32-1


 社会人時代の最後の復讐相手は...遅川どもを庇って俺をクビにしやがった当時の社長…杉浦俊哉だ。

 現在のあの清掃会社の社長は、奴の息子だそうだ。そいつとも仕事やったっけ、印象薄くて全く憶えてねーけど。


 遅川の家から瞬間移動して、先にかつて勤めていた会社...オネストメンテナンスのところに着く。

 若干建物の色が変わっていて、社用車が2台止まっている。今も少ない社員で仕事をしているようだな。

 中に侵入して見渡すと、やはり部屋の様相は変わっていた。道具が新しくなってたり、ロッカーが増えてたり、机が新しくなってたり...まあまあ変わっていた。


 「......ここに来ると余計に思い出してしまうな。当時感じたあの怒りを、憎しみを...!嫌なことしか思い出せねーよ...!」


 そして、感情のまま暴れて、この会社を粉々に破壊した。人に見つかって騒がれる前にその場から消えて、適当な建物の屋上へ移動する。


 「どう考えても遅川が悪かったのに、あいつを友達を庇って俺をクビにしやがった、杉浦…。そんなお前を赦せるわけがない。あんな理不尽を許容してる社会も同罪だ!!

 だから、杉浦を殺した後は、その社会も全部壊してやるよ。何もかもな...!」


 全部言葉に出すことで気持ちを落ち着かせたところで、再び移動を開始する――




 清掃会社オネストメンテナンスから約2キロ程離れたところにある一戸建ての家...杉浦宅。


 仕事を終えた現社長の嘉喜よしき(50)は、元社長の父俊哉(82)と母と3人暮らしをしている。


 「明日は...早いんだったな?何時に出るんだ?」

 「7時には会社から移動しないといけないから、その30分前には出ようと思ってる」

 「最近入ってきた子は、どんな様子だ?」

 「覚えが早くて、指示もすぐに聞いてきてくるし、しっかりした子だ。あれなら3人社員でもやっていけそうだ」

 「まったく......家の時くらいは仕事以外の話をしたらどうなんよ?嘉喜、休みは次いつなんだい?」

 「あー、休みは......」



 そうやって穏やかな家族間の雑談はしばらく続く......と思われた。



 「ドガァン!...ってな。俺参上!」

 


 目的の家に着いたと同時に中から聞こえてきたのは、聞くに堪えない家族団欒の雑談。

 ...ムカつくんだよ、俺を排除した奴がそうやって楽しく暮らしているというのがよ...!


 さっきの会社のように怒りに任せて玄関ドアを爆破して家に侵入した。三人とも突然の事態に固まったままでいた。



 「二十年以上ぶりでーす、社長...あ、今は元社長かぁ。遅川たけしのクソ老害と同様、今はそうやって余生を楽しく過ごしてるってわけか...。

 さぞ楽しいんだろうなぁ。社会人時代でつくった友達と遊んだり、家族とお気に入りのドラマを観たりとか。

 それはそれは...充実した老後生活をなさってますねぇ!?」



 俺の狂気じみた発言に、寝台に座っている杉浦元社長は眉をひそめて俺の顔をまじまじと見る。その目は“どこかで見た顔だ”...と言いたげだった。


 「......君は、以前僕と仕事したことがあった、かな?」

 「あったも何も、お前が社長だった頃に入社して、理不尽に解雇された男やろうがっ!!」

 「なん、だと...!?な、名前を聞かせてくれ...」

 「ハァ......杉山友聖だ」


 俺の名を聞いてしばらく思案した後、杉浦はまさかと目を見開いた。


 「そうか......たけし君と揉めて、そのせいで君を解雇してしまって...。ところで、これはいったいどういうつもりなんだ?」

 「へぇ?今までの奴らと違って割と冷静じゃねーか。意外と胆力あるじゃねーか?遅川…あのクソ老害とは違うぜ」

 

 いつもの様に標的を見下して煽って嘲笑うところから始めてやる。残りの二人は…ババアが電話を手にして通報するところ。 

 息子の方は......ほう、スタンガン持ってきたぞ!アレはドンキにも売ってた防犯用のスタンガンやな?


 「おい若いの...。親父に用があるみたいだが、これは不法侵入および器物損壊にあたるぞ。これで痛い目見る前に早くここから消えてもら......」

 「そんなもので俺をどうこうできると?やってみろよ、ほら。もたついてるとここでひと暴れしても良いんやで?」

 「く......正当防衛だ...!おおおっ!」


 挑発されたところで躊躇いを無くした息子社長が吠えながらスタンガンで俺を殴りつけてきた。それを片手で受け止める。同時にスタンガンから電流が流れる......が、俺には全く効いてない。

 異世界でたくさんの炎・雷などをくらってきた俺に、現代世界の...それもこんな非殺傷道具なんかが効くわけがない!

 作動中のスタンガンを力いっぱい握って粉々に砕いてやる。


 「は...?ばか、な!?」


 よほど衝撃的だったらしく、息子社長は間抜け面を晒して壊れたスタンガンを見つめる。それを雑に吹き飛ばして、杉浦の前に立つ。


 「さて、俺が何でここに来たのか...今さら何の用かについて途中やったな?

 復讐や。あのクソ老害を庇って俺の収入源を潰しやがったお前に対する、な...!」


 殺気を飛ばしながら低い声でそう告げる。


 「復讐...。そう、か......君は僕に恨みがあってここに。さっきたけし君の名前を出してたけど、まさか君は...!?」

 「ああ。少し前に奴の家に押し入ってぶち殺してきたところや。ヤニカスで幼稚な精神でクソ自分勝手思考の老害のアイツは死んで当然のゴミだったからな。いや~~、実の孫二人に“死ね”って言われたときの奴の面と言ったら……ぷぷ、ははははははははは...!!」

 「......」

 「お前さァ、よくあんなのと友達でいられたな?あいつは人前で喫煙するような勝手過ぎるクズだってのに。友達選び失敗にも程があるやろ、ええ!?」


 「...たけし君は、そんな男じゃない......と言っても、君の中でのたけし君はどう足掻いてもそういう評価になるんだろうね...。そう決めつけている以上は僕がどう反論しても無駄というわけか」

 「まだ遅川のことを“誰かを貶めるようなことはしない男”だと思ってたのかよ。下らねー。

 まぁそういうわけで、お前も復讐対象にしてるから...とっととぶち殺されろや」


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