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 ドス…ッ「ぐお………っ!」

 

 「オラッ!朝はよくも俺に舐めた態度取りやがったなぁ、杉山のくせに!テメェはまだああやって俺らに反抗する気かよなァ!?クソ陰キャが!!」


 昼休み。体育館裏にて俺は中村とその仲間らによって集団暴行を受けている。

 参加者は中村と小西、二人と仲が良い前原優まえはらゆたか。去年まで眼鏡だったがモテたいとか何かでコンタクトにしたみたいやけど、ただの雰囲気イケメンや。あと香水が臭い。


 さらに去年同じクラスだったこともあって俺を酷く敵視して虐めに加わった本山純二もとやまじゅんじ。元野球部でその名残か坊主に近い髪型だ。部活を辞めたからか腹はだらしなく出ていてデブ体型だ。


 その本山と仲が良く、一年の時に下らない因縁を理由に俺を締めやがった谷里優人たにさとゆうと中林大毅なかばやしだいき。二人ともサッカー部で、谷里は筋トレに励んでいたせいで無駄にガタイが良い体型の剃り込みいれた短髪イキり野郎だ。反対に中林は身長は小西より背が少し高い程度でそんなにがっしりはしていない茶髪がかった黒髪の男子生徒だ。


 暴行には参加していないが俺のやられようを見世物にして嗤っている見物勢の清水と野球部の青山祐輝あおやまゆうきと同じ部の井村遼いむらりょう。二人ともくせ毛髪で前者は谷里並みのガタイで後者は運動部のくせにだらしない体型をしている。


 時々現れる板敷いたしきななと吉原蒔帆よしはらしほらも今日は参加していて、俺を嘲笑いながら見物している。二人とも茶髪に染めて無駄にスカートを短くしている。

 板敷は(認めたくない)が美少女に分類されるルックスで体つきもそこそこだから(認めたくないが)エロく感じるが、吉原は顔はブスやわ丸太みたいな脂肪だらけの脚してるわで、ただ気持ち悪くて不快だ。


 今日は運悪く、虐めの主犯格が全員揃って俺を虐げにきた...。



 「お前いい加減にしろよ杉山よォ?お前がそうやって生意気に反抗してくるから俺らを怒らせてこんな痛い目と恥ずかしい目に遭ってるんやろが。俺らの下僕になるか学校来るの止めるかどっちかにしろや!

 お前みたいなゴミなんか誰も必要としてねーんだよ!ぎゃははははははっ!!」


 谷里が俺の頭を踏みつけながら嫌と言う程に俺を貶して侮辱しながら嗤いやがる。谷里の足に爪を立ててに掴みながら反論する。



 「お、前らが...学校辞めろや...!人をこんな風に寄ってたかって虐げるような人間のクズのお前らこそ、死ねばええんやっ!!腐ったゴミども――」

 「何足掴んでんねん!!クソが痛ぇじゃねーかごらぁ!!」


 ガスッッ!「...っつ!」


 反論しても反撃しても奴らには大して効かなかった。いつも3~5人以上の徒党を組んで俺を甚振り辱めて理不尽な虐めを強いてくる。人の尊厳をこれ以上ない程に汚しやがる最低のクズどもだ。

 それなのにいつまで経ってもコイツらが裁かれることはない。大したお咎めは無し。

 それどころか俺まで悪者扱い。小学校時代で起こした件を引き合いに出して俺を危ない人間判定を下して俺を助けようとしやがらない。


 進行形で被害をいちばん受けている俺が、現時点では弱者の立場にいる俺が何一つ救われないでいる。加害者どもは今も俺を嗤いながら虐げている。のうのうと生きている...。

 


 「はっはっは!面白っ!俺もう戻るわー」


 シャッター音鳴らして俺のやられ様を撮ってから立ち去る見物人どもと主犯格どもが去った後は、ただ惨めな俺が悔しさに地面を殴る光景しか残っていなかった...。






  「そろそろ問題として取り上げてくれよ江藤先生!!ホンマは知ってるんやろ?俺があいつらに虐められてるってことを!何で世間に明るみに出さへんのですか!?早くあのクズどもの蛮行を止めてくれよっ!!」

 「......私も教頭先生や校長先生に言ったんやけどな?先生らはできれば虐めが明るみに出るのを避けたいゆーてるから、私ら学年の担任でどうにかしようって話になってるんやけどな。

 それに前に杉山は私らを君が虐められてる場所に数回連れて来てたけど何も起こらんかったやろ?それもあって中々な...」

 「何で...何で俺だけ損してるんや...。担任でさえソレって。世間体を優先にして俺はどうでもええやと...!?ふざけんな...!!」

 「......ごめんな。私らが今度彼らを呼んで話するから、もう少しだけ我慢しててな」



 もう何度目か分からない教師への説得は、今日も虚しく失敗して終わる...。 

 学校の同級生と大人どもは当てにならない、俺を助けて救ってはくれないと確信した。

 家族も駄目、警察も相手にしてくれない、その他の相談所も論外...。

 誰一人として俺の味方になってくれる奴は存在しない...。


 当然、俺の心は荒んでいくばかり。こんな世界滅べば良いと、いつも思うようにもなっていった。


 勉強の方も底辺まっしぐらとなっている。

 井村遼のせいで成績をどうにかする為に入った学習塾を辞めさせられて、成績は落ちる一方だ。


 もう発狂してもおかしくない精神状態だ。いや、以前外で実際に発狂して補導されたことあったっけ。

 その時に虐めの事情を説明したけどまともに取り合ってくれなかったよな...。


 今日も惨めな気持ちのまま下校する。俺を知ってる同級生どもは俺を避けていく。クラスカースト上位を気取ってるイキり不良集団に意見も出来ない、俺以下の弱者どもは、俺に関わると自分にも飛び火がかかることを恐れてか、俺から離れる・関わらないことを選びやがった。中学の最初の頃仲良くしていた奴らも今や他人同然だ...。


