第十七話 オトモダチ。(平穏)
「でも、だったらどうしてすぐに否定しなかったの?」
「うーん」
何と答えた物か。
俺がすぐに否定できなかったわけ、それは——。
「た、例えば、阿知賀さんは隠れオタクだったわけじゃん?」
「うん」
「それは、く、クラスの空気的にそうせざるを得なかったってことでしょ?」
「まぁ、そうだね」
「そ、そんな阿知賀さんより陰キャの俺が、すでに浸透した噂を、ひ、否定できると思う?」
いや、出来ない。
出来ないんだな、これが。
挨拶もまともに出来ないボッチが、知らない人に話しかけて「それ、違うから」とは言い辛いのだ。
具体的には「あ、うん(何こいつ、元々そこまで興味なかったのに、自意識過剰?)」とか思われるのが怖い。
え? ボッチの癖に人からどう思われるか気にしすぎだって?
別に好きでボッチやってるわけじゃないんだなぁ、これが。
「なるほど。よくわかる、その気持ち」
阿知賀さんが分かりを共有してくれた。
やはり神は何でも聞いてくれるのだ。
彼女は頷いた後、こちらに顔を向けて——
「だったらどうするの?」
と、尋ねて来た。
ほんとそれ。
どうしよう。
「知恵的なものをお貸しいただくことは可能でしょうか」
「何その言葉使い。いや、良いけどさ」
「あ、ありがとう」
二人で非常階段に腰掛けて、遠くに海を眺めながら考える。
……ナニコレ、超青春じゃんね。
阿知賀さんとの距離は拳ひとつ分ほど。
わわわ、照れちゃうねぇ~。
「あっ、そうだ」
「なになに?」
何かを思いついたらしい阿知賀さん。
「陰キャだから訂正できない。なら、陽キャになればいいんだよ」
彼女が何を言っているのか分からない。
そんなもの、なれるものならなっている。
「い、いや、それは難しいじゃないかな」
絶対無理、と言いたいが、提案してもらっている立場なので、そこはかとなく拒絶の意思を示す。
「大丈夫、最近根暗の主人公がクラスの人気者になるって感じの小説読んだから」
「あ、あぁ、結構昔からあるよね」
でもあれって元々素材良いじゃん。
素材良い子がお洒落したら人気者になりました、って話じゃん。
根暗な男の子がチート持って異世界に召喚されたらハーレム作りましたって言うのとそこまで変わらないじゃん。
どっちも神様からもらった
俺の様なブサメンがそんなこと出来るはずないじゃん。
「そんな感じで、どうかな?」
「う、うーん」
「まぁ、嫌ならいいんだけど……でも普通にそのぼさぼさの髪は切った方がいいと思うよ」
「か、顔に自信ないから」
「それ、よく言う人いるけど、前髪が長かろうがあんまり関係ないよ」
え、マジ?
「う、嘘でしょ?」
「ホント。アニメとかだと影が落ちて隠れてるけど、リアルはばっちりわかるよ」
そ、そうだったのか。
一人落ち込んでいると、そうだ、と阿知賀さんが手を叩いた。
「土曜日暇?」
「え、あ、うん。忙しい日は今までなかったけど」
隙あらば自分語り。
やめたいと思ってるのにやめられない自虐。
根暗ボッチここに極まれりって感じで泣きたくなるね。
「そっか、じゃあさ遊びに行かない?」
「うん。……ん? うぇ!?」
「髪切るのと、映画でもどう?」
どう? と言われても。
というか、これってもしかして。
もしかしてのもしかして。
ででで、デートと言うやつなのでは?
ちらりと阿知賀さんを見る。
彼女は俺の方は向いておらず、海の方を眺めていた。
しかし、その頬は妙に赤くて——夕焼けのせいなのか何なのか。
そんな期待を抱いてしまう程度には、状況が状況だった。
「じゃ、じゃあ、土曜日。お願いします」
「了解」
こうして、人生初めてのデートの予定が立った。
「それじゃあ、お話をしよう?」
一通り、相談事が終わると、阿知賀さんはこちらを向いて告げる。
いつもの無表情&ジト目が最高にキュート。
「お、お話?」
「うん、昨日はずっと喋りたいって思ってたのに、今日、こんなことになっちゃったから」
「そ、そうだね」
「昨日も話してたけど、今期のアニメ何見てる? あ、異世界もの見てるって言ってたっけ? だったらそれと私の奴、どっちが面白い?」
「あ、阿知賀さんの方が個人的には好きだな」
「そう思う? 特にどの辺が?」
そう言えば忘れていた。
彼女はちょっと怖くて、面倒臭い性格をしているんだった。
俺は噛みながらも好きな場所を教えていく。
最近の人気作と比較して、阿知賀さんの作品を褒めていく。
その大半は実際に思っていたことなのではあるが、少々誇張表現で褒めてしまうのは、まぁ、お友達特権ということだろう。
日も傾き、夕焼けが夜へと移ろい始める。
「やっぱり、佐藤君はいいね」
そろそろ帰ろうかと話し下駄箱へ向かってる最中に、彼女はぼそりと呟いた。
「そ、そう!?」
いきなりなことで動揺したが、案外恋愛対象的な感じで見られていたりするのだろうか?
「うん、いっぱい褒めてくれるから凄い気持ちいいんだぁ♡」
「……そ、それは良かった」
それでも可愛いと思っちゃうし、何なら軽く好きになりかけてしまう自分は、やはりボッチなのだろう。
†
駅でお別れした後、家まで歩く。
玄関の前に到着すると鍵を開けて、室内に侵入した。
そうして、干しておいた洗濯物を部屋に取り込んでいると、ピンポーン。
インターホンの音。
いったい誰だろうか。
そんな風に思いながら玄関に赴きドアを開けると——。
「一緒に晩御飯食べない?」
食材と思しき袋を手にした天使、曽根川さんがそこには居た。
マジかよ、やったぜ。
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