第34話 宇宙ヤバイ

 ウェーイ! 6話振りに俺様のターン! って久々すぎんだろ!!

 いくら最近鈴代視点が多いからって、主人公はこの俺ちゃんなんだからな。忘れんなよ!


 あと業務連絡! 今後ソ大連側の人達との会話はいちいち断らないけど、毎回機械翻訳やそれよりも原始的な手段で恙無つつがなく行われている、と言う設定なのでヨロシク! 普通にソ大連人のセリフも日本語になるけど気にしないでね、と言う事だ。


 と言う訳で我々は今、『輝甲戦艦すざく』に乗り込んで、仇敵『鎌付き』を倒すべく、宇宙へとやって参りました! ヤバイ! 地球キレイ! 超キレイ! 俺の知っている地形と色々と違うけど! そんでもってそうなっちゃったヤバイ理由も知っているけど、とりあえずはスンゲーキレイ!!


 いやぁ、この光景を見る事が出来ただけでも、この世界に来た甲斐があったってもんだよ。


 え? 「なんでそんなにハイテンションなのか?」って?


 だって宇宙だしな。それに『かつての敵と手を取り合って、新たな強敵に挑む』と言う、どこぞの少年漫画みたいな展開も気分が盛り上がるじゃあないか。


 そして何よりあの・・鈴代ちゃんがメイド服着てファッションショーをやってくれたんだぜ!


 いつもの凛とした表情を崩すまいと、でも着慣れない服装でむくつけき男どもの視線にねぶられて、やっぱり堪え切れずに顔を赤く染めてしまう。

 そんな鈴代ちゃんに「萌え萌え!」な訳ですよ!! 分かって頂けるかなぁ?!


 あのメイド服は件のグラコロ大尉の私物を、鈴代ちゃんが貰ってきた物らしい。

 何でもソ大連の若い女の子の学校制服、というかフォーマル服はエプロンドレス、我々の言うところの『メイド服』らしいのね。それもアキバでよく見る露出を上げたなんちゃってメイド服じゃなくて、昔ながらのサービス感ゼロのモッサイやつ。


 だがそれがいい……。


 あと兵器な。ロシア製の銃器。俺もほとんど対戦シューティングゲームでの知識でしかないけれど、ロシア製の銃器って俺好みの渋くて良いデザインしてるんだよ。


 今まで居た東亜連邦の武器って、輝甲兵用に新しくデザインされていて、如何にも『SFでございっ!』って感じのスタイリッシュな物ばかりなんだ。

 性能は良いのかも知れないが、四角い知育ブロックを5つくらい使って組み上げた様な、角張って小ぢんまりとしたデザインばかりでロマンが無かった。


 一転してロシア製の輝甲兵用の銃器は、人間用の銃器をそのままアップサイジングして使っているのね。

 だからゲームで見慣れたAK47カラシニコフ小銃とかRDM機関銃とかがほぼそのままの形で使われている。


 未来型のロボに現代型の突撃銃アサルトライフルとか、これぞマリアージュってやつじゃなかろうか?


