取れているのだぞ。貴様が昨日の朝に彼女の教科書を全て持ち出せとの命を受けたとな。」


やはり何かおかしい。何故兄上である人物が何の接点、きっかけも無しにある一つのいじめを特定しようなぞありえない。

日本の悪しき習慣とも呼べるいじめを目の当たりにしてきた自分だからこそ感じる疑問。いじめに対して裁きを行う人物は二通りある。


一つは自分がいじめられた経験のある者、

もう一つは人間観察が上手く密告者と言う形で止めようとする者。


兄上ことモーベルの立場に置いてこれらの行動が合致しないのだ。


まず王子だからよほどの素行不良のコミュ障でもない限りいじめられることはまず無い。パーティーのど真ん中でそんなことが言えるんだ。いくら酒の入ったテンションハイでもそこまでやる奴は少ない。


続いて二つ目だがこれもまず無い。証拠が証言のみしかも昨日というタイミングで断罪をかけようとする人物は密告者という観点から言っても証拠不十分過ぎるし今現時点での段階では俺からすると自分が優れていることに優越感に浸っている馬鹿にしか見えなかった。


公爵令嬢は言葉を失っていた。正確にはこの馬鹿王子というのが目に見えていた。もはや自分の発言を一切耳にしないし陛下ですら頭を抱えていらっしゃるのだ。覆すのは国の権威に関わるだろう。


「貴様の家の汚職も出てきているぞ。」


とモーベルが紙を出そうとした時、俺は思いついた。この国で今現在最も優秀な人材を手に入れる大チャンスだと。自分がヒモになる為の第一歩だぜ。


「兄上、僭越ながら今宵のことは私めの社交界入りに対する恩赦という形で彼女自身の罪と公爵家の汚職の件は私目に預からせてはいただけないでしょうか?」


そのときの顔は天使のような笑顔を張り付かせ中身は悪魔のような笑い声をしていたと偶々社交界に居た心を観れる魔力を持った宮廷審問官は話していた。

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