お留守番のひと時1

(本編26~28話くらい)


「今日もいい天気だなあ」


 ぼんやりと呟いた。

 レイチェルお嬢様とリーフさんは「パッサン卿を味方につけるため通いつめよう大作戦」のため王宮図書館に出かけている。私はいつもお留守番だ。


 私はマリー。レイチェルお嬢様にお仕えするメイド。


 留守はマリーに任せたわ、とせっかく二人が言ってくれているのだ。その役目は果たさなければと思う。けれど私も外に出て二人の役に立てればいいのに、なんて考えてしまうのだ。だって、いつもいつも大事な仕事はリーフさんが抱えてしまうから。

 

 リーフさんはかっこよくて大好き。代々バルド家に仕えている由緒正しい家柄の人間だし、努力をたくさんしているのも知っている。なによりお嬢様のことが大好きで必死になっているところが好き。


 そんなリーフさんと比べて、私はどうなんだろう。私はただの孤児だし、仕事だってドジばかりだ。リーフさんのことは大好きなのに、ときどき彼女の存在が、私は――。


「ご機嫌よう。そんな憂鬱な顔で空を眺めてどうされたんですか?」

「ひゃいっ、え、ジルさん?」


 突然声をかけられたと思ったら、そこにはライラ様の使用人であるジルさんが立っていた。まぶしい微笑み。わあ、イケメンだあと思うのと同時に頬が熱くなる。それを自覚してしまうと恥ずかしくて、さらに熱がこもってしまう。

 わたわたと慌てる私をジルさんは笑った。恥ずかしい。それにリーフさんに嫉妬している自分なんて人に見られたくなかった。


「――えっと、なにかご用でしょうか」

「リーフと話がしたかったのですが、いらっしゃいますか?」

「すみません。リーフさんは今外出していて。私でよければご用をお聞きしますが」

「そうですか――、大した用事ではないので大丈夫です。またリーフがいるときに出直しますね」


 はあ、と間の抜けた返事しかできなかった。


 ジルさんの用事、なんだろう。

 リーフさんからライラ様との協力関係のことは聞いている。それに関係する話だろうか。


 ライラ様はレイチェルお嬢様の名誉回復のために動いてくれている。そんなライラ様が協力者に選んだのはリーフさんだ。やっぱり、リーフさんはすごい。


 またむくむくと黒い気持ちが湧いてきてしまう。それを振り払いたくて、ぶんぶんと頭を振った。こんな自分は嫌いだ。


「――ああ、そうだ。リーフからあなたはお茶を淹れるのが上手だと聞きました。ちょうどお昼時ですし、ご一緒にランチはいかがですか?」

「え?」


 ふいにそんなことを言うと、ジルさんはにこりと微笑んで首を傾げた。


 突然の申し出を断る術が私にはなかった。どうぞと招き入れて調理場に二人で向かう。普段私とリーフさんが使っている調理場にジルさんがいるのはなんだか不思議だ。

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