 てな感じで俺はすこぶる機嫌が良かった。


 あと何となくだがソ大連軍は雰囲気が良い。俺の漠然としたロシア人観として「常に酔っぱらっている」があったんだが、これがあながち間違っていなかった事が大きいな。


 俺様の優秀なカメラアイによれば、輝甲兵パイロットを含むティンダ基地職員の7割は懐にウォトカのミニボトルを隠し持っていた。

 あんなアルコール度数の高い酒をグビグビ飲んで仕事が出来るなんて、やっぱりロシア人は凄いんだな。

 俺なんか缶ビール1本飲んだらすぐ寝ちまえるってのに。


 まぁ今だから言える事だけど、今まで居た東亜の連中は基本硬いんだよな。

 俺の居た世界の日本はアメリカとの戦争に負けて、その結果自由化した。


 けれどもこの世界の日本は、軍国主義のままの日本が勝っちまった物だから、その頃の無骨な精神がこの時代でも根強く残っている。

 数百年前の軍歌を威圧目的で使ったりとかな。そんなやり方はクールじゃないぜ。


 それが良いか悪いかは何とも言えない。俺がやりたくないだけで『質実剛健』という精神は尊い物だと思うし、逆にこの世界には多分『萌え』と言う概念も無いのだろう。


 かと言って元の俺の世界の様に、国土が堂々と侵略されているのに、その侵略者を手助けする様な言説がマスコミに溢れているのもおかしい話だ。


 漫画やゲームもこの世界ではそれなりに発展している様だが、色々と規制だの検閲だの入っている気がする。

 鈴代ちゃんから小遣いを貰えればこの世界の電子書籍の何冊か買って読むのも悪くないかも知れない。


 あれ? そう言えば俺、まだ一度も給料とかそれっぽいものを貰っていないな。これは酷いロボ差別だ。落ち着いたら長谷川さんに文句言わないとな……。



 …話がズレたな、えっと要は国によって軍隊も色々あるんだな、って話だ。

 いつか今のアメリカ(全米連合)とかドイツ(欧州帝国)の様子も見てみたいものだが、幽炉の寿命的にまず無理だろうなぁ……。


 もちろんソ大連がソ連=ソビエト社会主義共和国連邦を元にした国だと言う事は知っている。共産主義とか矯正施設グラーガとか、恐ろしい監視と粛清の国だと言う事も、知識としては知っている。


 軍国主義の日本と共産主義のソ連、元の世界では両方とも俺が生まれる前に無くなってしまった物だけど、この世界では俺の時代から更に数百年後なのに、両方とも制度として生きているんだよな。


 とても不思議で複雑な気分になるよ……。


 ☆


 さて、と言った所で俺は今、生まれて初めての宇宙遊泳を満喫している。

 鈴代小隊が宇宙での訓練飛行をしているのだ。


 なんでもソ大連の宇宙基地に着いたは良いが、寄港に『待った』が掛かったらしい。詳細は分からないが、『すざく』と俺達日本チームが原因なのは間違い無いだろう。


 寄港許可が出るまで半日ほど時間が空いてしまったので、その機会に宇宙での慣熟訓練をやりたいと鈴代ちゃんが申し出たのだ。


 宇宙と地上では当然輝甲兵の運用法も変わってくる。宇宙には(気にする程の)重力が無いし、地上には(気にする程の)慣性が無い。

 例えば宇宙では1の力で移動すると、進んだ方向に向かって永遠に1のスピードで移動し続ける、途中で自然に速度が落ちる事は無い。


 単に1の力を同じ方向に3回吹かせば『通常の3倍のスピードで接近してきます!』も宇宙では簡単に出来る事なのだ。

 問題は3のスピードを制御して動かせるかどうかであって、行って止まるだけでなく、上下前後左右に慣性のつく高速運動をして、宇宙空間で自分の位置を見失わずに機体を制御するのがどれほど難しいか、って話なのよね。


 鈴代ちゃんによると、あの『天使』でも地上で実戦でのリハビリを望んだ様に、一度体がどちらかに慣れてしまうと、なかなか修正が効かなくなる物なのだそうだ。


「今回の訓練目的は宇宙での輝甲兵の機動に慣れる事、そしてソ大連製の武器の慣熟です」


 鈴代ちゃんが部下のβベータからζゼータに命令を飛ばす。

 訓練用の動きまわるターゲットドローンを追って、射撃を命中させる、と言うゲーム、もとい訓練だ。


 まずは1人ずつ、お馴染み訓練用のペイント弾を使ってドローンを追う。

 βベータの人とγガンマの人は機体が30サンマル式、つまり以前は小隊長以上の立場の人だった、と言う事だ。階級も鈴代ちゃんと同じ中尉らしい。

 鈴代ちゃんの方が後から中尉になったのに、上の2人を差し置いて隊長になったんだから、やはり鈴代ちゃんは凄い子なのだ。まぁぶっちゃけ俺のおかげだけどな。


 さすがに中尉で30サンマル式ともなればベテランなので、2人とも難なくドローンを捕捉、着弾させてきた。


「口径が大きいせいか結構跳ねるな、この銃は」

「あぁ、慣れるまで時間かかりそうだわ」


 宇宙機動はともかく、不慣れなロシア製の武器には課題が多そうだ。悪い武器じゃぁ無いんだよな、慣れの問題だけで……。

 まぁ、俺もゲーム知識でしか語れないんだけどさ。


 本来は銃の反動で体ごと動いてしまうが、輝甲兵は銃に合わせて機体を調整する事で、反動を打ち消すベクトルの推力を自動で噴出して銃の反動を相殺しているらしい。

 なにげにこれも凄いメカニズムだよね。


 続く24フタヨン式から段々と挙動が怪しくなってきた。デルタちゃんはまだ『少しやってたら勘を取り戻しました』といった感じで「大丈夫? …大丈夫そうだね」と言う感想だったが、