 

 「あ、杉山ー。なな喉乾いたからさー。レモンティー買って来てやー」



 惨めな気分に浸りながらの帰り途中で、板敷とその仲間ども(今日は全員女子)と遭遇してしまう。第一声がパシリに行けとは、どこまで俺を下に見やがるんやこのクソ女は...!


 「嫌に決まってるやろ。虐めに加わってる最低のクズが...!」

 「はぁ?なながクズとかあり得へんし!なならは別に杉山をボコってもないのに何で虐めてることになってんのー?ホンマ性格悪いわー!」


 仲間に聞こえるように俺の評価を下げる発言をして俺を悪者扱いする。一緒にいる吉原に加え、一緒にいる佐藤や嶋田とかいう女子らも俺を酷いだの最低だのと詰ってくる。鬱陶しいから足早に彼女らから去った。


 「中村たちに言ったるからー。杉山に酷いこと言われたってー」


 板敷はそうやってあいつらに俺のことを悪く言って虐めを助長させることをいつもしやがる。これも虐め行為と呼ぶべき最低行為だ...!


 「クソ女どもが...っ」


 俺はただ悪態を吐くことしか出来なかった...。






 「なァ、いつになったらこのクソッタレな生活は終わるんや?死んだら終わるんか?死んだら異世界にでも転生させてもらってそこで幸せライフ送れるんかな...?」



 帰宅後、自室で俺は誰に向けることなくそう呟いてしまう。


 いっそ死んでみようかとも考えた...が踏みとどまる。自殺なんかしてやるもんか。ここで死んだらあいつらに負けたことになる。俺がここで死んでもあいつらは少々の罰を受けるだけで、解放された後はのうのうと生きていくに違いない。あるいはその罰すら免れるかもしれない。俺が死んだって何にも報われない。不名誉の犬死と何ら変わらん...。


 では学校を辞めるか?これも自殺と同じ負けを認めることになる。悪いのはあいつらで、あいつらが断罪されて裁かれるべきなんや。あいつらが退学にでもなれば俺が勝つんや。けどその道もほぼ無いやろな...義務教育制度がそれを邪魔するから。

 

 ならどうすれば、この理不尽なスクールライフを終わらせられるのか?これしかない......あいつらをこの世から消す、抹殺や!

 あいつらが死ねば俺を虐げる人間は消える。たとえ新しく俺にちょっかいかけてくる奴が出てきても今の加害者ども程ではないやろうから何なと対処できる。


 ではどやって殺す...?一軒一軒回ってあいつらの家に火をつけて、出てきたところを刺して殺すか?それをやったとして、警察の目を誤魔化せるか?バレれば少年院もしくは刑務所にぶちこまれてそれで俺の青春は終わることになる...。


 けど俺に残された手段は、もうそれしか無い...。味方がいない以上自分で何とかす。即ち...敵を排除すること、これに限られる。殺す、それしかない...!



 「そうや、あいつらが悪いんや...。理不尽に虐げてくるあの最低糞蛆カスゴミクズどもが死んだって誰も傷つかへんやろ...。俺は被害者やった。だから殺した。罪は軽いはずや、絶対…っ」


 ...果たしてそやろか?現状味方がいないこの世の中は、虐めの加害者どもを殺した俺に情状酌量を汲むやろうか?下手すれば俺はもう二度と日を見ることが出来なくなってしまうのでは...?



 「......ははは。虐めのせいで、心弱なったんやろうか?それともまだ理性がきちんと働いてるんか?」

 

 だとしたら今ばかりは理性を憎く思う。あいつらを殺したい気持ちは本物やのにいざ実行しようとなると先を恐れて凶器を持つ気が失せてしまう。



 「アカン...詰んでるわ自分。何なんやこの人生!どうせえゆうねん!?俺を助けてくれやぁ、神か何かよォ...!!」



 己の無力さと心の弱さを嘆きながら俺は布団で唸るように叫んだ。





 ―――本来ならこのまましばらく慟哭をあげて、やがて虚しくなって漫画か何かを読み始める。それが正規ルートだった......





 はずだった。





「――――あ?」


 ――――カッッッッッ



 突然視界が真っ白になった。同時に頭の中まで真っ白になるという錯覚が起こった。


 「―――っへ?」


 まるで頭の中が、何かに取り憑かれたような感覚だ。

 俺はしばらく奇声を上げた後、意識を失ってしまった......。






 『杉山友聖ジュウゴ才ニ35才ノ時ノ同一人物ノ全テヲ“引継ギ”完了致シマシタ。』

 『アップデート終了致シマシタ。コレデ“引継ギ”作業ヲ終了シマス―――』




 ―――ブツン...ッ






*茶ば.........ヘイト溜め回はここまで。次回から残虐で非人道で人間の皮を被った悪魔な彼が帰ってきます。

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