 次のεイプシィζゼータの2人はボロボロだった。


「くそっ! 何でドローンに追いつけないんだ?!」

 εイプシィくん、それは君の空間認識が甘くて、他の人より3割くらい余計に大回りしているからだよ。


「す、すみません…」

 ζゼータちゃん、君はまず覇気が足りないぞ! 『必ず仕留めてやる!』と言う気概を持たないと戦場では長生き出来ないからな。


 などと軍曹キャラを演じてみるが口には出さない。鈴代ちゃんが「そこは突入角度を何度に」とか「出力を何%まで絞って」とかえらく具体的な助言をしていたからだ。邪魔したらめっちゃ怒られるからな。


 そんなこんなで楽しく(?)訓練している鈴代小隊を怪しく見つめる1機の輝甲兵がいた。元・長谷川さんの、今は天使が使っている黒い30サンマル式だ。


 いや別に怪しくは無いんだけどね。興味あるんだか無いんだか分からない挙動で1人寂しく飛んでいるから『仲間に入れて欲しい』のかな? と思っただけだ。


 訓練も終わりに差し掛かり、新人のεイプシィくんとζゼータちゃんも、そこそこドローンを捉えられるようになってきた。

 鈴代ちゃんが自ら実演してやり方を教え、彼らの機動に対して細かく助言している。


 元が理屈っぽい女だから、その助言もなかなかに的を射ていて新人ズの飲み込みも早かった。

 でも新人教育にも適正を見せるとか、やはり鈴代ちゃんは多才だよな。


《やってみせ、言って聞かせてさせてみて、褒めてやらねば人は動かじ… ってやつかな?》


 俺がポツリとこぼした言葉に鈴代ちゃんが反応する。

「あら、貴方も山本元帥のお言葉を知っているの? …良い言葉よね」


《まぁ、その辺の時代までは同じ歴史だからなぁ。この間の『軍艦マーチ』だって知ってたぞ?》


「へぇ〜」


 鈴代ちゃんが感心したような顔をする。まぁ俺の知っている山本さんは元帥になる前に戦死したんだけどな。その辺の事は言わなくても良いだろう。



「…なぁ、ピンキー」


 おもむろに天使から通信が入った。訓練の終わり間際に声を掛けてきたって事はそれなりに空気を読んで待っていた、と言う事か?

 結構可愛い奴だよな、天使って。


「…この前の俺達の模擬戦は決着してないよな? ここでその続きをやらねぇか?」


 いきなり『やらないか?』とかデリカシーの無い奴だなぁ。鈴代ちゃんだって女の子なんだからもっとムードを作ってだねぇ……。


「…………」


 鈴代ちゃんは無言のまま、ちょっと嫌そうな顔をしていた。訓練自体は鈴代ちゃんは大した動きをしていないので、疲労が理由では無さそうだ。


《ここでタイマンしても多分勝てない。部下の目の前で天使相手とは言え無様を晒したくない。で、なんとか断る口実を探している… と》


「…貴方って時々腹が立つくらい的確に私の心情を見抜いてくるよね」


 だって鈴代ちゃん分かりやすいもん。


「ねぇ、ちょっと良いかしら?」


 通信に割り込みが入った。ソ大連のグラコロ大尉だ。ロシア製の特機に乗って、いつの間にか近くまで来ていたようだ。


「そっちの黒いT-30の貴方、貴方連合トップエースの天使アーンギル田中だって言うじゃない? 零式に乗ってなかったから分からなかったわ」


「…あぁ? なら俺がその呼ばれ方が嫌いだってのも知らなかったか…?」

 天使の言葉に殺気が孕む。


「もちろん知ってるわよ、天使くぅん」

 …煽りレベル高いぞグラコロさん。


「…よし、お前からぶっ飛ばす…」


 鈴代ちゃんの雰囲気を読んで助けてくれたのかな? それとも天使と手合わせしたかっただけかな?

 どちらにしても鈴代ちゃんは、ここで余計な恥をかかずに済んだ。


 やっぱり宇宙ヤバイ。


 次回、天使vsグラコロ。


 鈴代「グラコ『ワ』さんだからね!」

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